右警戒しろ②
爆発が起こった。
キングジョーは咄嗟に身を投げていた。床に転がり、腕で頭を庇う。爆風が背中を焼いた。壁が崩れる音。粉塵。熱。
ぺろりは反応が間に合わなかった。衝撃波に体を吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。後頭部を強打して、視界が明滅した。
「うああくっそ、耳が!!」
キングジョーが起き上がった。耳鳴りが頭の中で反響している。通路の天井が半分崩落していた。瓦礫の隙間から煙が立ち上っている。
「いってぇ……」
ぺろりが壁にもたれたまま呻いた。頭から血が流れている。右耳の辺りを押さえて、顔を歪めた。
「あーくそ、殺す。全部侍のせいや。いくぞぺろ!」
キングジョーが剣を拾い上げた。
「まってや……耳やべ……フラつくわ」
ぺろりが壁に手をついて立ち上がった。足元がふらついている。平衡感覚がやられたらしい。
キングジョーは待たなかった。脇腹を押さえ、先行して歩き出した。瓦礫を踏み越え、崩れた通路を抜けていく。
「どこやーーー!! ドブ侍ィ!!!」
雄叫びが、ダンジョンの壁に反響した。
ぺろりが遅れて続く。壁伝いに歩きながら、床を見ていた。
「血の跡とかないなあ……あいつもう治ったんか?」
「あいつ極露詈と夜露シコ殺しやがったけんなぁ。レベル上がっとる。殺人鬼じゃ」
「ゴロリ、ヨロシコ。見ててくれ。お前らの仇、俺らがとったるからな」
ぺろりが天井に向かって呟いた。いつもの軽い口調だったが、目だけが笑っていなかった。
しばらくダンジョンを歩き回った。部屋を覗き、通路を進み、足を止めては耳を澄ませた。人の気配はない。血痕もない。
いくつ目かの部屋に差しかかった時——キングジョーの足が止まった。
「いたぞコラァ!!!!」
吠えた。
視線の先。広い部屋の中央。栗色の髪の女が一人、しゃがんでいた。背中を向けている。周囲に誰もいない。
「っしゃ殺す!」
キングジョーが踏み出そうとした。
「キング! ちょいまてや!!!!」
ぺろりが叫んだ。
「ああ!? なんじゃ!」
「女一人とかおかしいやろこれ! 辻斬りあった時と同じやんけ!」
キングジョーの足が止まった。表情が変わった。
辻斬り——さっきの奇襲。女を囮にして、背後から首を掻き切られた。極露詈はそれで死んだ。
「ほんまやんけ……罠か! どうすりゃええんじゃ!?」
「まてーや。わしに考えがある」
ぺろりが配信カメラに向き直った。血まみれの顔で、にやりと笑った。
「ファンの皆、聞いてくれ。これ罠やろ? 侍どこおるか教えてくれや!」
配信画面を覗き込んだ。滝のようにコメントが流れている。
『右警戒しろ』
『右警戒しろ』
『右警戒しろ』
『右にいるぞ』
『右!右!右!』
『右警戒しろ』
『右警戒しろ』
『右警戒しろ』
『右!右!右!』
『右警戒しろ』
『右警戒しろ』
『右警戒しろ』
『右にいるぞ』
『右!右!右!』
『右警戒しろ』
『右警戒しろ』
キングジョーも覗き込んだ。
「お前天才やんけ!!」
「余裕よこんなん。ファン使えばええだけや」
ぺろりが笑った。
「おし。右におるんなら、二人で囲むぞ」
「おーう」
キングジョーが剣を握り直した。目が座っている。
「おっしゃいくぞワレェ!」
二人同時に飛び出した。
部屋に入って、右に飛び込んだ。
――――
『右警戒しろ』
『右警戒しろ』
『右警戒しろ』
『右にいるぞ』
『右!右!右!』
『右警戒しろ』
『右警戒しろ』
『右警戒しろ』
『右!右!右!』
『右警戒しろ』
『右警戒しろ』
『右警戒しろ』
『右にいるぞ』
『右!右!右!』
『右警戒しろ』
『右警戒しろ』
『右警戒しろ』
『右にいるぞ!!!!!!!!!!』
『ファンサ(笑)』
『右警戒しろ』
『右警戒しろ』
『右警戒しろ』
――――
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