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【配信デスゲーム】モンスターに弱いオワコン侍、探索者同士の殺し合いでは最強でした~古流剣術は人を斬るための技だった~  作者: 緋村 獏


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視聴者C②


 いける。

蒼天なら——ハルさんなら、いける。



キングジョーの剣が動いた。


素人丸出し、構えなんてない。

ただの、力任せの横薙ぎ。

だが恐ろしく早かった。


ハルさんは避けた。体を半歩引いて——


剣が石畳を掠めた瞬間、床が砕け散った。

破片が弾丸みたいに飛んだ。ハルさんの頬を掠めて、血が滲んだ。


余波。余波だけで、これだ。


ハルさんがもう一度踏み込んだ。

さっきと同じ左脇腹。同じ軌道。同じ角度。


——止められた。


キングジョーの剣が、ハルさんの刃を弾いた。

さっきは反応できなかった同じ攻撃を、今度は完璧に読んでた。


反射速度が違う。

さっき当たったのは油断してただけだ。本気を出されたら——触れない。


ユナが氷壁の後ろから氷の槍を撃った。キングジョーの背中を狙った援護射撃。


キングジョーは振り返りもしなかった。剣を片手で背中側に回して、弾いた。

見てすらいない。反射だけで処理した。


『お前厳しいって、現実見ろって』


キングジョーが真顔で言った。


前蹴り。


ハルさんの腹に、まっすぐ入った。


鈍い音がした。内臓に来る音だった。

ハルさんの体が「く」の字に折れて、地面に崩れ落ちた。


「ハルさん!!!!!!!!!!」

「立って!!!!!!!!!!!!」


叫んでた。スマホを握りしめて、叫んでた。


ハルさんが地面で悶えてた。声が出てない。呼吸ができてない。


コトハが駆け寄って回復の光を飛ばした。

ハルさんの体が淡く光る。でも、すぐには立てなかった。



 

氷壁の向こうで、轟音がした。


ぺろりが剣で氷壁を叩き割ってた。力任せに、何度も何度も。三撃目で亀裂が走って、四撃目で砕けた。

氷の破片が飛び散る中を、ぺろりが笑いながら出てきた。極露詈がその後ろからのそのそ続く。


分断が——三十秒で崩壊した。


通路の向こうで、夜露シコの声がした。


『キングー、こいつ硬いらしいっすよ!』


レイだった。

夜露シコに腕を掴まれて、引きずられてきた。

盾はまだ握ってる。腕を捻られながらも、離さなかった。


キングジョーがハルさんから目を離して、レイを見た。


『よーし力試しじゃ! そいつしっかり捕まえとけ!』


『うーっす』


夜露シコと極露詈がレイの両腕を押さえて、正面をキングジョーに向けさせた。


『盾構えろや!』


レイは——構えた。


言われなくても構えてた。探索者だから。タンクだから。

盾を構えることが、レイにできる最後のことだった。


キングジョーが剣を握った。大きく振りかぶった。


『二郎の呼吸、百の型……』


——まさか。


『三千世界!!!!!!』


剣が盾に直撃した。


盾が——割れた。


ばっくりと、真ん中から。

鉄と木が裂ける音がして、破片が散った。


レイの左腕が、ありえない方向に折れ曲がっていた。


『っ——ぁ、あ゛——』


レイの喉から、声にならない声が出た。

盾の半分をまだ握ってた。折れた腕で。


『いやドンキ製か!!!』


キングジョーが叫びながらレイを斬りつけた。


血が吹き上がる。

 

ハルさんが地面で叫んでた。


『レイ!!!!!!!!!!!!!!!』


声が割れてた。

立とうとしてた。体が震えて、立てなかった。


コトハが泣きながら回復の光を飛ばし続けてた。



 

ハルさんが立ち上がった。


コトハの回復が追いついたんじゃない。

気力だけで立った。


剣を拾った。

構えた。


『ユナ、コトハ——走れ』


低い声だった。

構えを変えた。低く。深く。


Aランクダンジョンの時に一度だけ見せた、全力の構え。


ユナとコトハが走り出した。


ユナが走り出した直後にぺろりが追い抜き前に立ちはだかった。

退こうとしたコトハの後ろに、夜露シコが回り込んでいた。


スピードも、反射速度も違う。レベルが乗った奴らから逃れるのは不可能だった。


逃げ道がなかった。

最初から、なかった。


ハルさんがキングジョーに斬りかかった。

全力の踏み込み。石畳が砕ける。


三連撃。


一撃目——弾かれた。

二撃目——いなされた。

三撃目——手首を掴まれた。


キングジョーがハルさんの手首を握ったまま、持ち上げた。

ハルさんの足が、地面から離れた。


『よう頑張るなぁ、お前』


投げた。

ハルさんの体が壁に激突して、崩れ落ちた。



 

ユナが杖を構えた。

氷の槍。三本。全力で生成して、ぺろりに撃ち込んだ。


ぺろりは二本を容易くかわし、残りを剣で弾き飛ばした。


ぺろりは笑いながら歩いてきた。


ユナがもう一度構えようとした。

ぺろりの剣が、先に動いた。


『やめ——』


コトハが叫んだ。

叫びながら、駆け出してた。ユナの方に。


夜露シコが後ろから髪を掴んだ。


『おねーさん、どこいくんよ』


引き倒されて、石畳に叩きつけられた。


コトハが仰向けで夜露シコを見上げてた。

杖を握り直そうとした。回復の光を——ハルさんに、ユナに、誰でもいいから——


極露詈が杖を踏み砕いた。


コトハの手から、光が消えた。



画面が見えなかった。

涙で、何も見えなかった。


肉を裂く音だけが耳に響いた。

 

ハルさんが壁にもたれて座っていた。

血だらけだった。

剣はもう手になかった。


キングジョーがハルさんの前にしゃがんだ。

目線を合わせた。


『おいヤムチャ、なんで負けたかわかるか?』


ハルさんは答えなかった。


キングジョーの方も見なかった。


倒れているレイの方を見ていた。

ユナの方を。コトハの方を。

一人ずつ、見ていた。


『すまなかった』


ハルさんが言った。


『守れなくて、すまなかった』


キングジョーが立ち上がった。


『負けた理由……明日までに考えとけや!』


笑いながら、剣を振り下ろした。



 

画面が滲んだ。


涙が止まらなかった。

何も見えなかった。


ハルさんは悪くない。

判断も、戦術も、構えも完璧だった。


レベルが違うだけ。

殺した数が違うだけ。


それだけで——全部、壊される。


キルログが流れた。


【 KILL 】ドミネート宇宙 → 蒼天の翼


俺はスマホを布団に投げつけた。

枕に顔を押し付けて、声を殺して泣いた。


嘘だろ。

嘘だって言ってくれよ。



 

どれくらいそうしてたかわからない。


スマホを拾い上げた。

画面が涙で濡れてた。袖で拭いた。


蒼天の翼のチャンネルは、もう真っ暗だった。

トップ画面に四人のシルエット。「蒼天の翼」のロゴ。


コメント欄だけが動いていた。


『ハルさん……』

『最後の「すまなかった」で終わった……』

『レベル差って、こういうことなんだな……』

『もう見るチャンネルがない……』


もう見るチャンネルがない。


蒼天は終わった。探索兵団も終わった。

残ってるのは——ドミネート宇宙と、あの侍のチャンネル。


ドミネートは絶対に見たくない。あいつらの顔を見たら、スマホを壊してしまう。


指が勝手に動いてた。

検索してた。


「ラスト侍KANAE」


タップした。


画面が切り替わった。

暗いダンジョンの通路。松明の灯り。

五人の探索者が、身を寄せ合うように座っていた。


真ん中に黒髪の男。目が死んでる。

刀を膝の上に置いて、黙って配信画面を見つめていた。


コメントを打った。


「『ハルさんの分まで、頼む』」


指が震えてた。



 

――――


 

おいドミネート宇宙のチャンネルバンする方法教えてくれ あいつらの声もう聞きたくない #封鎖ダンジョン

 ♡ 41,200 ↻ 12,800


ハルさんの最後の言葉

守れなくてすまなかった

無理 泣く

 ♡ 89,340 ↻ 28,100


あんなふざけた奴らに勝てないの意味がわからない レベルアップシステム考えた魔王マジで許さない

 ♡ 52,100 ↻ 15,600


カナエのチャンネルに来ました 蒼天の翼ファンです もうここしかないです お願いします

 ♡ 68,400 ↻ 19,200

 

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