負けたのか?
そっと通路を覗いた。
ゴォッ!
「っぶね!」
即座に顔を引っ込める。火球が鼻先を横切った。
髪の毛が焦げる匂い。あと数センチ遅れてたら顔面だった。
相手パーティも、通路の向こう側から動く気はなさそうだ。
狭い通路を挟んで、お互いに手が出せない。
「こりゃ冷戦だな……」
「しばらく動けそうにないね」
リンが壁に背を預けて座り込んだ。
こっちから突っ込めば火球の的。向こうも出てくればガロの盾と俺の刀が待ってる。
どっちも先に動いた方が不利。
当分、動きはねえな。
「ふう……もう大丈夫でござる」
ガロが肩を回した。火傷の跡はアオイとミオの回復で塞がっている。
動けるなら、まあ良かった。
「リンさんも少し火傷してる。回復するね」
ミオがリンの腕に手をかざした。柔らかい光が傷口を包んでいく。
「うん! ありがとね」
「……ミオも腕」
アオイがミオの袖をめくった。
火傷していた。盾の爆炎が飛び散った時にやられたんだろう。赤く腫れている。
「……ヒール」
アオイの手が光って、ミオの腕の火傷が消えていく。
「……自分にもかけていい」
「あ……ありがとう」
ミオが照れたように笑った。
アオイがミオの頭を撫でた。無表情のまま。
こいつら、いつの間に仲良くなってんだ。
とりあえず……しばらく動きはなさそうか。
通路を挟んで膠着。向こうが出てこない限り、こっちも出る必要はない。
壁に背を預けた。少しだけ、息をつく。
「カナエ殿は頼りになるでござるな。昔っからでござるか?」
ガロが隣に座りながら訊いた。ミオに目を向けている。
「うん、いじわるされてる時はいっつも助けに来て、追い払ってくれてた」
ミオが笑って答えた。
「さすがカナエ殿……愛でござるな」
「ちょ、ちげえっつの! ミオがどん臭いから……」
そんな時もあったか。
最初は、ミオにずっと守られてた方だけどな。
『青春かよ』
『あまずっぺ』
『ガロ聞き上手すぎる』
「私も昔話聞きたい!」
リンが身を乗り出した。
「カナエの道場でずっと一緒に剣道やってたんでしょ? カナエのお父さんがお師匠さんなの?」
「おじいちゃんがお師匠さんだよ」
ミオが答えた。
「すごく居心地良くて、ずっと居させてもらってたなぁ」
目を細めて笑った。懐かしそうに。
「お守りもお師匠さんからの頂き物でござるか?」
ガロがミオの腰の脇差に目をやった。
「ううん、これはカナエちゃんからの預かり物」
「カナエ殿、妻想いでござる……」
おいおいおい。もう突っ込まねえぞ。
『妻想い侍』
『もう結婚しろ』
『リンちゃん蚊帳の外で草』
「蚊帳の外じゃないし!」
リンが画面に向かって吠えた。
「みなさん……ガロさんはどうしてこのパーティに?」
ミオが話を振った。こういう気遣いはできるんだよな、こいつ。
「拙者は元々、歴史に出てくる侍が好きだったでござるよ」
ガロの目が輝いた。デカい体を揺らして、嬉しそうに語り始める。
「カナエ殿と会った時はそれはもう感激。この時代に侍に出会えるなんて、夢にも思ってなかったでござる」
「今は対モンスターの時代だもんね」
リンが笑った。
「私はどーしてもキャスターが必要なんだ! ってカナエに誘われたのが最初かな」
「アオイ殿は拙者が加入を頼み込んだでござるよ」
アオイは親指を立てている。
俺は通路の方を警戒するふりして聞いてた。
懐かしいな……。
ガロが最初に声かけてきた時、侍の格好してきたっけ。
袴に鉢巻き巻いて、「拙者を家臣にしてくだされ!」って。
初対面で家臣って何だよ。でかい図体で正座して、額を床に擦りつけてた。
断れるわけねえだろ、あんなの。
リン誘った時も土下座したっけな。
「キャスターがいないと配信が地味で死にます」って。
リンに「地味なのはあんたの顔でしょ」って返されたの、今でも覚えてる。
それでも来てくれたんだよな。
アオイは……ガロが連れてきた時、一言も喋らなかった。
自己紹介が「……アオイ」だけ。
最初の配信でもずっと無言で、コメント欄が『botかよ』って騒いでたっけ。
それが今じゃ親指立てて意思表示してんだから、成長したよな。たぶん。
こいつらのおかげでなんだかんだ楽しくやってきた。
そうだよ。
こいつら、いいやつすぎなんだよ。
俺がやらねえとな。
「きゃあ!」
ん? 悲鳴?
全員の体が固まった。
通路の奥。何かあったか。
ドォン。
地面が揺れた。
壁から砂がパラパラと落ちてくる。
戦ってる……。
結構近い。この通路の先か?
ガロが立ち上がった。盾を構える。
リンの手に赤い光が灯った。
アオイがミオの前に立った。
「カナエ! キルログ!」
リンが叫んだ。配信画面を指差している。
【 KILL 】ゆめふわダンジョン → 鉄壁のアルカディア
「多分さっきの奴らだ!」
「え、どっち!?」
リンの声が裏返った。
「わかんねぇ、くっそ……どっちだ」
パーティ名どっちも聞いたことねえ。
さっきの奴らがゆめふわだったか? それとも——
通路の奥から、声が響いた。
「こいよー!」
「そっちいるのわかってるぜ!」
軽い。余裕のある声。
だいぶ慣れてやがる。
この声、さっきの奴らじゃない。
あのリーダータンクの声じゃない。
まじか。
負けたのか、あいつら。
――――
『え、アルカディア落ちた?』
『さっきのタンク硬かったのに』
『どこがゆめふわやねん』
『こいよーって聞こえたけど』
『アルカディア食ってレベル上がってんぞこいつら』
『これ詰んでね?』
『逃げろ逃げろ逃げろ』
――――
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