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2.剣士襲来そのに

1.剣士襲来そのいち の前に登場人物紹介を入れました。

初登場の人は乗っていませんが。

 センさんを案内して、はるばる上空1300m。

 そろそろ落ちたら死んじゃう頃合い。←とっくにレッドゾーン

 天然の岩棚の中でも、特に広いそこに足場を確保して。

 縦横無尽に飛び交う何かが微かに見えた。

「見えました。勇者様です」

「は? あれが?」

 怪訝な顔の、センさん。

 どうやらまだ、勇者様が黒い豆粒程度にしか見えないのでしょう。

 時々忘れるけど、私の目って普通の人より良いみたい。

 特に人間の国の人と比べると、有り得ないほど目が良いって勇者様に言われました。

 育った環境故だろうと、疲れたように。

「ほら、彼処ですよ」

「あの小さな蚤みたいな? よく判別できるな…」

「個人の特定は容易ですよ。最近此処で修業しているの、勇者様だけですから」

「なるほど…?」

 そう言う間にも、私達は上昇していて。

 やがてセンさんの目にも勇者様が識別できるようになって。

 センさんが、叫んだ。


「いつの間に人間やめたんだ!!?」


 勇者様の背中には、黒い翼が生えていた。

 うん、誰だってそう叫んじゃうよね。

 愕然とした顔で、食い入る様に勇者様を見るセンさん。

「………人間やめるにしても、なんでよりによって堕天使」

「勇者様なら白い翼の方が似合いそうですけどねー」

「それは笑えるほどの空々しさだな。似合いすぎて腹筋崩壊するぞ」

「いえいえ、神の寵児と崇め奉る人続出するだろうと私は睨んでいます」

「そうしたらお布施取るか」

「一儲けできそうですね」

 受け入れがたい現実に、そっと目をそらすセンさん。

 気を紛らわせるように、虚ろな目。

 私は気にせず、勇者様に声をかけました。

「ゆーうしゃーさまあーっ」

「って、お前はあの翼見ても何も思わないのか!?」

 横合いから驚愕の声。

 私は真顔で返します。

「もう見慣れました」

「見慣れるほど前からアレなのか!?」

 戦々恐々と、センさん。

 私はふっと目をそらし、おちょくることにしました。

「深くは知らない方が幸せですよ…?」

「なんなんだ、その意味深な発言」

 恐れ戦くセンさん。

 だけどネタ晴らしは別方向からやってきた。


「リアンカ、今日も来てくれたのか?」


 黒い翼をぱたぱた動かして、勇者様が直ぐそこに。

 鳥の背中を覗き込み、驚いて目を丸くしました。

「センチェス・カルダモンか…!?」

「よ、勇者サマ…驚かそうと思ってきて、俺の方が驚いたぜ。とうとう人間やめたのか…?」

 旧友らしき相手にまで、とうとうとか言われるなんて。

 勇者様、郷里にいる頃から相変わらずだったんですか?

「別に俺は、人間をやめたつもりはない」

「嘘吐け!? それじゃ、その背中のものは何なんだ!」

「これは……借り物なんだ」

「何処の世界に翼を貸すような奇特な鳥がいるんだよ!?」

 この五分後、彼はその奇特な鳥を目にすることに。


 勇者様の反応を見るに、センさんが勇者様の親しいお友達なのは確かなようで。

 どうやらヨシュアンさんと黒い取引をして始末をお願いしなくても良いようです。

 良かった。黒い考えを実行に移さずに済んで。

「リアンカ、リアンカ……その黒い考えとやらが口から出てる」

「あ、しまった」

「はははははは………」

 顔を引きつらせる、人間の青年二人。

 私は取り繕うように、笑顔を浮かべて。

「いざという時は此処から突き落とさなきゃかな~なんて余計な気を回して疲れました!」

「全然取り繕えてないぞ、リアンカ……」

「あ、つい本音が」

 うっかり、心の声をオブラートに包み忘れたようです。

 失敗、失敗!

 私がえへっと笑うと、センさんはさっと目をそらしました。

「俺、もう絶対にこの娘と二人きりにはならない…」

「賢明な判断だと思うけど、彼女は口で言うほど危険じゃないから安心しろ。

………実行するにしても、まず自分の手は汚さないタイプだ。すくなくとも、ばれる形では」

「それ全然安心にならないぞ!?」

 私という人間を知らない相手の、新鮮な反応。

 もう慣れてしまった勇者様は、うんうんと頷きながらもさらっと流しておいででした。

 比較して分かる現実…勇者様もちょっとは図太く成長していたんですね。

 良かったね、勇者様☆


 わあわあ騒ぐセンさんを、私達は軽くいなしまして。

 弁当を持ってきたことを申告し、お昼休憩タイムを宣言しました。

「ああ、丁度キリの良いタイミングだ。そろそろ十五分経つ頃だったんだよ」

「やっぱり、飛行時間は十五分以上延びないんですか?」

「これ以上は無理、とカンに言い切られた。これ以上は墜落の危険を覚悟しないと駄目だそうだ」

「そこまでは思い切れませんよねー」

「ああ」

 センさんには全く意味不明の会話を繰り広げ、私達は岩棚へと降り立ちます。

 その途端に、勇者様の体がぽんっと軽い音を立てて光りました。

 目を染める光が収まった時、そこに翼の生えた勇者様はいません。

 翼のない、ノーマル勇者様と黒い三本足の烏がいました。


 カーバンクルの狩り祭騒動の時、勇者様がゲットした新たな(しもべ)

 太陽神の御使い烏・官九郎です。

 ちなみに名前を付けたのは、私でも勇者様でもありません。

 だからと言ってまぁちゃんでもなく。

 誰かといえば、誰ともなくと答えましょう。


 私達の村には、各地から集まった様々な孤児がいます。

 まあ、魔族さん達が節操なく拾ってきたわけですが。

 その中には未開の地やら、遠すぎる遠地やら、様々な場所の出身者がいまして。

 とある僻地出身の一派が、いつしか勇者様の連れている烏を官九郎と呼ぶようになっていました。

 なんで?って聞いたら逆に「烏と言えば官九郎でしょ」と返されました。

 それが周囲にも伝播して、いつしか烏の名前として定着しまして。

 西方の出身である勇者様には言いにくい名前らしく、略称のカンという呼び名が普及しました。

 そんな訳で、今では(もっぱ)ら烏はカンちゃんと呼ばれています。


 カンちゃんが、囀るような可愛らしい声で喋りました。

『ごはん!』

 相変わらず、食欲の権化です。

「って、うぉ!? 烏が喋った!」

「新鮮な反応、ありがとう。センさん」

「なんでお前らは動じないんだ…」

「慣れだ、慣れ」

「勇者様も大分慣れてきましたからね~。まだ他人(ヒト)のことは言えないと思いますけど」

「こんなものに慣れるお前らが怖い」

「慣れないと魔境じゃやっていけないぞ…」

「………お前、荒んだな」

 大事な物(常識的な判断基準の一部)を失った勇者様。

 その背中はなんだか寂しそうでした。

 私達は反省しないけどね!

「それじゃあ、お弁当を広げましょうか」

「やっほー、リアンカちゃん。お弁当持ってきてくれたの?」

「うん。まぁちゃんのお手製だよ☆」

「うっわぁー、滅茶苦茶恐れ多~い」

 いつしか自然と会話に加わる、新たな影。

 ヨシュアンさんが、さり気なくセンさんの隣に!

「…って、誰だあんた! いつの間に!?」

「俺はヨシュアン! 今の間に、参上!」

 キラッ☆と空々しい笑みで返すヨシュアンさん。 

 その姿には、無視できない人間にはない部分。

 間近にその両翼を見てしまい、センさんがぎょっとした。

「…魔族!!」

 途端、殺気立つ。

 目がキリリと吊り上がり、噛み締めた奥歯が軋み。

 形相すら、殺意に染まる。

 今までの困った顔の好青年、という雰囲気が一変する。

 今にも襲いかかりそうな、獣のような。

 全身が、ぎゅっと飛びかかるためにバネを縮め…

 跳ね上がろうとした、絶妙のタイミングで。


 勇者様の拳がセンさんの後頭部に炸裂した。


「ッ!?」

「ヨシュアン殿、今の内に空へ!」

「なになに~? この程度の相手、俺なら秒殺だよー」

「秒殺されたらまずいから、空に行ってくれと頼んでいるんだよ!」

「仕方ないなあ」

 ぱたた、と背中と顔の横に生えた翼を羽ばたかせ。

 お空の上に、ヨシュアンさん。

 殴られて地面にめり込んだセンさんは、後頭部を押さえながらのろのろと立ち上がる。

 頑丈だ…。

「いてぇ…何してくれんだよ!!」

「魔族と見ると後先考えず、見境なく飛びかかるのは相変わらずみたいだ」

「それ別に責められるような事じゃねーだろ!?」

「彼我の実力差を考えずにやったら早死にするだけだって、何度も言っただろう!」

 がるる、と呻る獣の様に。

 険悪な雰囲気で睨み合う勇者様とセンさん。

 空気が悪いね。

「よし」

 私は小さな革袋を取り出すと、息を吹き込み膨らませ…

 

 パンッッッッ


「「!!?」」

 吃驚した顔で、私に振り返る二人。

 私はにこっと笑って、岩棚の床を指差した。

 綺麗に整えられたシートと、広げられた弁当箱を。

「ここで、暴れるつもり、ですか?」

「「……………」」

「お弁当、台無しに、するつもり、ですか?」

 ゆっくり、区切り区切りに問いかけます。

 気まずそうに目をそらす、大の男二人。

「貴方達は、お弁当を作ってくれた方の、真心を台無しに?」

「………すまない」

「ん、勇者様は素直で結構! それでセンさんは?」

「………」

「このお弁当を作る労力を、無碍にしようと? 道案内した私への返礼が、その仕打ちですか?」

「…………………………すまん」

「よし、ひとまずは良いでしょう」

 お弁当を作ったのは私じゃなくて、まぁちゃんだけどね。

 言ったら激怒しそうだから、黙っていましょう。

 うん。お弁当を完食してから暴露しようかな。


 大人しくなった二人を強引に座らせて、お弁当タイム開始です。

 まだ若干ふて腐れたセンさん。

 こうして見ると全然年上に見えませんね。子供みたい。

 だけどさっきの暴挙を放置もできません。

 私はお弁当の中身を取り皿に分けてあげながら、事情聴取を開始しました。

「それでセンさん、何もしていないヨシュアンさんにどうして襲いかかろうとしたんですか?」

「何もしていないって…魔族だぞ?」

「知っていますが、何か拙いですか?」

「いや、魔族なんだぞ?」

「それが何か…?」

 本気で分からなかったので怪訝な顔をしていたと思います。

 センさんは信じられない物を見たと、露骨な顔で。

 次いで、私にまで殺気を向けてきました。

 すかさず、その頭を勇者様が(はた)きます。

「善良な……………善良? うん、善良…、な地域住民に無節操に殺気を向けるな」

「勇者様………その間は一体なんですか…?」

「……………」

 失礼ですね、私はこんなに罪のない顔をしているのに!

 目は口ほどにものを言う勇者様の取り皿に、アスパラ(軽くトラウマ)をプレゼントです!

 嫌そうに肩を落としながらも、素直に食べる勇者様。

 育ちが良いので出された物はちゃんと食べるんだよね。

 何も言わずとも罰を甘んじる勇者様は良いでしょう。

 問題はセンさんですね。

「センさんは、魔族さん達がお嫌いなんですか?」

「お嫌い? 相手は魔族だぞ。そんなもので済むか!」

「しかし郷に入っては郷に従えと申しまして」

「………は?」

「魔境に来たからには、此処なりのルールに従って貰わないと」

 でないと、生き残れませんよ?

「……!? いまなんか、背筋がぞわっとしたぞ!」

 不吉な予感は、多分当たりです。

 勘が鋭い人は説明の手間が少なく済んで大歓迎です!

「魔境で魔族と堂々敵対して、人間が長生きできた試しはそんなに多くありません。皆無ではありませんけれど。無計画な対立、挑発、襲撃は命取りですよ。無節操な襲撃は周囲の迷惑です」

 勇者様は除く。

 『勇者』は伝統的に『魔王の獲物』という認識が定着しています。

 その上、現在の身分がハテノ村村長(わたしのいえ)預かりですからね。

 無謀にも自分から手を出そうという挑戦者(チャレンジャー)はそうそういません。

「忠告は有難いが、わざわざ言われることじゃない。覚悟はある。俺は魔族に馴れ合う気は…」

 皆まで言う前に、私は笑顔で。

 センさんの口の中に、ブートジョロキア(×6)を突っ込みました。

「!!!?」

「素直に従えば良いのに、意地を張っても良いことありませんよ?」

 おやおや、辛いの、苦手だったんでしょーか。 ←白々しい

 むせかえり、咳き込むセンさん。

 彼が悲痛な、悪魔でも見るような目で私を凝視する。

 ………あながち、間違ってもないかもね?

 村の平和と秩序を乱す相手には容赦するなと、父が言っていたのを思い出しました。

 だったら父の方針に、娘として私も従うべきですよね? 

 他人の主義主張に口を出そうというつもりはありません。

 特に人間の国から来た方は、色々あるでしょう。

 私はそれを自分色に染めようとは思わないんですけど…

 ヨシュアンさんは、時々忌まわしいけれど、それでもね?

 これでも、私にとってはお友達…知人の、一人ですから。

 そしてまぁちゃんの忠実(仮)な家臣でもあります。

 目の前で敵対されたら、私は迷わず見知らぬ他人よりヨシュアンさんの肩を持つでしょう。

 渋々味方になるふりをして、報酬をふんだくるくらいはしますけど。


 犯罪者でもない限り、魔族と持ちつ持たれつの私の村では魔族さんにも一定の地位があります。

 特にヨシュアンさんは軍人さんですからね。

 村の治安維持にも一役買っている訳で。

 そして忌まわしいことに、ある分野では経済の一端も握っています。

 村長の娘という観点からも、黙って放っておくのはちょっと。

 うん、立場的にもちょっとまずいかもって思うから。


 それにいきなり襲いかかるなんて無礼千万ですよ。

 正々堂々、勝負を挑んでから決闘するならともかく。

 喧嘩上等の魔族さんは、決闘を申し込めば九割九分九輪ノリノリで受け入れてくれるって言うのに、せっかちな! まあ、魔族は突発的な殴り合いの喧嘩も結構多いけどね!


 そんな訳で、色々様々な事情含みではありますけれど。

 ヨシュアンさんを殺そうとするセンさん。

 どんな事情がセンさんにあるのかは知りませんけど、客観的に見てヨシュアンさんに非はないし。

 私は一時的に、センさんを私の 敵 認 定 することにしました。


 にっこりと微笑む私に、勇者様が顔を引きつらせて「あ~あ」と呟きます。

 そして哀れみの目をセンさんに向けました。

 勇者様、目線が正直すぎですよ?


「………センチェス、お前は早く謝った方が身の為だと思う」

「は? お前なに言ってんだ?」

「もう一度言う。早く謝った方が良い」

「…なんでそんな青い顔で言うんだよ。不安になるだろうが」

「彼女を、侮らない方が良い」

「……………お前がそこまで言うってどういうことだ。あの娘、何者なんだ!?」

「俺から言えるのは、彼女を怒らせない方が賢明…ということだけだ」

「なんで目をそらすんだよ!! その不憫そうな顔は何なんだ!」

「彼女は………魔境で一番敵に回してはいけない相手だ」

「本当に、一体何がそんなにお前を怯えさせるって言うんだよ!!」

 ……まぁちゃんの影、かな?


 青年二人が肩付き合わせてひそひそこそこそ会話するのを聞き流しながら。

 多分、聞こえてないと思っている二人を微笑みで見守る。

 さて、これからどうしてやりましょうかね?





せんちぇすは りあんかを おこらせた。

せんちぇすの こううんが 560さがった。



次回予告☆ 次はヨシュアンさんのターン

 ヨシュアンさんのキャラ設定上、下劣な話題等が含まれます。

 エロ本とか、エロ本とか、エロ本とか。

 特に内容が出てくる訳じゃありませんが、苦手な方は心を強く持ってください。

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