人殺し
「カナエ、大丈夫?」
リンの声が聞こえた。遠い。
「……ああ」
どうする……、言う……か。
「私たちもいこっか、ほら」
リンが踵を返した。ガロとアオイも歩き始める。
——いや、ダメだ時間が惜しい
「や、ちょっと……待って」
三人の足が止まった。
「カナエ? どした?」
リンが怪訝な顔で振り返った。
「その……」
「……会いたい人、いるっつか」
沈黙。
リンが眉を寄せた。
「会いたいって……この状況で?」
「一体、誰よ」
「……幼馴染」
「はぁ!?」
リンの声がダンジョンに反響した。
「ムリ。流石にわがまますぎ」
「そこをなんとかお願いします!!」
地面に額をつけた。
冷たい石畳の感触。いい、頭くらいいくらでも下げてやる。
『土下座侍』
『プライドどした』
『なにこれ草』
急がねえと…。
「みんな……ガロだって大切な人いるでしょ!?」
リンが援軍を求めるように振り返った。
「や、拙者は特に……」
「……」
リンの目がアオイに向く。
「アオイは?」
「……特には」
「リン殿は?」
ガロが訊いた。
リンが口を開きかけて、閉じた。
「……まぁ、いないけど」
「ヨシ!!!」
顔を上げた。
「ヨシ!じゃねっつの!」
バシッ!
後頭部に衝撃。リンの平手。
『ヨシ!(笑)』
『空気読め侍』
『リンちゃんナイスツッコミ』
「まぁ、共闘できるなら心強いでござるよ」
ガロが腕を組んで頷いた。
「……行く当てもなかったし」
アオイが小さく呟いた。
リンが長く息を吐いた。
呆れた顔。でも、怒ってはいない。
「そだね。んじゃ、カナエの幼馴染と合流目指そ」
「——よし、いくぞ!」
俺たちはダンジョンの奥へ向かって歩き始めた。
――――
「カナエ……なんか歩くペース早くない?」
リンが後ろから声を上げた。
「は? こんなもんだろ」
くそっ、大丈夫かな……。
あいつ、鈍臭いからな……。
「居場所に当てはあるの?」
リンが追いついてくる。息が少し上がっている。
「ゆるめのパーティだから、あんま深くまでは来てないと思うんだけど……」
「ゆるめって……それ、危ないんじゃ……」
「……や、でも弱くはない。普通に構成もいいし」
口ではそう言った。
でも——ゆるめのパーティが、この殺し合いで生き残れるか?
考えるな。考えるな。
足が自然と早まる。もはや早歩きじゃない。小走りだ。
「……キルログ」
アオイの声。
心臓が跳ね上がった。
「どこ!?」
配信画面を睨む。赤く縁取られた白い文字が流れていた。
【 KILL 】ドミネート宇宙 → ましゅまろ女子会
「……ふぅ」
違った。
息を吐く。膝に力が戻る。
「違ったみたいでござるな……」
ガロが安堵の声を漏らした。
でも——ましゅまろ女子会。
あのパーティも知ってる。ゆるい雰囲気で人気だった。
コスメレビューしながらダンジョン回るってコンセプトで。
あの子たちが、殺された。
ドミネート宇宙。またあいつらかよ。
容赦なく、殺してる。
急げ。
「ちょ、もはや駆け足なんだけど……!」
リンの抗議が背中に当たる。
広めの部屋に出た。
天井が高い。松明の灯りが壁面を揺らしている。
道が三手に分かれていた。右、左、正面。
「うーん、どっちいけばいいんだろ……」
リンが腕を組んで首を傾げた。
ここ、ミスれねぇ…。
俺は目を閉じた。
耳をすませた。
「うわぁぉぁ!」
悲鳴。
「左!」
叫んで、走り出した。
「え、今悲鳴聞こえた方だよね!?」
リンの声が追いかけてくる。分かってる。
足がさらに速くなる。
通路の壁がぶれる。息が荒い。
頼む。
無事ならなんでもいい。
頼む——。
通路を抜けた。
栗色の髪が見えた。
走ってた。
気づいたら剣を抜いてた。
視界の端——剣士が倒れてる。タンクも。血の海。
キャスターが壁に叩きつけられた。動かない。
敵は四人。味方は——一人。
壁際に追い詰められてる。
剣を振り上げてる奴がいる。
間に合え。
敵の剣士が歩み寄っていく。
剣を振り上げた。
間に合え。
間に合え。
思考が消えた。
走りながら腰を落とす。
重心が沈む。足が石畳を蹴った。
——ッシ!
振り上げた腕を、斬り落とした。
返す刀。
首を薙いだ。
血が天井まで吹き上がった。
右キャスター。
杖に魔力が集まり始めている。
距離——五歩。
届くか。
届く。
踏み込んだ。限界まで体を伸ばす。
つま先で石畳を蹴り、間合いを一気に殺した。
——ッシ!
突き。
刃が喉を貫いた。
キャスターの目が見開かれたまま、光が消えた。
刀を引き抜く。
次——ヒーラー。
タンクが前に立ちはだかった。
盾を構えている。剣持ちか。
「くっそ、こいやぁぁ!!」
タンクが吠える。
タンクの周りを全力で駆けた。
右側。回り込む。
タンクが盾をずらして体の向きを変える。
打ってこい。
打ってこい。
打ってこい。
「ふんッ!」
タンクが盾の横から剣を突き出した。
きた。
シュッ
交錯の瞬間、手首を斬った。
指が開いて、剣が落ちる。
上、空いた。
「ハッ!」
首を斬った。
タンクの巨体が、膝から崩れ落ちた。
盾が石畳に叩きつけられて、重い音が反響した。
最後。
ヒーラーが立っていた。
武器を持っていない。両手を胸の前で握りしめている。
「うおおお!!!」
刀を振りかぶった。
無我夢中だった。
ここまでずっと、何も考えていなかった。体が勝手に動いて、刀が勝手に斬っていた。
でも——この瞬間だけ、時間が引き伸ばされた。
女の子だった。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔。歯を食いしばって、目を瞑っている。
そんな顔すんなよ。
お互い様だろ。
謝んねぇかんな。
シッ——!
袈裟に斬り下ろした。
肩口から胸まで。刃が肉を裂く感触が、手のひらに伝わった。
血飛沫が舞った。
赤い霧が視界を染めた。
ヒーラーの体が倒れた。目が、まだ開いている。光が消えていくのが見えた。
間に合った……。
体の力が、一気に抜けた。
膝から崩れ落ちた。石畳に手をついて、刀を取り落とした。
けど……やっちまった。
やばい。何も考えられない。
頭が真っ白だ。
手を見た。
血まみれだった。自分の血じゃない。
四人、殺した。
俺、人殺しか……。
戻れねえんだな、これ。
——あったかい。
柔らかい温もりに包まれた。
頭に、誰かの体温が伝わってくる。
ミオか。
細い腕が、震えながら俺の背中で組まれた。
心臓の音が聞こえる。ものすごく速い。
大丈夫……。俺がなんとかするから。
大丈夫。
大丈夫だ…。
――――
『は?』
『え?』
『カナエつよくね?』
『4キルま????』
『速すぎん????』
『ガチ侍やんけ』
『覚醒キターーー!!』
『カナエ始まったこれ』
『死ねやまじで』
――――
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