武士故
来い。早く来い。
てめぇら斬り伏せて、さっさと終わらせてやる。
「わしがぶっ殺しちゃるわ!!」
叫び声が通路の奥から響いた。
足音。速い。重い。壁を蹴るような荒い足取り。
姿を見せたのは——夜露シコ。
「おい殺人鬼ぃ。よくもゴロリ殺してくれたなあ」
血走った目。歯を剥き出しにしている。
剣を片手で握って、体を低くした。
「死ねやぁっ!!」
横薙ぎ。
力任せの一撃。通路の壁を削りながら迫ってくる。
重い。レベルが乗ってる分、腕力がある。
が——大振りだ。予備動作が大きすぎる。
半歩下がって躱した。剣が鼻先を横切る。風圧で前髪が揺れた。
壁に剣がめり込んだ。石がえぐれて、破片が飛んだ。一瞬だけ動きが止まる。
その一瞬で十分だ。
踏み込んだ。突き。
夜露シコの肩口を刺し貫いた。
「ぐっ——!」
引き抜く。返す刀で胴を薙いだ。
浅い。腹筋の上を刃が滑った。
咄嗟に体を引かれた。さすがに並の反射速度じゃない。
夜露シコが吠えた。痛みで逆上してる。
壁から剣を引き抜いて、そのまま振り下ろしてきた。
横に逸れた。狭い通路で、壁を背にして半身になる。
剣が石畳を砕いた。足元に亀裂が走る。
もう読めてる。
こいつの剣は速いが、軌道が単調だ。全部力任せ。フェイントもない。
型がない。駆け引きがない。
お前も暴力で押し切れる相手しか斬ってこなかったんだろ。
間合いが詰まった。
刀の間合い——俺の間合いだ。
袈裟に斬り下ろした。肩から胸へ。今度は角度を変えた。鎖骨の隙間を狙う。
深く入った。肉を断つ感触が、柄を通して手のひらに伝わる。
「え、ちょ——」
夜露シコの目が見開かれた。
「ゆるさねぇ……」
背後から、唸るような声。
キングジョーだ。通路の奥の闇の中に気配がある。
構うな。まず目の前だ。
もう一太刀。手首を狙った。
「あ、やべ——」
夜露シコの声が途切れた。
刀が手首を斬った。指が開いて、剣が石畳に落ちる。
甲高い金属音が反響した。
出血が止まらない。肩、胴、手首。三箇所から血を流して、夜露シコの体がふらついた。
膝が折れかける。壁にもたれて、辛うじて立っている。
よし——トドメ。
ズッ……。
は?
腹に——何か。
目を落とした。
剣の切っ先が、俺の腹を貫いていた。
夜露シコの体を——背後から貫通して、俺まで届いてる。
嘘だろ。
こいつ——仲間ごと刺しやがった。
切っ先の向こう。夜露シコの背中から突き出た剣身。
その更に奥に——キングジョーの顔が見えた。
笑ってなかった。
真顔だった。
「おーし、やっと当たったやんけボケコラァ」
低い声。獲物を仕留めた声。
キングジョーの体が、淡く光った。
夜露シコを殺したレベルアップだ。仲間を殺した分まで、こいつに流れ込んでいく。
剣が引き抜かれた。
夜露シコの体が糸を切られたように崩れ落ちた。壁にもたれたまま、ずるずると滑り落ちていく。
「っ——がぁっ!!」
腹から血が溢れた。
膝から力が抜ける。壁に手をついた。刀を取り落としそうになって、必死に握り込んだ。
指が震えてる。血で滑る。それでも離さない。
熱い。腹の中が焼けるように熱い。
内臓を掻き回されたみたいだ。息を吸うたびに腹の傷が開く感覚がある。
視界の端が暗くなっていく。
「カナエ!!!」
リンの悲鳴が背中から聞こえた。
通路の奥から、ガロが飛び出してきた。
俺の体を掴んで、後方に引きずった。
デカい手。あったかい手。血まみれの俺を、躊躇なく抱え込んだ。
「ヒール! ヒール!」
ミオの声。アオイの声。
二つの光が同時に腹部を包んだ。あったかい。傷口が塞がっていく——でも、遅い。深すぎる。
「カナエ殿、下がっててくだされ! ここは拙者が!」
ガロが通路の入口に盾を構えた。
リンがその横に立った。手に赤い光を灯して。
「リン……ガロ……」
「黙ってて! 回復に集中して!」
リンが振り返らずに叫んだ。声が震えてた。手も震えてた。
リンが火球を放った。
赤い光が通路を駆け抜けていく。
「効くわけなかろうがクソボケがぁ!」
通路の奥からキングジョーの怒号が跳ね返ってきた。
火球が弾かれた音。壁で炎が散る。
さっきまでと声の圧が違う。
仲間を殺して得た力で、こっちを潰しに来る。
ガロがリンの肩にそっと手を置いた。
リンが振り返った。
「下がるでござる、リン殿」
「え——」
「ここで食い止める」
ガロが一歩、通路の中に踏み出した。
盾を正面に構えた。通路の幅いっぱいに、デカい体が壁になった。
「馬鹿……逃げろ……ガロ……」
声を絞り出した。腹が裂けるように痛む。
ガロが振り返った。
一度だけ。
俺たちを——一人ずつ見た。
リンを。アオイを。ミオを。
最後に、俺を。
笑ってた。
いつもの、不器用な笑顔だった。
「武士故。——あとは頼むでござる」
前を向いた。
もう振り返らなかった。
直後、轟音が響いた。
ガンッ!!
通路が震えた。天井から粉塵が降ってくる。
「どけや、こんでくの棒が!!」
キングジョーの剣がガロの盾を叩いた。
衝撃でガロの足が石畳を削る。両腕に力を込めて、踏ん張っている。
もう一撃。
ガンッ!!
盾の表面にヒビが入った。蜘蛛の巣みたいな亀裂が広がっていく。
「どけっつってんだろが!!」
三撃目。
ガンッ!!
右腕から、嫌な音がした。
骨が折れる音だ。
ガロの口から、声にならない呻きが漏れた。
だが——足は動かない。一歩も退かない。
「クソ……ガロ、ざけんなよ……!」
叫んだ。声が裂けた。
立とうとした。腹の傷が開いて、血が溢れた。
「……動かないで」
アオイが俺の肩を押さえた。ミオの手が光り続けている。
ガンッ!!
四撃目。
盾が——割れた。
真ん中から、ばっくりと。
鉄と木が裂ける音がして、破片が散った。
ガロの右腕がありえない方向に折れ曲がっていた。
盾の半分が石畳に落ちて、重い音を立てた。
残った左腕で——半分の盾を構えた。
「通さぬでござる」
声が震えてなかった。
「おんどれぇ、死ねや!!」
キングジョーの剣が半分の盾を叩いた。
割れた。
左の盾も、砕け散った。
もう何もない。
盾もない。剣もない。両腕が折れている。
逃げろ。逃げろガロ。もう何もねぇだろ。
ガロは逃げなかった。
折れた両腕を広げて、通路いっぱいに立ちはだかった。
やめろ……。もうやめてくれ。
ガロの体に、袈裟斬りが叩き込まれた。
血飛沫が舞った。通路の壁を赤く染めた。
ガロの体が傾いだ。
膝が折れかけた。
——だが、倒れなかった。
折れた両腕で、キングジョーの体に抱きついた。
「通さぬ」
「うぜぇんじゃわれ!! 離れろや!!」
キングジョーが剣を振り回した。
ガロの背中に、刃が突き刺さった。引き抜いて、また刺した。
一回。二回。三回。
血がガロの背中から溢れ続けている。
背中が赤く染まっていく。刺されるたびに体がびくりと震える。
それでも——腕を離さなかった。
折れた腕で。力の入らない指で。
しがみついていた。
がろ……やめろ……もういい……
声にならなかった。
涙で何も見えない。
四回目。五回目。
ガロの体から、力が抜けていくのが見えた。
しがみつく腕が、少しずつ下がっていく。
最後に——ガロの唇が動いた。
声は、もう出なかった。
でも読めた。
「たのむ」
ガロの腕が落ちた。
デカい体が、静かに崩れ落ちた。
通路の真ん中に、ガロが倒れていた。
盾の破片に囲まれて。血だまりの中で。
「……ガロ」
名前を呼んだ。
返事はなかった。
ざけんなよ……全員で帰るんじゃねえのかよ。
お前いねぇと困るんだよガロ。
キングジョーが出てきた。
返り血を浴びて、肩で息をしている。
血走った目が、俺を見た。
「侍ぃ——てめぇぶっ殺す!!」
剣を振り上げて、襲いかかってきた。
ガロの体を踏み越えて。
まだ温かいであろうガロの体を、踏み越えて。
――――
『ガロ……』
『嘘だろ……嘘だろ……』
『通さぬでござる……』
『盾割れても腕で止めようとした……』
『やめてくれ……もうやめてくれ……』
『ガロが抱きついた時の顔……』
『最後なんて言った……?』
『もう無理……泣いてる……』
『ガロおおおおおおおお!!!!!!』
『最高のタンクだった……』
『最後まで盾だった……』
『カナエ……頼む……ガロの分まで……』
――――
【配信】封鎖ダンジョン総合★189【バトロワ】
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