28.深夜の密約そのいち
女性の陰湿な呼び出しとかリンチとか、経験無いのでよく分からない…
上手く表現できた気がしないので、ぎこちないかも知れません…。
2/1 誤字訂正
さて、只今の私、火急の窮地に陥っています。
現状説明:使者のお姉さん×2に囲まれてるよ、わーお☆
…何とか気分を盛り上げてみようと無駄に明るく表現してみました。
でもなんだか、虚しさが増しただけのような気もします。
明るい気分どうこうの前に、眼前に迫るお姉様方の笑顔が怖い。
表面上友好的ににこやかさを保っていても、目が蛇だよ。
これはあれですね、夕飯の席でサルファが滑らせた馬鹿発言が原因ですよね。
そんな、家主の娘に手を出すなんて後先考えない行為、思い切っちゃってどうするんですか。
そんな意見は耳に入らないでしょうし、彼女達の理性も期待できません。
どうする私、助けはどこだ。
騒がしかった夕餉の後、私達は後で勇者様の部屋に集まる約束をしました。
約束履行の前に各々の用事を持って散らばった訳なのですが。
何故かサルファは母と異様に仲が良くなり、母のお手伝いで食器の後片付け。
それが気に障ったらしい父。
意地を張って台所近くに留まり、別に今でなくても良いような雑用に取りかかっています。
勇者様はこっそり夕餉をアディオンさんへと運んでいって。
まぁちゃんは魔王城にお酒を取りに行きました。
…何故お酒か、ですか?
理由は簡単です。勇者様の貞操の為です。
まぁちゃん的には、「野郎の貞操なんて守りたくねぇ」とか言っていましたが。
勇者様が必死に懇願し、拝んできました。
「翌朝ベッドの隣に裸の女性が! なんてことになったら失踪する」とのことです。
悲壮感たっぷりに訴えかけてきました。
確かに言われてみると、勇者様の貞操の危機です。
何しろ、一つ屋根の下に舌なめずりする野獣が二頭います。
部屋に一人にしようものなら…可哀想に。
いえ、アディオンさんがいたとしても、あの女性達ならお構いなしに襲いかかりかねない。
そうなった時、抵抗するにしても暴力に訴える訳にはいかない勇者様が不利です。
逃亡するにも、狭い室内では限りがあります。
つまり、結果的に無抵抗と余り変わりませんね。
そうなると勇者様は夜通し警戒しないといけない訳ですが、それ心も体も休まりませんよね?
ただでさえ、昼間から精神的にも疲弊しているのに。
この上更に貫徹となると…それが何日か続いたら、倒れるんじゃないかな。
そしてその時こそ、機を狙っているだろう肉食野獣さん達が暗躍しそうな気がします。
具体的に言うなら、既成事実の作成ですね。恐ろしい。
看病とかいくらでも口実作って勇者様の部屋に押し入りそうですよ。どこかの強盗か!
あの二人が実際にどういう人なのか、知らないんですけど…やりそうな気がします。
むしろやると確信しています。
そのくらい、傍目に見てもあの二人は怖い。
形振り構わず勇者様を仕留めようとしているのが、眼光の妖しい煌めきに見えた気がしました。
もしかしたら勇者様の杞憂かも知れません。
考えすぎで、あの二人はもっと真っ当な人かも………うん、どうだろ。
でも今までの経験上、勇者様としては用心しすぎるに越したことはないそうです。
今までどんな経験を積んできたと言うんでしょうか。
いや、絶対に荒むので聞きたくありませんけれど。
これ以上に同情しようもない気がするのに、更に哀れみを覚えそうだし。
私もまぁちゃんも、お腹いっぱいです。満腹なんです。
あまりにも切ない青春を送っていらっしゃる勇者様。
彼を見捨てたら、外道呼ばわりに甘んじなくてはいけなくなります。
流石にそれは不本意なので、私達は考えました。
女の人が、勇者様の部屋に乱入狼藉しにくい状況を。
という訳で、今夜は夜を徹して勇者様の部屋で宴という名の酒盛りです。
人数が多く、男臭いほど女性は混じりにくいでしょう。
人数を入れれば入れる程、暴挙にも走りにくい筈です。
そうして環境を整え、勇者様はきりの良い時間で休む予定です。
宴参加者達と、雑魚寝の状態で。
彼の自衛手段は涙ぐましすぎて、偶に涙が出そうですよ。
参加者は私、まぁちゃん、当然ながら勇者様を基本とします。
後はサルファとかでしょうかね。まあ、追々誰かを呼ぶこともあるでしょう。
勇者様は間違っても使者の人達は入れないと、固く決意を固めていますけれど。
そんな状況で、各々が急遽決定した宴会の準備をしていた訳で。
私はおつまみを用意しようと、貯蔵庫へ向かっているところでした。
向かっているところを捕獲され、怖い目をした女性達に部屋へ連れ込まれようとしています。
絶体絶命とは言いませんが、部屋に連れ込まれてしまえば命はないような危機感が…!
しかし、誰も通りかからない。
助けを求める相手が不在の時は、一人きりにならない方が良い。
そんな教訓を体で覚えてしまいそうな予感。
なんとか、逃げようと身を捩るけど。
ネレイアさんと言いましたか? 女剣士さんにがっちりと腕を掴まれていて逃げられません。
力強いな、この人。
できれば私刑は勘弁して欲しい所なんですが…
「いい加減、開放してくれませんか」
現状打破を願って、ひとまず抵抗の意思を見せてみることにしました。
逆らわない方が賢明な場合も、そりゃあると思います。
しかし今ここで無抵抗でいても、血塗れの未来しか思い浮かびません。
私か、この二人か…どちらにしろ、家の中で流血沙汰は勘弁です。
掃除、面倒だし。
今なら未だ、騒ぎを起こして聞きつけた人がいれば助かる余地があります。
なので積極的に余地を引き寄せるべく、行動あるのみ、です!
私は挑発的とも言える角度で、私の腕を掴むネレイアさんを睨め付けました。
「私の腕が折れたら、どうするんです。一般人のひ弱さを舐めてますね?」
「魔境なんて物騒な場所で生きている割に、思ったよりも貧弱ですね。
私達の要求を素直に聞き入れるのなら、直ぐに開放しましょう」
「どうせ相容れることはない気がしますし、分かり合えないでしょう。だから開放してください」
「あら、一考くらいしても良いのではなくて? 大丈夫よ、じっくりと待ってあげるから…」
だから一緒に行きましょう、なんて言われても。
「お姉さん達、いくらなんでも形振り構わなすぎですよ」
「お姉さん達って…私達、貴女にお姉さんと言われるほどじゃありませんわ」
「随分と大人っぽいんで二十代の半ばくらいかと思ってたんですけど…外れてました?」
お姉さん達の顔が、ひくりと引きつりました。
おやおや、全然当たってないみたいですね。
実際は何歳なんでしょうか。いえ、別に興味もないですけど。
「………腕、折ってもいいんですよ」
「遠慮することありませんわ、ネレイア。やってしまえばいいじゃない」
「私の腕が折れた時、村全体を敵に回すと思ってください」
一応、村長の娘なので。
私に謂われなき暴力で重傷を負わせようものなら、村八分は覚悟してください。
それくらいと鼻で笑うことなかれ。
この魔境のど真ん中でハテノ村を敵に回すと、本気で補給ができなくなりますからね。
特に勇者の仲間志望のお姉さん達なら、獣人や魔族を頼るなんて有り得ないでしょうし。
その意を伝えると、彼女達の顔が嫌そうに歪みました。
理屈上分かっても感情で納得していない感じの顔です。
もう一押し、いるかな?
「それに、悪人でもない村娘に暴力なんて、お国や勇者様にも軽蔑されますよ?」
「…っ 貴女が、勇者様のことを語らないで!!」
うわぁ、ミリエラさん? だったかな。
元修道女の人がいきなり激昂しましたよ!
あー、やば。
しまった…地雷を踏んだみたいですね。
女の嫉妬は恐ろしい。
時として、それは何気なく相手の名前を出しただけで発動するようです。
なんなんでしょうね、この人達は。
自分以外の女が勇者様のことを話すだけで許せないとか言うんでしょうか。
…言いそうですね。
それで自分達は共同戦線を組んでいるから、互いは良いのだとか言うんでしょう。
内心で腸煮えさせながら、打算的な損得勘定で。
その損得で繋がった共同戦線の輪に含まれない私が、大変不利なことこの上ありません。
今後は気をつけるとしても、今はどうしましょう?
カッとなったミリエラさんが、私に向けて平手を掲げ…
………脇から振り上げたお陰で、前ががら空きですね。都合良く。
更に言うとネレイアさんは私の腕を掴んでいる上に私のことを舐めているようなので。
お陰で最初から顔面ノーガード。
その甘さ、命取りです。
その行動に至ったのは、反射的なものでした。
咄嗟って怖いね。急な土壇場で、私の体は思考するよりも早く動きました。
振り上げた平手が私の頬に到達するよりも先に、私は懐から強引に取り出しました。
水色の何かが入った、銀の小瓶を。
その中身を、一息に呷って…
世に言う、毒霧攻撃を喰らわせてみました。
そして倒れる、嫉妬に狂った女達…。
耐性のある私には効きませんが、こうして改めて見ると効き目抜群ですね。
ゆっくりと、だけど一瞬で転倒。
死んではいません。
寝ているだけです。
量は微少に加減したので、ほんの二日ばかり目覚めないだけで済むでしょう。
後遺症もないすっきりとした目覚めを保証いたします。
だけどこの二人、何としたものでしょう。
最終的に部屋に運びはしますが、一人では運べません。
それに、できれば寝ている内に身体検査といきたいものです。
危険物を持っていないか調査、及び没収をした方が良い様な気がします。
何するか、このままじゃ分からないし。
それに例の双転石を持っている可能性が高いのはこの二人です。
でも、問題が一つ。
私、双転石って見たことがないから、どんな物か分からないんですよね…。
一人で持ち物検査をしても、結果は出せそうにありません。
二日間余裕で寝ているのは確かです。
魔境に出回らない石を、まぁちゃんが見たことあるかも分かりませんし。
ここは、勇者様をお呼びするべきでしょうか。
思案していたら、うっかり周囲の警戒を怠ってしまいました。
此処、私の家だし。
油断って怖い…
うっかり。
本当にうっかりですけど。
「あ」
「………」
目撃者が、発生してしまいました。
其処に佇んでいたのは、少し鬱陶しいくらいの髪を緩く束ねた辺境の騎士。
眠たげな目をして、何を考えているのか分からない顔。
だけど、私をハッキリと瞳に映していますね。分かります。
足下に倒れた二人の姿を一度目線で確認してから、再び私へと視線を移してきます。
シェードラントの細い騎士。
私が兵士Cと呼ぶ…確か、サイさんとかいう男が其処にいました。
…まあ、この廊下、彼らに貸した部屋の直ぐ傍なので。
見つかっても、特段おかしくはなかったんですけどね。
さて、この状況を如何にしましょう。
どんな態度に出るべきか考えてしまいます。
考えた瞬間、頭にざっと浮かんだ選択肢は……
A.誤魔化す
B.しらばっくれる
C.開き直る
D.同じ目に遭わせる
E.口止めする
さて、どれにしよう?
さーて、リアンカちゃんは何を選ぶかな?
答えは次回!
そう言えば、番外編置き場作りました。
何か気になってることや、書いて欲しい小ネタありますか~?
書けそうだったら番外編に書くかも知れません。