プロローグ
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一体どのくらいの時間が経ったのだろうか。
……照り付ける太陽と、歩きづらい砂の地面。辺りには建造物も植物すらない。
ここはどこまで行っても同じ風景の砂漠だった。
そして私が身に着けているものといったら、薄汚れた白いワンピースと手首についた機械じかけの腕輪だけ。
あまりの暑さに汗が滴っていく。息も荒くなるし、目もかすんでくる。
そして、自分がどうしてここにいるのか、分からなくなる。
「……第七ダクトの空気を遮断しろ。さらに酸素を薄くするんだ」
朦朧とした意識の中、どこからか声が聞こえてきた。幻聴でもなんでもない。この空間の天井あたりにあるスピーカーから発せられたのだろう。
ここはただの砂漠などではない。よく観察してみるとおかしなものだらけだ。例えば空中を浮く、怪しげなカメラやスピーカー。太陽もずっと同じ場所に定位し続けている。
「しかし、これ以上行ったら被験者の身体に危険が及びます……。大事な体じゃないんですか?」
「だからこそ、だろう? 大事な実験体だからこそその可能性を最大限に引き出してやるのさ」
耳につくこの数年間ずっと聞いていた醜悪な声が私の中に入ってきて背筋を震わせる。そのせいで揺らいでいた意識が緊張を帯びて張り詰める。
「聞こえていたな、ユン」
聞こえてなどいない。そう答えたかった。しかし、そうなると、聞きたくもない声がまた同じ説明を繰り返すため、私はさらに不快になってしまう。だから私はもう体のどこも動かしたくなかったけれども、仕方なく首を縦に振った。
「よろしい」
その言葉と同時に機械音が周りから鳴り響く。徐々に空気の濃度が薄くなっていくのが感じる。
――第九実験室。通称「第九」と呼ばれているこの施設は、人間の形をした人間でないものを扱い、研究をしている。
研究という言葉があまりにも無味乾燥なように、この研究所で扱う人間は、人間としては扱われなかった。つまりは一つの観測すべき対象、客観的なものでしかない。
そんな一つの客観的観察対象である「ユン」という「私」。
「さて、君はさらなる苦悩を強いられる。もしかしたら死に至るほどかもしれない。だが、私は知っている。君はこのようなことで死ぬような器ではない。いいか――「君は強い」」
――私は強い――
耳の中に入ってきた言葉が脳髄に溶け込み、身体を引き締める。
そう、私は強かった。だから、苦しみなど感じなかった。