表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【配信デスゲーム】モンスターに弱いオワコン侍、探索者同士の殺し合いでは最強でした~古流剣術は人を斬るための技だった~  作者: 緋村 獏


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/19

視聴者C


 ハルさんに憧れて、探索者を目指した。


中学の時、初めて蒼天の翼の配信を見た。

ダンジョン中層のボス戦。連携がヤバかった。

タンクのレイが前衛を張って、キャスターのユナが氷壁で退路を塞いで、ヒーラーのコトハが全員の体力を綱渡りで繋いで。


その真ん中で、ハルさんが剣を振るってた。


派手じゃなかった。

大技もない。必殺技もない。

ただ、全部が正しかった。


立ち位置。タイミング。判断。撤退の指示。追撃の合図。

無駄が一個もなかった。


「こういう探索者になりたい」って思った。

それが全部の始まりだった。


高校辞めて、探索者の養成所に入った。

親にはだいぶ反対された。

「配信者に憧れてるだけだろ」って。


違う。

ハルさんは配信者じゃない。探索者だ。

画面映えとか再生数とか、そういうのじゃない。

ハルさんの配信を見てたら分かる。


養成所の訓練がキツい日は、蒼天の翼のアーカイブを見返した。

ハルさんの判断を何度も巻き戻して、全部ノートに書き出した。


いつか、ああなりたい。

いつか、ああいうリーダーになりたい。


だから——封鎖ダンジョンの配信が始まった時、真っ先に蒼天の翼のチャンネルを開いた。



 

画面の中で、ハルさんは変わってなかった。


魔王が殺し合いを宣告した直後。

パニックになる周囲の探索者たちの中で、ハルさんだけが冷静だった。


転移された直後に周囲を確認して、仲間を集めて、声を落として指示を出してた。


『まず移動する。戦闘は避ける。情報を集めろ』


俺がノートに書き出してきた判断と同じだった。

状況が不明な時は動くな。観察しろ。生き残ることを最優先にしろ。


ネットに書き込んだ。


「『蒼天なら大丈夫。ハルさんの判断見てろ。絶対に生き残る』」


いいねが、いくつかついた。


蒼天の翼は序盤、極力戦闘を避けていた。

ダンジョンの構造を把握して、安全な拠点を確保して、じっと待った。


一度だけ、戦闘があった。

別のパーティに襲撃されて、応戦した。正当防衛だった。

ハルさんの判断は明確だった。『来るなら仕方ない。仲間は守る』。

蒼天の連携で返り討ちにした。四人。きっちり倒した。


コメント欄が荒れた。

『殺したくせに正義面すんな』『結局お前らも人殺しじゃん』。


違う。襲われたんだ。守っただけだ。

でも、殺したのは事実だった。


ハルさんの表情は変わらなかった。

いつも通り。何も変わらない顔。


でも、その夜の配信で、ハルさんが一人で見張りをしてる時——剣を握る手が、少しだけ震えてたのを、俺は見逃さなかった。


レベルアップの情報が出回り始めた。


殺した数だけ強くなる。

戦闘を避ければ、相対的に弱くなっていく。


蒼天は正当防衛で四キル分のレベルが乗っていた。

それでもハルさんは、自分から仕掛けることはしなかった。


正しいと思った。

思いたかった。


同接が上がっていく。

蒼天の翼の配信に、人が集まり始めてた。

殺し合いを見たくない人たちが流れてきてた。


コメント欄の空気が変わった。


『蒼天の翼はこれ以上戦わないでほしい』

『ハルさんお願い、もう殺さないで』


——気持ちはわかった。


ハルさんは聖人じゃない。探索者だ。

必要なら戦う。仲間を守るためなら、剣を振るう。

もう一度襲われたら、また殺す。そういう人だ。


でも、そのコメントを打ち消す気にはなれなかった。

俺だって——ハルさんには、これ以上手を汚してほしくなかったから。



 

探索兵団とラスト侍KANAEに同盟を持ちかけて停戦になった。


その直後、救助の報せが来て——そして、すぐに消えた。


ダンジョンがない。掘っても何もない。

救助は来ない。


画面の中で、蒼天の翼は黙ってた。

レイが拳を握りしめてた。ユナが目を伏せてた。コトハが唇を噛んでた。


ハルさんだけが、正面を見てた。


『変わらない。やることは変わらない』


『生きて帰ろう。全員で』


——泣きそうになった。


スマホの画面がにじんで、慌てて目を擦った。

養成所の寮のベッドの上で、一人で泣いてた。



 

コメントが荒れ始めたのは、その直後だった。


『ドミネートが探索兵団と接触した模様』

『やべえ鉢合わせだ』

『探索兵団逃げろ!!!!』


探索兵団——停戦を持ちかけた、あの相手だ。


ハルさんがコメントを読んだ。

一瞬だけ目を閉じた。


そして——立ち上がった。


『行くぞ』


レイが驚いた顔をした。


『隊長、探索兵団のところにですか?』


『同盟は断られた。でも停戦はした。見殺しにはしない』


ユナが口を開きかけた。何か言いたそうだった。

でも、飲み込んだ。


四人が走り出した。


コメント欄が爆発した。


『ハルさん!!!!!!!!』

『助けに行くのか!!!!』

『蒼天の翼かっけえ……』

『間に合ってくれ!!!!』

『頼む!!!!!!!!!!!!』


俺も祈ってた。


間に合え。

ハルさんなら間に合う。

ハルさんの判断はいつも正しい。


蒼天の翼が通路を駆け抜けていく。

ハルさんが先頭。いつもの陣形。走りながらでも崩さない。


キルログが流れた。


【 KILL 】ドミネート宇宙 → 探索兵団


「嘘だろ……」


声が出た。


蒼天の画面を見た。

ハルさんが——立ち止まっていた。


通路の先。広い部屋。

探索兵団の四人が、倒れていた。

もう動いてない。


間に合わなかった。



 

『お、なんかきたで』


声がした。


部屋の奥。上半身裸の男たちが、こちらを向いていた。

全身の刺青。血に濡れた武器。

探索兵団の返り血が、まだ乾いてなかった。


ぺろりが、足元の何かを蹴った。


『シューーート!!!!!!』


転がってきた。

レイの足元に当たって、止まった。


首だった。

探索兵団の誰かの首だった。目が開いたまま、レイを見上げていた。


『超エキサイティン!!!!!!』


勇者夜露シコが両手を広げて仰け反った。

舌を出して、ふざけたポーズ。


レイが凍りついていた。足元の首から、目を逸らせないでいた。

ユナが口を押さえた。コトハが悲鳴を飲み込んだ。


ハルさんだけが、動かなかった。

目の前の光景を見て——拳が白くなるまで、剣を握り直した。


『どーもー! キングジョーでっす!』


キングジョーが蒼天の配信カメラに向かってポーズを取った。乳首の前で指ハート、意味不明だ。

他人の配信で自己紹介してる。探索兵団の死体を踏んだまま。


『今日の企画は?』


夜露シコがMCみたいに振った。


『まぁシンプルに、強くなった感じあるけん試したいやん?』


キングジョーが首をゴキゴキ鳴らした。


『からの?』


極露詈が間を置いた。


『攻略パーティ、シンプルにぶっ殺してみた!!!』


四人が両手を広げた。ポーズを決めた。

企画発表のテンション。笑ってる。


ハルさんは無言だった。

剣を構えた。腰を落として、重心を低く。


いつもの構え。

養成所の教官が「教科書みたいな構え」って褒めてた、あの構え。


『いくぞ』


ハルさんが短く言った。


蒼天の翼が、動いた。



 

最初の三十秒は、蒼天が圧倒してた。


ハルさんがキングジョーに斬りかかった。

フェイントを二つ挟んで、本命は左脇腹。

キングジョーが反応する前に、刃が肉を裂いた。


血が飛んだ。

肉が裂けて、赤い筋が走った。


同時にユナが氷の槍を三本同時に生成、ぺろりと極露詈を分断した。

氷壁が通路を塞いで、ドミネートの連携を断ち切る。


レイが勇者夜露シコの正面に立ちはだかった。

盾をぶつけて、壁際に押し込む。


完璧だ。

対集団は分断して各個撃破。蒼天の翼の十八番。


コメント欄が沸いた。


『いけるぞ!!!!』

『ハルさん当てた!!!!!!』

『蒼天の連携最強!!!!!!!!』

『分断成功!!!!!!』

『探索兵団の仇!!!!!!!!!!!!!!』


俺も叫んでた。声が出てた。寮の部屋で一人で叫んでた。


「いけぇぇぇぇ!!!」


いける。

蒼天なら——ハルさんなら、いける。


 


――――

 


『蒼天きたああああ!!!!』

『ハルさん間に合わなかった……でも戦ってる!!』

『分断成功!!各個撃破いけるぞ!!』

『探索兵団の分まで!!!!!!』

『キングジョーに血出させた!!!!』

『いけるいけるいける!!!!!!!!』

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ