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16.双六そのさん(顛末)

前話の後書きで紹介した村長さんの逸話:補足

 武闘大会に参加した村長さんの試合運びは、三分の二が不戦勝。

 悉く、猛者共を気迫のみで退けました。

 背後に憤怒のオーラが立ち上っていたそうな…

 武力的な実力の方はそこそこで、そこまで強い訳じゃありません。

 まぁちゃんが本気で草の根分けてくれたお陰で、犯人は直ぐに見つかりました。


 双六のマス目に悪意ある書き込みをした犯人は、村の若衆総勢二十四名。

 予想以上の人数でした。


 彼らは何故、こんなことをしたのでしょう?

 物陰に連れ出し、事情を聞くべく吊し上げです。

 私の方が穏便に話も進むだろうと、双六の進行はまぁちゃんにお任せ。

 私はロロイを引き連れ、青年達を倉庫の裏に引きずり込みました。


 疚しいことがあるのか、彼らは私の目を見ようともしません。

 私はにっこり笑って問い詰めました。

「ネタは挙がってるのよ? 貴方達、わざと双六のマス目を酷いことにしたでしょう」

「リアンカ、そ、そんな怖い顔するなよ」

「そうだよ。俺ら…」

「黙りなさい! 貴方達、何を考えていたの!」

 男達は何かごちゃごちゃ言っています。

 でも、私は犯人達を前に言ってやりたかった不満で一杯で。

 それをぶちまけてやりたいという欲求が強すぎました。

 だから私は、言ってやったのです。


「二度ネタ三度ネタと、同じネタばっかり振るなんて興ざめでしょう?

こういうことは多種多様なネタを振ってバリエーションを出してこそでしょう!?

お陰で起伏の富んだ波瀾万丈さが全くないじゃないの!」

「そこかよ!!」


 私の叫びに、男達の渾身の叫びが重なりました。

 自分達がやっておいて、ツッコミを入れてくるなんて…。


「貴方達がやったんでしょう」

「いや、俺らはただ、こんな不毛な勝負は早く終わらせてやりたいと…」

「そうそう。うやむやに終わらせた方が良いと思ったんだよ」

「それ、建前よね?」


 ばっさり斬り捨てたら、男達が重苦しく黙り込みました。

 悪いことをした自覚があるのは結構ですが、責任は取らないと。

 そんな黙ってばかりじゃ、駄目ですよ。


 今後に繋げる為、私は根気強く自供を求めることにしました。


「それで? なんで貴方達はこんなことしたの」

「だ、だって!」

「だって、なに。勇者様とセンさんが我が家の居候…

……村長預かりの身だって知っていて、こんなことして良いと思うの?」

「いや、それリアンカ(おまえ)には言われたくないし」

「私は良いの! 悪気はあっても悪意はないんだから」

「それ何が違うんだよ!?」

「何かが違うのよ?」

 私の主張としては、ちゃんと違いますよ?

 後から悪いことしたなぁと思うことはあります。

 でが、勇者様を悪い目に遭わせてやろうとは思っていません。

 …そう言っても、目の前の男共は信じそうにないけれど。

 だけど自分の言に不安を見せたら男達が調子づくだけです。

 私は威圧する心意気で、男達を睨み付けました。

「お前のその、堂々としたところがいっそ羨ましい…」

 何故か私のことを、怯んだ様子で見つめる皆。

 私、何かおかしなこと言いましたか?

 なんだか際物を見るような目で見られています…

 この様子じゃ、私が何を問題にしているのか、分かって無さそうですね。

 溜息を一つ零し、私は改めて男達に向き直りました。

「みんな、本当に私が何に怒ってるか分からないの?」

 無言の男達。

 気まずそうにはしていますが、此方を窺うように見るばかり。

 先程よりも、より大きな溜息が出てしまいました。

「正々堂々やれとは言わないわ。けど、こんな卑劣な陥れ方は魔境の流儀に反するでしょう!?

どうして自分でやらずに他人にやらせるの! 力業上等の強引さをどこに落としてきたの!?」

 そうです。そうなのです。

 私の不満はただ一つ。

 口でも拳でも物申さず、影からこっそり画策なんて。

 そんな魔境に不似合い不釣り合いで陰湿な方向にひた走るなんて!

 我等がハテノ村の村民には、魔境の民らしくあれと説教くれたい。

 魔境では、正面から自分の力で向かってこそでしょう!

 ちなみに私は基本虎の威を借る狐です。

 自分自身で望んだ訳でもなく、なんかそんな感じです。

 その当たり、コネと伝手も自分の力だと割り切って片付けました。

 

 自分棚上げで、私は男達に非難の眼差しを捧げます。

「ハテノ村で陰湿な嫌がらせは御法度でしょ。

不満があるのなら、気にくわないことがあるのなら、男らしく拳で物申してこそでしょう!」

「最初っから話し合いって選択がねーのか、お前!」

「女の私より女々しい貴方達に言われたくない。自分達だって話し合いなんてしなかった癖に!」

「うぐ…っ」

 男達は一瞬口ごもりました。

 どうやら痛いところを突くのに成功したようです。

 ですが、一人が意を決したように声を上げます。

 するとそれに賛同するように、全員が同じ内容のことを叫びました。


 即ち、

「だって、あいつ画伯に襲いかかったって言うじゃないか!

神の手を持つ、俺達寂しい独り身野郎の救い主たるヨシュアン兄に!!」

「そうだ! 万一怪我でもして、また入院なんてことになったらどうしてくれるんだ!」

「俺達は闇市の開催を心の支えに生きてるんだぞ!」

「ささやかな楽しみが無くなって、どうやって毎日をすごせって!?」


 男達が声を上げる程に、私の顔が引きつります。

「それが理由…?」

「それって言うな! また画伯が入院なんてことになったらと恐れる俺達の気持ちがリアンカには分からないんだろう!?」

「わかってたまりますか!!」

 全身から脱力しました。


 つまり、こいつらはアレですか。

 センさん→魔族に喧嘩を売る。

 →喧嘩の果てにヨシュアンさんが怪我を負う。

 →余波で闇市の開催が無期限延期される。

 …という事態になるのが嫌だったので、センさんに不満をくすぶらせる、と。

 そういう意図での過激な嫌がらせだった訳ですか?


 勇者様とリス君ともぉちゃん、超とばっちり。


 今日はもう、何度もこっそり思っていたんですが…

 センさん、貴方なんだか、とことん運が悪くありませんか?

 いえ、悪いのはセンさんじゃありませんよね。

 小細工に走った、こいつらです。

 なんかもう、虫けらでも見るような貶んだ目になっちゃうよ。

 なんだか何もかもがどうでも良くなって…

 私はすっと右手を挙げて、傍にいたロロに指示を下しました。


「薙ぎ払え!」

「いえす、まむ」


 一声応じて、水竜の少年は口をカパッと開きます。 

 今日は何度もお目にかかる羽目になった、ドラゴンブレス。

 普段なら滅多に目にすることもない、竜の必殺技。

 だけど今日は何度もさせちゃったから、ロロも疲れてないかな…。

 ちょっと心配になったけど、子竜は構わず躊躇いなく発射。

 野郎共が蹴散らされるように吹っ飛びました。

 一応、威力は加減したようです。

 でも、これで懲りるかな…?

 もう一押し、必要かも知れません。


「ロロ、ちょっと彼奴ら見ていて。私ちょっと今から画伯の筆を折りに…ううん、画伯は関係ないわね。うん、村の若衆共のエロい品々(コレクション)燃やして回ってくるから」

「わぁぁあああっ ちょっと待てぇええっっ」

「うわ、復活した」


 しかし、流石は魔境のハテノ村。

 村民達もしぶとい、しぶとい。

 蹴散らされた野郎共は、白旗を振りながら尚も叫ぶ。

 今度は私にではなくて、ロロイに向けて。


「待て、ロロイ! ちょっと待って、よく考えろ!

お前だってあと五年…いや、三年もすれば分かる! 画伯の偉大さと、その素晴らしさが!」

 どうやら、幼い少年から男という共通項を通じて共感を引きずり出し、味方に引き込む方針に転換したようです。見苦しいこと、この上ありませんね。

 子竜は真面目な顔で一つ頷き、言いました。

「うん、だけど今の俺はそれよりも女の人(特にリャン姉)を敵に回しちゃいけないって鉄則の方がよく分かるんだ」

「此奴、保身に走りやがった!!」

「くそっ 竜の癖に容易く牙を抜かれやがって!」

「何とでも言えば良いさ。俺はそれよりリャン姉を裏切って失望される方が辛いし怖い」

 (おのの)き怯む野郎達。

 彼らは未だ女を敵に回すなという真理を身に染みて分かっていないようです。

 無駄な足掻きと、目も冷たくなろうという物。

 抗議を続ける野郎達に、子竜は見苦しいと更に一発ぶちかましました。

「リャン姉、静かにさせてみた」

「ロロイ…貴方、良い子に育ったわね」

 私の教育は完璧でした。

 しみじみと嬉しくなって、子竜の青い頭をなでなで。

 気持ちよさそうに目を細めて、ロロイも嬉しそうでした。


 理由はどうあれ、村の若衆共が勝負に水を差し、台無しにしたのは確かです。

 私には全く関わりのないことですが、同じ村民として恥ずかしい。

 しかも理由が、エロ本のため。

 情けなくて涙が出そうです。

 だからモテないんだよ、貴方達。


 私は村の男達に反省を促す為、薙ぎ払った若衆達を吊し上げようと密かに決意しました。

 村で一番大きな、楠に。

 何か気にくわないことがあるのなら、自分の力で正々堂々。

 小細工を労せず、真っ正面から立ち向かえ!

 …という教訓に、なると良いなぁ。

 取り敢えず、吊すのは後にして。

 悪いことをしたのは確かなので、謝罪に行かせないと!


 私はロロイが縛り上げた縄を引きずり、彼らをぐったりしたリス君達の前に引き出しました。

 地面は凄まじくぬかるんでいます。

 書かれていた白墨も完璧に流れてしまって、双六の続行はもう不可能でしょう。

 何しろ、何マス目まで行っていたのかも分からないんですから。

 結局、男達の思惑通りに勝負がうやむや。

 これで良いの? と、良心に訴えかけるように見てやれば、男達も目をそらしてしまいます。

 本格的に情けなくて、私の肩は落ちました。


「――そんな訳で、リス君とセンさんの勝負はこの人達が邪魔してパアです。台無しです。

鬱憤晴らしに思う存分嬲れば良いと思う」

「さらりと残酷なことを言わないでくれ」

 全身びしょ濡れでくたくたの、勇者様。

 それでも見栄えが損なわれないのはいっそ感心します。


 リス君はうんざりした顔でぐっしょり濡れた服をつまんでいました。

 その、嫌そうな顔。

 もう双六なんてどうでも良くなっていそうなくらい、濡れた全身を気にしています。

 よく考えなくても当然ですが、みんな雑巾絞りができそうですよ。

「体冷えるから、みんな着替えて」

「……そうするか」

 異論のある人は、この場にはいませんでした。

 念の為、風邪の予防薬を渡しておこうかな。


 もう勝負! 双六! という空気ではありません。

 観衆もブーイングぶうぶうですよ。

 この場の収集も付きそうにないです。

 収集付けようと思ったら、きっとかなり面倒臭い。

 なので、他の人に丸投げすることに決めました。


 丁度この場に通りかかった、自警団副団長さんに。


「副団長さーん、この人達絞ってやってー」

「茶巾絞りでいいか?」

「それじゃ、茶巾絞りにした上で自警団の詰め所から吊しておいてください」

「適当にやっておこう」


 快く引き受けてくださった副団長さんに、お馬鹿な男共を引き渡しました。

 よく考えたら、木から吊すなんて木が傷んでしまいますものね。

 男達は自警団の詰め所から吊して貰うことにしました。


 不満たらたらの観客達を蹴散らすことも、副団長さんに押しつけて。

 私達はひとまず、孤児院のリス君の部屋に戻ることにしました。

 何より四人には、着替えと温かい飲み物が必要です。

 だってロロイのドラゴンブレス、半分水と言うより氷に近い冷たさで。

 というか、氷の粒交じりだったし。

 さっきから、青年達がよく見ると小刻みに震えていました。

 季節は、晩春なのですが。

 彼らの体感温度のみ、きっと真冬に戻ったようなものでしょう。


「………リアンカ、着替えたいんだけど」

「そうですね、早く着替えた方が良いですよ。風邪は万病の元です」

「いや、そうじゃなくてな?」

「???」

 あれ、勇者様は何が仰りたいんでしょう。

 センさんも、何か物言いたげで。

 そんな二人を全く気にせず、部屋の奥でリス君が豪快にシャツを脱ぎ……

 慌てたもぉちゃんに、取り押さえられています。

 本当に、なんでしょう?

「リアンカ、君に恥じらいはないのかい…?」

「勇者様、言いたいことがあるならハッキリどうぞ」

「リアぁンカ」

 首を傾げていたら、背後からひょいっとまぁちゃんに持ち上げられました。

「まぁちゃん?」

「繊細な男心をわかってやれとは言わねーよ?

けど年頃の娘さんが野郎の生着替えを前に平然としてんのもどうかと、まぁちゃんは思う訳だ」

「つまり?」

「うん。野郎共が着替えられなくて困ってっから、部屋を出ててやれ」

「つまり恥じらいなの?」

「そゆこと」

 そのまま、私はまぁちゃんに猫の子の如く軽々運ばれ、一人だけ部屋から放り出されました。

 仕方ないので、温かい飲み物でも調達に行きましょうか。


 それにしても、勇者様達のあの反応。

 男の人の半裸なんて、見慣れてるのになぁ…

 魔族さんとか、露出度高い人が多いし。

 毎年、魔王城まで年賀の挨拶に来る一つ目巨人(サイクロプス)の族長さんなんて、半裸どころか腰ミノ一枚ですよ。

 それに私は職業上、お薬を求めてきた負傷者の治療もやります。

 勇者様達の服装は際どくないし、一枚二枚脱いだぐらいじゃ私も動じない自信があります。

 真っ裸(マッパ)じゃない限り、そこまで取り乱さない。

 私の心は、特に乙女心と呼ばれる部位が壊死しているのかも知れません。

 これも一種の職業病。

 そして育った生育環境のせいです。

 …と、誰にともなく言い訳してみる私なのでした。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 3分の1は戦って勝ったんですよねw 強者を黙らせるオーラ半端ないです。 >そこまで強い訳じゃありません ベスト8位?w
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