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プロローグ:私の知る勇者

魔王が現れた!▼

勇者が魔王を倒し世界は救われた!▼

また魔王が現れた!▼

勇者が魔王を倒して世界は救われた!▼

またまた魔王が現れた!▼

勇者がたくさん現れた!▼


 私は勇者に憧れていた。


 幼少の時から両親に聞かされていた勇者の物語。


 勇者が仲間と共に七難八苦を乗り越え、魔王を討伐して人々に平和を齎す物語。


 私はそれを聞くのが大好きだった。


 だから魔王が現れたと聞いた時、私は勇者になろうと決意した。


 剣の練習を重ね、自分の魔法を研きに研いた。


 私も物語のような皆の笑顔を守る勇者になりたいと。


 でも現実は甘くなかった。


  私には、勇者の才能が無かった。


 だから、私は……



 「はあ……」


 日が昇りきった昼下がり。


 目の前にある大きな建物、その屋根の看板に記された「冒険者ギルド」の文字を見つめながら私は溜め息を吐いた。


 「今日は出会えるかな……」


 そう独り言を呟いて私は建物の扉を開けた。


  チャリンチャリン!とドアベルが歓迎の音を鳴らすが、それを気にする者は一人もいなかった。正確には喧騒が酷すぎて誰の耳にも入っていないようだった。


  室内を見渡すと見慣れた光景が目に入る。


 昼間から酒を飲みながら騒いでいる奴。


 女性にダル絡みしてナンパしてる奴。


 金品を前に仲間と言い争いをしている奴。


  私はそんな奴らをスルーして足速に受付カウンターに向かった。


 「あっ!こんにちは!ミクルさん!今日も勇者様探しですか?」


 カウンター越しに居る、顔見知りの受付嬢が元気な声で話しかけてきた。


 「こんにちは、カトレアさん。まあそんなとこ。今日は誰かいる?」


 「今日はですねー、えーっと……」


 カトレアはカウンターの下にある紙の束を取り出し、視線を忙しなく動かしながら手早く紙を捲っていく。


 「あっ!来ていますよ!今ここには……あっ居ました!あちらの方です!」


 カトレアが指差す方向を見ると、ギルドに入った時に見た飲んだくれの姿があった。


 「そこで飲んだくれてるサケスキーさんという方で一応B級冒険者だそうです!」


 「……他には?」


 「え?他ですか?えーっと……あっ!いました!同じくB級冒険者のクドックさんです!ほら、あちらにいる、女性にずっと話しかけてる人です」


 カトレアが指差す方向を見ると、ギルドに入った時に見たナンパ野郎の姿があった。


 「……次」


 「次はー、んーと、あちらにいるD級冒険者のリナキン男爵ですね」


 カトレアが指差す方向を見ると、ギルドに入った時に見た金品で揉めてる男がいた。


 「次はー」


 「もういい」


 私は溜め息を吐きながらカウンターに顔を埋めた。


 「どうせ次はその隣で揉めてる奴とかなんでしょ。はあーあ、今日もハズレか……」


 (どいつもこいつも「勇者」とは名ばかりの碌でもないクズばかり)


 そもそも何故こんな惨状になったかと言えば、その原因は十年前に遡る。


 魔王が現れたという事実が世界中の話題になっていた頃、王国は当時の世界最強とも名高い戦士を勇者に指名した。


 その勇者の仲間となる人達も国が招集した名のある一級の冒険者で固められ、これ以上無いと思える程の精鋭パーティが完成した。


 勇者一行は期待通りの圧倒的強さであっという間に魔王の元まで辿り着いた。


 そしてあっという間に魔王に倒された。


 勇者一行は仲間の一人を除いて敢えなく全滅したのだ。


 ボロボロになりながらも生き延びたその一人は国に戻るなり王にこう伝えた。


 まるで歯が立たなかった、と。


 王と貴族達はその報告に震え、トチ狂った法令を発令した。


 それが「勇者法」である。


 これは「準貴族以上の貴族位を持つ者」か「冒険者ギルドに加入しているB級以上の冒険者」を対象とする法律で、対象者は政府に申し込めば誰でも「勇者」になれるというもの。


 つまり、国は勇者の「質」ではなく「数」で魔王を圧倒しようと考えたのだ。


 その結果、勇者を名乗る勇者未満の「勇者モドキ」が大量に発生し、現在に至る。


 (はあぁぁ、私の知る真の勇者様にはいつ会えるのか……)


 「……さん!ミクルさん!」


 自分が呼ばれている事に気づき、埋めた顔を少し上げて返事をする。


 「ふぇ?」


 「次の勇者様が見つかりましたよ!」


 「碌でもない奴ならもうお腹いっぱいだって」


 「S級の勇者様です!」


 「ははは、なーんだS級かー。……S級!?」


 先程までの喪失感はどこへやら。あまりの驚きでカウンター越しの彼女に食いつく勢いで上半身が前に出る。


 「ホントに!ホンットーにS級が来たの!?」


 「はいっ!来ているのは確かなんですが……」


 カトレアはずっと持っていた紙をくるりと半転させて私に見せてきた。


 「この勇者様の名前、何て読むんでしょうか……?」


  彼女が指差した先、名前と書かれた欄の中を見て私は眉を顰めた。


 「……なにこれ?」


 そこには「*****」と記されていた。



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