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たのしいひと時は、終わります…。
河原に降りると、川上から滝の音が清々しい風に乗って聞こえてくる。
男4人は炭火コンロの準備をし、美登と涼香はレジャーシートを敷いたりディレクターズチェアを設置したりして寛ぐ準備をしていた。
「お墓……」
ふと手を止めた涼香が対岸を見る。
河原は対岸までおよそ50メートルほどあった。その三分の一ほど中央に、川が流れている。
渓流というほど流れは急ではないが、ときおり小枝が流れゆくさまは、意外に速い。
河原には大小の石がごろごろと転がっていて、大きめの石を集めて天然の炭火コンロを一つ作っていたタケルが顔を上げた。
「墓? どこに?」
涼香が指をさした。
30メートル先の対岸の草むらを少し上流に遡って、ちょっとだけ視線をあげる。
生い茂る雑草に囲まれて下半分は隠れているが、確かに墓石のようだ。
石を削り出した粗雑な造りなのは、おそらく大昔に建てられた為だろう。
墓石には何かが彫り刻まれているが、彼女たちからは遠くて文字までは見えなかった。
よく見ると、草むらに覆われて至る所にだいぶ風化した墓石が頭を覗かせている。
「何? ここ、もしかして墓場じゃないの?」
涼香があちらこちらの墓を見渡す。
「昔の人は、水辺に故人の墓を建てたのさ」
炭に着火を試みていたヒデが声をだす。
「へぇ」
涼香と同時に美登も、そして彰夫も声をだして頷いた。
コンロに火が入って肉や野菜が焼け始めると、6人のテンションは次第に上がって、奇妙な墓石の事はみな忘れていた。
美登がノンアルコールビールの缶を開けて彰夫に渡す。
それを見たヒデが
「あ、俺も」
「ヒデ、それノンアルじゃないから」
涼香が言った。
夏のような陽射しが降り注いでいたが、河原を吹き抜ける風は冷涼で、流れる水は氷を含んでいるかのように冷たかった。
ヒデが少し酔った勢いで川に入ろうとしたが、サンダル履きの素足を水につけた途端に速攻でやめた。
「だめだ……凍死するっ」
「意気地なしっ」涼香が爆笑した。
「そう言えば、天然石っぽい石あった?」
水から上がって来たヒデに涼香はすかさず訊く。
「そこいら見たけど、価値ありそうな石なんてねぇよ」
美登がコンロの網を取り換えながら
「あたしもさっき何気に探したんだけど」
「そんな都合のいい石なんて、そこいらにねぇよな」
ヒデはサンダルを脱いで、日光に火照った河原の石をペタペタと踏みしめた。
陽射しを含んだ石は暖かく、川上から流れる冷涼な風は滝の音を運んでくる。
* * * * *
5月も終わろうとしている頃、大学ではひと騒動が起きていた。
公ではないが、生徒の一人が謎の死を遂げたという噂が広がったのだ。
「彰夫……タケル、あんなに元気だったのに」
美登は学食のテーブルにランチを広げて言った。
「あいつ……なにか悩みでも抱えてたのかな」
彰夫は学食の甘口カツカレーをスプーンでつついた。
二日前、タケルが自宅の部屋で亡くなっていたのを発見されたのだ。
彼は完全な自宅住まいで、隣の部屋には弟がいたがまったく何時もと変わりない日常だったという。
タケルの部屋から妙な物音もしなかったし、兄の悲鳴も聞いてはいない。
朝起きてこないので呼びに行くと、すでに絶命していたそうだ。
バーベキュウに行った仲間は、常日頃から何時も一緒にいるわけではなかった。
仲のよい友達とはいえ、それぞれに他の友人や趣味、サークル仲間がいるから、あの時たまたまあのメンバーが揃ったという事にすぎない。
ただ、美登と彰夫は特別な関係に一番近いから、学校でもよくランチをするし、彰夫が一人暮らしという事もあって夜を共にする事もよくある。
タケルの葬儀が終わって間もないのに、再び大学の生徒が亡くなった。
竹羽田幸樹。
彼も、彰夫たちとバーベキュウに行った仲間だった。
アパートの部屋で、原因不明の変死体で発見されたらしい。
つづく…
お読みいただき有難う御座います。
あまり考えずに書いているため、特に難しい言葉を使うわけでもなく…(苦笑。
この話、そんなに長くもありません。
いまのところは(^^;