終わりと始まり
カリカリと、グツグツと、工房の中で創造主は創る。
肉には歯車を、肌には錬金の技を、髪には買ってきた人の髪を、血には水銀から成す錬金術の粋を、そして心に小さき人を……
より人に近く、より人より強く、より人より人らしく。
もはやそれは妄執に近いのかもしれない。
だが彼は、削り、溶かし、組み上げる。
彼の最後の作品の為に………
雨が降る
シトシトと肩に降りかかるそれは、体に染み渡る。
雨が降る
頬を伝う雨は涙ににている。
涙を流せない私は、それをもって悲しみを表した。
まだ見ぬ神に、思いを伝えた。
『神よ、何故私は機械人形なのですか?』
13日13時間13分13秒
ある宗教でもっとも忌むべき数字を綺麗に揃え、暗く湿った部屋の中で私は完成した。
「調子はどうだ」
部屋で唯一の光源の前で、間違っても優しいとはいえない口調で創造主はいう。
「悪くはありません」
「そうか」
私のそんな返答に、創造主はなにが嬉しいのか肩を揺らしていた。
いや、実際は嬉しいのかは分からない。
意思を持つ機械人形を作るのに大敵である光は、製作所であるここには蝋燭1本しかない。
意思を持ってから13日13時間13分13秒、私は創造主の正確な顔さえ見ていない。
ただ、彼は天才だった。
執念が才能を飛躍させていたと言ってもいい。
私という存在は、正確にはホムンクルスという意思を機械人形にダウンロードした存在なのだが、そんなことは世界で彼しかできないだろう。
故に天才。
そして、天才と呼ばれる人物は大抵、変人が多い。
「んじゃ、出てけ」
「は…?」
彼は自分の最高作品を投げ出す稀な存在だった。
しかし、それは私には理解しかねる行為であった。
「出てけ」
「しかし創造主よ、理解しかねます」
「いいから出てけ」
「しかし……」
そこで私は口を閉じた。
彼の肩は、いまだに揺れていた。
「分かりました。しかし、最後に礼を言わせて下さい『父』よ、私を作って下さりありがとう」
「ふん、こちらこそ。せいぜい人間らしく生きろ『息子』」
いまだに上下する彼の肩に近くの毛布をかけると、私はこの部屋唯一の扉を開けた。
すでに大敵ではない日の光に目をすぼめ、日を浴びた痩せこけた老人に最後の別れを言おうと振り返る。
突如、工房から火が上がった。
最後の作品に全てをかけ、水銀中毒にまでなった老人は、自らの生涯に終止符を打ったのだ。
「おやすみ、父さん」
名も無い機械人形は、唯一の肉親の最後を背にそこをでた。
人里離れた山奥であるそこは、老人という特異性をよく表していた。
しかし、人形はそこを離れる。
あてもなく、道もなく、目的もなく。
帰る場所さえ無くした人形は、老人という誇りを胸に抱き、1歩1歩を確実に踏みしめ、いつ終わるかも分からぬ旅を始めた。
なんか、こういう作風のほうが書きやすいなぁ