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12.拾い子トリストの経緯

1/16 誤字訂正

 リス君は語ります。

 自分がこうして魔境にやって来て、育つことになったその経緯(いきさつ)を。


「俺は魔族の義父に拾われ、育てられたんだ」

 リス君の話は、そんな言葉で始まりました。

 眉をひそめたセンさんが何かを言おうとしますが…

「今は大人しく拝聴しとけ。そんで疑問は最後に纏めてぶつりゃいーだろ。話の腰折んな」

 まぁちゃんがそう言って、セン君を椅子に縛り付けて猿轡を咬ませてしまいました。

 それに対するリス君は、

「手際が良いな」

 それだけで片付けて、淡々と自分語りに回るのみ。

 センさんが何やら藻掻いていましたが…

 まぁちゃんの使った強靱な縄には勝つことができないでしょう。

 アレ、確か前にまぁちゃんを縛り上げるのに使った縄だしね…

 魔王(まぁちゃん)暴走の危機に直面した物騒な観光(修業)旅行を思い出し、遠い目になっちゃいます。

 魔王を縛るような縄に、ただの人間は為す術もありません。

 これぞ有効活用(再利用)。物は大切に。


 誰も自分の話を遮るものがいなくなると、途端にリス君はやる気をなくしました。

「話すの、かったるいな」

「リス君、センさんが抗議するみたいにバタバタしてるけど」

「どうせ気にしてんのは其奴だけだし。それが大人しくなった今、話す必要性があるか?」

「リス君、流石の自分勝手だね」

「そもそも、なんで俺が話さなきゃいけないんだか」

「まあまあ、安否を気にかけてた旧友は大事にしてあげようよ」

「姿が見えないってだけで呆気なく死亡判定してた奴に?」

「それは仕方ないと思うんだけど」

「面倒だな…」

 本気で面倒そうなリス君。

 ああ、やる気のない大人になっちゃって。

 私もまぁちゃんも苦笑です。

 リス君だって、話さないことにはセンさんが収まらないことは分かるのでしょう。

 仕方なさそうに、渋々と話し始めました。


「俺が魔族に拾われたのは、あの騒動の中。攻め寄せる魔族に恐慌を起こした人々が逃げ惑う中だ。

標準よりも小柄で細かった俺は、必死に逃亡を図る大人達に突き飛ばされたんだ。

周りを気にする余裕もない人の波に、滅茶苦茶に踏みつけられた。

孤児の俺を生死の狭間でまで気にかけるような奴はなく、俺は自分の脆さを噛み締めさせられた」

 死に物狂いの人間は、必死だけど見苦しいところが無くもない。

 周囲に目がいかないのは分かるけれど、自分達のことばかりになるのも分かるけれど。

 それでも子供を突き飛ばす、踏んで逃げるというのは外道の行いに聞こえるんだけれど。

 私の気のせいでしょうか…。

 人間切羽詰まったら、周囲など気にする余裕もないのでしょうか?

 そんなことないと、そう誰か言ってくれないでしょうか。

 子供を大切にする環境で育ったので、自然とそう思うのですが。

 他の地域では、それって異質な考えなのかな…?

 眉を寄せて考えていると、まぁちゃんが私の頭をぽんぽんと叩きます。

 そんなことないよ、と言ってもらえた気がしました。

「ズタボロの雑巾状態で、リス君はどうなったの?」

「リアンカ、誰もそこまで言ってねぇぞ…?」

 お話をせがむ私に、リス君はさも面倒臭そうに答えました。

「魔族の義父(おやじ)に拾われた」

「「ああ…」」

 そこを、拾われたんですか…。

「子供がボロボロになっているのを見て、魔族は憤慨。目から光線(ビーム)発射して周囲の建物を薙ぎ払った」

義父(おやじ)さん、やることが過激すぎるよね…」

「ヴァルレッドの奴…それで他に誰か巻き添え食ってたらどうするんだか。

……今度、気遣いが足りないって理由でさり気なく給料引いとこう」

 リス君の義父、ヴァルレッドさんは色々と思い切った人です。

 六人兄弟の長男だって言っていたから、子供への思い入れも強いのかも知れません。

 前に、弟さんも「兄者は子煩悩で馬鹿すぎる」って言っていたし。

 そんな彼に拾われて、リス君は…?

「そのまま俵担ぎで連行されて、俺は食われるかと思った。なんで怒っているのかも意味不明なら、なんでケモノみたいな雄叫び上げているのかも分からなかった」

 それは、誰も分からないと思います。


 そのまま保護され、怪我の手当を去れ、食事を与えられ。

 気付けばリス君は魔境に連れてこられていたと言います。

 しかしそれまで一般的な人間の子供として育ったリス君には、魔族への恐怖しかありません。

 更に拾った魔族が意味不明の言動を繰り返すので、怯えは高まる一方。

 体をブルブル震わせながら、三昼夜止むことなく泣き喚き続けたそうです。

 リス君、体力と根性あるね。

 そのガッツで反抗、とはいかず、ひたすらに部屋の隅で縮こまる毎日。

 ちっとも打ち解けないリス君。

 そんな少年の様子に、ヴァルレッドさんも困って弱り切っていたのでしょう。

 思い切った行動に出たのです。

 彼はそっとしておいて欲しい系の怯えた小動物(リス)君を、全力で構い倒してしまいました。

 それはもう、鬱陶しいほどに。

 懐柔しよう、打ち解けようと思ったのが全て裏目、裏目。

 どれだけ彼が、気遣いに向いていない&空気が読めないかを露呈する結果になったのです。


「…毎日三回は殺される…!と覚悟し、五日に一度は食われる…! と思った。

最終的には「このイキモノは何だろう…?」という境地に至っていたな」

 そう言うリス君の溜息の、深々と重いこと。

 原因は、言うまでもないでしょう。

 子供時代の彼を苦しめた、ヴァルレッドさんの奇行です。


 子供には美味しく精の付く料理!

 …と張り切って山に分け入り、夕飯に蝮の活け作りを出して盛大に悲鳴を上げられ。

 子供には楽しい音楽!

 …と張り切って太鼓の演奏をしたら生け贄の儀式と勘違いされて逃げ惑われ。

 子供には面白い玩具!

 …と張り切って人形を作れば呪いの人形にしか見えない上、下手に細工を施したせいで奇怪な動きを繰り返してリス君に襲いかかり。

 子供には可愛い動物!

 と張り切って連れ出した先は捕獲されたばかりの凶悪凶暴な人食い熊の魔獣(全長6m)の檻。

 危うくリス君は熊の餌食になりかけた。


 リス君は、自分を家に連れ帰った魔族の奇行に目に見えて心を閉ざしていったそうです。

 元々閉じていたのが、急速に扉の数を増やし、南京錠の数を増やしとしているような閉じ具合。

 見ていたヴァルレッドさんの兄弟達は、こりゃ駄目だと思ったそうな。

 うん、そりゃ、私もそう思うよ。絶対に。

 何という悪循環。

 打ち解けるどころか、リス君は寝るのも食事も覚束なくなったとか。

 立派な不眠症・拒食症になってしまったのです。

 大慌てで、人間の医者を呼んだそうな。

 それも警戒心を肥大させたリス君が怯えて寄せ付けず、手のつけようが無かったそうです。


 彼の敗因は、全ての準備を一人でしてしまったことだと思います。

 せめて誰かに説明なり、手伝いなりしてもらえばよかったのに…。

 料理やら玩具やら、自分で用意せず誰かに用意して貰っていれば、きっと惨劇は免れた。

 回避できなかった過去のあれこれに、リス君の目が遠い。

 彼の義父は、紛うことなき蛮族系。


 そうして、やっとのことで。

 目に見えて憔悴していく子供を目にしたヴァルレッドさん。

 その段階になって自力の独力で子供と打ち解けることを諦めた。

 そこでリス君は距離を置く為、魔族の中で疲弊した心を癒す為、やっとのことで我が村の孤児院に預けられることになったのです。

 今まで不安と緊張で死にかけていたリス君。

 その疲弊した精神は、人間達の中に連れ出されることで、ようやっと安堵したと言います。

 しかし培われた疑心暗鬼と警戒心、心の壁は撤去されずに残ってしまいました。

 今の捻くれたリス君の、原型完成の瞬間でした。


 もっと早く諦めて預けてやれよと、当時(ヴァルレッド)に言ってやりたい。

 普通魔族でも、誰もそこまで無謀で空気の読めない努力重ねないよ。

 みんな、自分は人間の子供をどう扱えば良いか分からないし。

 子供にも心の準備がいるって早々に割り切るのに。

 だから他の同じ遠征から連れ帰られた孤児よりも、孤児院入居が二ヶ月も遅かったんだ…。

 二ヶ月、空回りし続けた義父に振り回された彼に、同情が禁じ得ない。

 隣でぼそっと、まぁちゃんが呟いた。

「次の査定で、ヴァルレッドは二ヶ月減俸するように言っとくか」

 私は一も二もなく、賛成を掲げた。

 とても、過ぎたことで済ませて良いとは思えませんでした。


 しかしそうまでされて、最終的に二年でやっと義父と打ち解けたリス君。

 彼に言ってあげたい。

 よく、そんな人と打ち解けられたね。

 親子になる気になれたよね、と。

 彼らの間に何があり、どうして打ち解けられたのかは分かりませんが。

 彼の忍耐強さ、辛抱強さは、もしやここから来ているのかも知れない。


 まあ、案の定グレましたけど。

 やっぱりとことんヴァルレッドさんは子育てに向いていないんだろうなーと。

 察する物があり、私とまぁちゃんは顔を覆って俯きました。

 リス君、貴方は頑張った!


 軍に入隊以来、一向に実家(ヴァルレッド宅)に帰らない、リス君。

 彼の心情、察してあまりあります。

 それでもなんだかんだで義父のことを慕ってはいるらしく。

 本当に、意外なことですが。

 彼が義父の悪口を言うことはありません。

 むしろ義父への悪口を耳にしたら、因縁くらいは付けます。

 そんな彼の平穏を願い、私達は生暖かい同情を寄せるのでした。




※リス君のお義父さん、ヴァルレッド

  まず間違いなく、魔族のイロモノ変人層所属。

  笑い声は「うひゃひゃひゃひゃ」とかそんな感じ。

  黙ってじっとしていれば精悍な美形。

  賢そうにすら見える。顔だけは。

  六人兄弟の長男で、お兄ちゃんの一面もあるが空気が読めない。

  兄弟の名前はヴァルブルー、ヴァルイエロー、ヴァルピンク、ヴァルグリーン、ヴァルブラック

  うざがられながらもリス君、兄弟とは仲良く暮らしている。


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[良い点] 魔族戦隊ヴァルレンジャー!(どーん!!withカラフルな爆煙)
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