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たどり着いて〜中編〜

個人的に、1話分としては最長記録樹立

「……ふむ」

禿頭の男が頭を捻る。

その悩みの種である私は、ベッドの上で胸に聴診器を当てられていた。

なぜ私はこのような事になったのか?

それは少し前に遡る。



トッドの家に運ばれた後、私はある一室に運ばれ、ミーナというメイドが作ってくれた『野菜たっぷりオートミール』を頂戴した。

おかげで体中に精気(オド)は漲ったのだが、問題はその後起こった。

「一応、医者にみてもらおうか」

トッドの父―オッド―の一言で私は窮地に陥った。

もちろん、『機械人形』である私に検診など必要ない。

故障箇所があれば修理はできるし、『父』の家からその類の資料も持ってきたので、必要さえあれば修理以上の事もできた。

しかし、所詮私は―機械人形だ。

流れる疑似血液は、精気を体中に循環させる物で、熱を冷ます働きを持ってはいても、熱は持たず、白血球をはじめとする要素すらない。

循環する力さえ、心臓ではなくギヤ、ポンプ、バネ、その他様々な部品からなっている。

なにより、素性が割れれば、異端として見なされるとわかっていた。

「気持ちは有り難いのですが、金がありませんし」

「なに、私が払うさ」

「これ以上お世話になるわけには……」

「ここまで世話したんだから最後までさせろ、とも言えないか?」

「しかし……」

「しかしも糞もないよ、あきらめな」

どうやら、オッドという男は心底世話焼きらしかった。

「さて、それじゃ医者をよぼうかね」

「……分かりました」

どうやら逃れられそうにない状況に、人形らしからぬ落胆を覚えた。

(まぁ、追い出されたらまたさまようさ)

「ショウアン!OKでたぞ。早く来い」

「やっとか、待ちくたびれぞ?」

「頼んできたのは君だろ?」

意外なことに、現れたのは先ほどの禿頭の男だった。

「さてさて、早速診察しようか。まずは上だけ脱いでくれ」

「………はい」

「まぁそう気にするな。金はいらんし。さっき運んだ感じでは外傷もない。一応内臓系の問題だけ調べようと思ってな」

上着を脱ぐ私を横で、ショウアンと呼ばれた男はニヤニヤしながら聴診器をだしていた。

どうやら、医者としての道具は使えるらしい。

「ふむ。やはりいい体つきをしておる……」

何がうれしいのか、ショウアンは上着を脱いだ私を見て、よりニヤニヤとした顔をした。

(そういえば……記憶に間違いがなければ、人間には同性に性的興奮を覚える者がいるとか……)

ふとショウアンを見る。

その指はなぜかワキワキと動いていた。

「ショウアンさん、その指はなんですか?」

「これか?触診だな」

「その聴診器は?」

「あ、そうか。でもまぁ触診がさきでもいいだろ」

ショウアンはなんでも無いかのようにそう言った。

しかし、いつの間にか隣にいたオッドが私の耳元で、こう囁いたのだ。

「気を付けろ。奴の狙いは君自身」

「聴診からでお願いします」

身の危険というものを生まれて初めて感じた。

背中に何かが走る。

「そうか、これが寒気というものか……」

「む?まだ聴診器を当ててもいないのに、風邪か?」

「いえ、なんでもありません」

「そうか、ならいいがな」

そうして彼は聴診器を私の胸に当てた。






ショウアンという名でこの地に留まり、10年がだった。

そこで知り合ったオッドに頼まれ、奴の息子のトッドという小僧に武術の型を教えるようにもなり。

儂自身、大分丸くなったと思っていた。

そんなある日だった。

いつものように逃げ出した小僧を探していると、余計な者まで見つけてしまった。

『行き倒れ寸前の旅人』

儂としては見なかった事にしたかったのだが、小僧が

「のこしてきた奥さんってなに?」

とかぬかしやがった。

どうやらオッドの入れ知恵らしい。

とりあえずアイツは半殺し決定だな

しかし、その弱み故にその旅人を小僧の家まで運ぶことになった。

その時は『邪魔くさい』『運が悪い』『死んでいれば良かったのに』と、我ながら薄情な事を考えていた。


―しかし


……まったく、小僧には感謝しなくてはならないかもしれん。

この旅人、長身、それにこの体重、太っている感じはない。

むしろ引き締まってすらいた。

……武術家に向いた体型だ。

結局、小僧の家に運んだはいいが、奴の体が忘れられない……

間違っても同性愛者ではないぞ?

どうにかアイツを調べ直せないかと考えたすえ、儂はオッドを呼び出した。

「どうしたショウアン?告白か?」

「つまらん洒落はよせ、みなに迷惑だ」

「2人しかいないのにか?」

「この星全ての人に迷惑だ」

「そこまで……」

どうやら相当ショックだったらしい。

奴は膝から地面に倒れ込んだ。

どうでもいいが、便所裏とは告白場所だろうか?

つか、倒れ込むな。地面苔だらけでミーナ殿にいらぬ手間がかかる。

「起きろ」

「ぐふぅ!?」

「鍛錬が足りん。脊柱を刺激したくらいで情けない声をだすな!」

「ショウアン……そこは鍛錬とかそういう問題じゃない……」

「そうか、んじゃ次は水月な?」

「まてまて!んじゃってなんだんじゃって!?」「そりゃお前……小僧に何教えたよ?」

「……あ」

「よし死ね、むしろ魂ごと滅却してくれる」

半ば本気で腰を落とす。

戦闘技量でも、素手に関しては儂が上だ。

オッドもそれは知っていただろう。

それに加え儂の目の色を見て本気だと気付いたらしい。

奴は迷わず苔に額をつけた。

つまりは土下座

すまん、ミーナ殿。これはシミになるやもしれない……

「スイマセンでしたショウアンさん」

「……とりあえず立て、服がヤバいことになってる」

「えっ?て、ウオォオ!?ミーナに怒られる」

どうもコイツはミーナ殿に弱いからなぁ。とか思うが、今は儂も起こっている。

「オッド」

「のオォオ!」

「オッド」

「イヤァアァ!!!」

「死ね」

いいかげん我慢の限界なので正拳突きをかました。

お、水月にクリーンヒット

「おぉぉぉ………!」

「俺の怒りはあと鳩尾、人中、眉間に股間、あと心臓が残っているのだが?」

「ちょっと待ってくれ、マジで死ぬ……」

「殺す気だからな」

「ホントすんませんでした。いやホント」

「ふむ。まぁ条件次第だな」

青くなった顔を苦悶に歪めるオッドに、ニヤリという具合に笑顔を返す。

「あの客人の体を調べさせろ」

「なんだ。やっぱりそういう趣味かァフッ」

「どうした?気持ち悪い声上げて」

「いやホントすいません。だから鳩尾はやめて」

「ぬ?今のは水月のはずだが?」

「つか本当にさっきの発言はお前……」

「なにか問題が?」

大分立ち直りが早くなってきたなと思いながら、さっきの言葉を思い出す。

「あぁ、確かに誤解させたかも知れない」

「だろ〜」

「奴の体に興味があると言えば良かったな」

「………なぁショウアン」

「なんだ?」

「本気で言ってるのか?」

「うむ、奴の体つきがひどく武術に向いていてな。久しぶりに興味がわいた」

「あぁ、それでか」

オッドはそう言うと、ひどく疲れた顔をして頷いていた。

病気だろうか?

脳みそ無くなる病気だろうか?

いや、すでに無いんだろうが……

「わかった。どうにかするよ。でもコレだけ言っておくぞ?」

「なんだ?」

「今日、家帰ったら今さっきの会話を思い出して考えてみろ」

「わかった」

「それならいいさ」

そう言うとオッドは客人の所にいった。

儂は隣の部屋で待機しながら、ミーナ殿の菓子をつまんでいた。

相変わらずうまい。

あと30年早ければ結婚していたなぁ。きっと。

そう考えながら茶をすすっていた。

「ショウアン!OKでたぞ。早く来い」

「やっとか、待ちくたびれぞ?」

「頼んできたのは君だろ?」

やっと呼ばれて来てみれば。驚いた顔をした客人だった。

まぁ、はじめて儂の仕事を知った奴は大抵こんな顔をする。

今度からは白衣でも着てこようかと思ったが、想像してみて却下した。

「さてさて、早速診察しようか。まずは上だけ脱いでくれ」

「………はい」

「まぁそう気にするな。金はいらんし。さっき運んだ感じでは外傷もない。一応内臓系の問題だけ調べようと思ってな」

上着を脱ぐ客人の横で、儂は診察の準備をしていた。

ふふん、にやけ顔が抑えきれん。いや、まったくこの男良き体を持っておる。

「ふむ。やはりいい体つきをしておる……」

思わず筋肉の付き方を調べたくなってしまう。

大抵はそれで、使う技も見えたりする。

いかん、指が……

「ショウアンさん、その指はなんですか?」

「これか?触診だな」

「その聴診器は?」

「あ、そうか。でもまぁ触診がさきでもいいだろ」

「聴診からでお願いします」

どうも深刻な表情を浮かべている。

客人の隣でオッドがなにか話しかけてるせいやもしれんが、もしかしたら、内臓が弱っているのやも知れない。

「そうか、これが寒気というものか……」

「む?まだ聴診器を当ててもいないのに、風邪か?」

風邪は困る、本来の具合が分かりにくい。

「いえ、なんでもありません」

「そうか、ならいいがな」

内面、心底安心して、儂は再び客人に向きなおした。

そうして儂は聴診器を彼の胸に当てた。


『キリキリキリ』

『シュゴンシュゴンシュゴン』

『ギィィパタンギィィパタン』


そして、世界は再び機械人形に観測される。






私の機動音を聞いたショウアンは、その瞬間に固まった。

予想はしていた。

更に予想通りならば、この後彼は逃げ出し、私はこの村から出ていかねばならないだろう。

―きっと、この音が無くなるまでそうなるだろう。

「ふむ、これは……」


―想定1 ハズレ

この男は、人外にすら立ち会える胆力の持ち主。ランク CからBに変更―


どうやら、ショウアンはなかなかの胆力の持ち主らしかった。

それどころか、彼は更に意外なことを言ったのだ。

「すまんが、ちと詳しい検査がいるのでな。オッドは外にいてくれんか?」

「わかった。変な事はするなよ?」

次の瞬間、オッドは窓から頭を下にして落ちていった。

彼は大丈夫だろうか?一応ここは2階のはずだが?

そう思ったが、突き落としたショウアンに心配の色は無かったので、私も気にしないことにした。

むしろ私は、ショウアンがノーマルな性癖らしいという事に安心した。

そんな彼は、真面目な顔になると、話をきりだした。

「さて客人、話が急かもしれんが、あんた一体なんだ?」

「私、は……」

「貴様の体内は歯車や、何かの循環する音が聞こえる。まぁ、要するに人間とは思えん」

「………」

「沈黙か、成る程。ある意味真実を語っているわけか?」

ショウアンの表情からは何も分からない。

しかし、彼は淡々と私の急所をついていた。

「お前さん、機械人形(オートマタ)じゃな」

「……はい」

ばれた。

いや、想定していた事だ。

むしろ、想定外といえは、錬金術などに関わりのなさそうなこの男が私の正体を知っている事だろう。

「ふむ……、しかし妙じゃな」

「なにがですか?」

「いや、何でもない。儂の記憶違いじゃろうて」

「そうですか。それで、アナタは私をどうしますか?出てけというなら、出ていきます。しかし、できればこの家の主とあの少年、それにアナタに何か恩を返したいので、それだけ待ってくれませんか?」

「む?何故儂が貴様を追い出さんといけんのだ?」

「……人外は嫌われ者でしょう。アナタは平気なようだが、他の人間は私の正体を知れば、結局出ていかねばならないでしょう」

何か考えながら話すショウアンに、私は淡々と事実を述べていく。

それこそ真実なれば、私は永遠に孤独なのだろう。

しかし、そんな私の考えは、不気味に笑ったショウアンによってすぐにかき消される事となった。

「のう。客人、名前はなんという?」

「……名前は、まだありません」

「ふむ。それは奇妙だが、問題はそこではないしな……」

「なにか?」

「ふふん、儂に恩を返したいと言ったな?」

「はい、私にはそれだけの借りがあります」

「そうか。んじゃ頼んでしまおうかな?いや、もしこの頼みを聞いてくれたら貴様の正体すら隠しといてやろう。すれば、この村にも居座れるだろう?」

「……確かに私には願ったりですが、内容によります」

「なに簡単さ。儂の弟子になれ」

そう言い彼は笑いかけてきた。












条件が魅力的だったため、なんの弟子かも聞かず。

結局私は彼の弟子になった。

彼の弟子になってから知ったが、彼は流れの武術家だった。

医者はなんでも、あくまで金儲けのためらしい。

とにかく、私のこの村での生活は、こうして始まりを迎えたのだ。

なんかさ、携帯で書くって普通の何倍もの根気がいりますね

いや疲れた疲れた

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