最強は俺だ
静かに呼吸を整える。
目を閉じた。
暗闇の中で、自分の心臓の音だけが聞こえる。
スゥ……。
肺の奥まで空気を入れた。冷たい。ダンジョンの空気は、いつだって冷たい。
フー……。
吐く。ゆっくり。長く。
指先の震えが、少しだけ遠くなった。
配置は整ってる。
リンは前方、広い部屋の出口付近。その背後にすぐ通路がある。
ガロ、アオイ、ミオは通路の奥で待機。
あとは、来るのを待つだけだ。
「おんなー! おんなはいねーかー!」
キングジョーの声が反響する。近い。だいぶ近い。
カランッ。
リンが投げた石が、部屋の奥側で跳ねた。
「そっちか!? 今行く!」
足音が加速した。四人分の重い足音が、通路から広い部屋に流れ込んでくる。
調子こいてんじゃねぇぞ……。
フー……。
最後の一息を、静かに吐いた。
「どーもー! キングジョーでっす!」
部屋に入ってきた。
例のポーズ。乳首の前で指ハート。全裸に返り血。
その後ろに三人が続く。
ぺろり、勇者夜露シコ、極露詈。
全員が上半身裸——いや、極露詈は全裸だ。刺青が蠢くように見える。
リンが部屋の奥に立っていた。
両手を構えている。手が震えてる。でも、立ってる。
「あ、あわわわ、腰が——腰が勝手にぃ!!」
ぺろりが腰を前後に振り始めた。下品な動き。笑ってる。
「ゲキシコきたーーーー!!!」
夜露シコが両手を広げて仰け反った。舌を出してる。
「いや……こないで!」
リンの声が裏返った。
演技だ。リンはここで怯えた女を演じてる。時間を稼いでくれてる。
キングジョーが一歩前に出た。
剣を下ろして、両手を広げた。
「まってくれ。俺たちは君を探してたんだ」
声のトーンが変わった。
さっきまでのふざけた調子が消えて、妙に低い。気持ち悪い芝居がかった声。
視界の先に——四つの背中。
崩れた柱の影。息を殺したまま、闇に溶けている。
ドミネート宇宙の背中が並んでいた。
キングジョーが最前列。その後ろに夜露シコとぺろり。
一番後ろ——極露詈。
最後尾。無防備。こっちに気づいてない。
まずは一人。確実に落とす。
舐めんなよ……。勝つのは俺たちだ。
「セックスしよう……そなたは美しい」
キングジョーが一歩、また一歩とリンに近づいていく。
そろそろか。
頭の中が静かになっていく。雑念が消える。恐怖が消える。
呼吸すら遠くなって、世界が研ぎ澄まされた一本の線になった。
刀の柄に、指が触れた。
「きっしょ——死ね!」
リンの手から、火球が放たれた。
赤い光が部屋を照らす。ドミネート全員の視線がリンに集中した。
今だ。
全力で、地面を蹴った。
——速い。
自分でも驚くほどだった。
視界が引き伸ばされた。空気が壁になって肌を叩く。
足が石畳を蹴るたびに、体が弾丸みたいに加速していく。
極露詈の背中が、一瞬で目の前に迫った。
「ハハ、なんそれちっせ——」
全員がリンの火球を見て笑った。
キングジョーが片手を上げて、弾こうとした。
その手が上がりきる前に——俺の刀が、極露詈の首筋を走った。
シュッ——。
頸動脈を掻き切った。
血飛沫が扇状に広がった。極露詈の体が傾いていく。まだ笑った顔のまま。
止まらない。
振り返らない。
そのまま走り抜けた。
リンが踵を返して通路に飛び込んだ。俺も続く。狭い通路に二人で駆け込んだ。
背後から、絶叫が聞こえた。
「ゴロリィーーー!!!」
夜露シコの叫び。声が割れる。
「ごろり!? なんで血ぃふいとんお前——嘘やろ……死ぬなー!!!」
ぺろりの声が裏返っていた。
「辻斬りおるぞ——任せろ!」
キングジョーの声だけが、冷静だった。
足音。重い。速い。通路に向かって突っ込んでくる。
「俺らも行くぞ、仇うちじゃ!」
夜露シコ怒号。通路に向かって走り始めた音。
来る。先頭はキングだ。
他も後ろに続いてる。
俺はリンを背後に下がらせた。通路の真ん中に立つ。
刀を正眼に構える。
狭い通路。二人は並べない。一対一。
これなら——やれる。
暗い通路の奥から、影が迫った。
「おい斬り逃げは犯罪やろ……警察呼ぶぞコラァ!」
軽口を叩きながら現れた。だが、目が笑ってない。
剣を片手で提げている。構えてすらいない。
舐めてんのか——いや、違う。
こいつは構えないんだ。最初から。
構えなんか要らないほどの、純粋な力。
だが——それは俺も同じだ。
キングジョーが踏み込んだ。
一撃目。
振り下ろし。天井を掠めるほどの大振り。
受けた。
ガンッ!!
刀の腹で受け止めた。衝撃が腕を伝う。重い。
だが——耐えれる。刀は折れない。腕も折れない。
押し返した。
「は?」
キングジョーの目が一瞬、揺れた。
受け止められると思ってなかった顔だ。
当たり前だ馬鹿が。
さっきてめぇの仲間斬ったんだぜ。
レベルなら——俺の方が上なんだよ。
弾き返した勢いのまま、踏み込んだ。
大振りの後は必ず隙がある。それは道場で何千回教わったことだ。
居合の間合い。
——シュッ。
刀が閃いた。
キングジョーの右腕を裂いた。肘の内側。血が噴いた。
「侍かぁ、てめぇ」
低い声。品定めする目。
腕から血を流しながら、剣を握り直した。握力は落ちてない。こいつ、痛みで動きが鈍らない。
二撃目。
横薙ぎ。通路の壁ごと斬りつけてきた。
しゃがんだ。頭上を剣が通過する。風圧で髪が巻き上がった。
石壁が削れて、粉塵が舞う。視界が白く煙った。
その煙の中で、立ち上がりざまに突いた。
キングジョーの脇腹を狙う。
当たった。
刃が肉に沈む。深い。さっきより確実に深い。
「てぇなコラァ!」
キングジョーが体を捻って引き剥がした。脇腹を押さえている。
初めて声に苛立ちが混じった。目つきが変わった。ふざけた空気が完全に消えた。
三撃目——速かった。
さっきまでと段違いの踏み込み。地面が砕けた。
袈裟斬り。右肩から左腰へ。殺しにきてる。
受けた。
今度は刀の峰で流す。刃と刃が擦れ合い、火花が散って暗い通路を一瞬照らした。
力は拮抗してる。
だが——技術が違う。
受け流した勢いを殺さず、そのまま刀を返した。
キングジョーの顔面を狙って、横一文字。
「っぶね!!」
キングジョーが仰け反った。刀の切っ先が鼻先を掠めた。
皮一枚。あと数ミリで顔を裂いてた。
追撃。
半歩詰めた。下から突き上げる。
刀の切っ先が、キングジョーの喉元で止まった。
——いや、止まったんじゃない。キングジョーが全力で仰け反って、紙一重で躱した。
喉仏の皮膚が裂けて、血の線が一筋走った。
首に——届きかけた。
キングジョーの目が見開かれた。
初めて見た表情だった。驚きじゃない。恐怖だ。
自分が死ぬ可能性を、初めて認識した顔。
「さがれさがれ!!」
キングジョーが後退した。夜露シコ、ぺろりを背中で押し通路の外へ。
初めて距離を取った。初めて退いた。
剣を下ろして、こっちを睨んでいる。
右腕と脇腹から血が垂れて、石畳に赤い筋を作っていた。
「この野郎…………」
吐き捨てた。
その声には、さっきまでのふざけた調子は一片もなかった。
仕留めきれなかった。
だが——実力はわかった。
来いよ、次は絶対仕留める。
どんだけ人間相手に刀振ってきたと思ってんだ。
道場で。そしてこの地獄で。
対人最強は——俺だ。
――――
『1キル!!!!!!!!!!』
『極露詈落ちたああああああああ!!!!』
『カナエ速すぎて何が起きたかわからん』
『キングが追ってきた!!!!』
『やべえやべえやべえ』
『カナエ受けるな!当たったら終わるぞ!』
『当てた!!カナエ当てた!!!!』
『キングから血出てる!!!!!!!!!!』
『顔!!顔斬りかけた!!!!!!』
『退いた……キングが退いた……!!!!』
『うそだろ……追い返した……』
『カナエつえーーーーーーーー!!!』
『対人なら最強だろこいつ……』
――――
【配信】封鎖ダンジョン総合★178【バトロワ】
【速報】カナエ、極露詈を瞬殺!!!!
【速報】カナエ、キングジョーを追い返す!!!!
【衝撃】キングジョーが初めて退いた
ラスト侍KANAE応援スレ ★34
ドミネート宇宙だけは絶対に許すな ★13
MIOちゃんを守る会 ★16
【議論】カナエの居合、キングジョーに通じた件
【検証】キングの傷、腕と脇腹の2ヶ所
赤月リンちゃんの魔法まとめ&切り抜きスレ ★10
GAROの盾についてガチ考察するスレ ★8
聖女AOIとかいう隠れ有能ヒーラー ★9
【考察】残りドミネート3人、カナエ側は……
ぺろりアンチスレ ★5
キングジョーを許すな ★5
【朗報】侍、最強かもしれない




