最低
「……どう、しよっか」
リンが壁に背を預けたまま呟いた。
いつもの明るさがない。声が沈んでる。
「うむ……」
ガロが腕を組んで唸った。盾を傍らに置いている。
沈黙が重い。
壁を掘っても、その向こうにダンジョンはない。
救助は来ない。外からの助けは、ない。
全員がそれを理解してしまった。
「……転移っつってもさ」
俺は口を開いた。
「すげえ人数が捜索してんだし、もしかしたら見つかるかもしんねえだろ」
根拠はない。
でも、言わなきゃいけなかった。
「大丈夫だって。信じて待とうぜ」
笑った。
たぶん、下手くそな笑顔だった。
「……そうでござるな!」
ガロが立ち上がった。盾を拾い上げる。
いつもの姿勢。背筋が伸びた。
「だね! 待つしかないなら待とう!」
リンも声を張った。少し無理してる。でも、目が前を向いた。
「……よき」
アオイが親指を立てた。
ミオも小さく頷いた。
笑おうとしてた。口の端がかすかに上がってる。
嘘だった。
魔王の異常な力で転移したこの空間が、外の人間に見つかる可能性は正直薄いと思ってる。
あの力は次元が違う。Sランクの黄金拳を一瞬で殺し、俺たち全員の体を拘束し、ダンジョンごと空間を切り離した。
そんな存在が作った檻を、外から壊せるとは思えない。
それでも——そもそも俺には、救助を待つ以外の選択肢なんてなかった。
魔王が提示したルールは「四人一組」のパーティ同士の殺し合いだ。
最後の一パーティになること。それが勝利条件。
ミオは、俺たちのパーティじゃない。
開始時に組んでいた仲間。それが「パーティ」の定義だとすれば、ミオは別枠だ。
最後のパーティに残ったとして、ミオがどう扱われるか……。
俺はミオと離れるなんてできない。
考え込んでいると、視線を感じた。
顔を上げた。
アオイと目が合った。
親指を立ててる。
……もしかして、考えてること全部わかってるのか。
エスパーかお前。
アオイの無表情が、なんかちょっとだけ柔らかく見えた。
気のせいかもしんないけど。
「……コメント、動きあり」
アオイの声。
穏やかな空気が、一瞬で張り詰めた。
「どうした!?」
配信画面を覗き込んだ。
コメントが加速してる。滝みたいに流れる文字列の中から、必死に断片を拾う。
『ドミネートが探索兵団と接触した模様』
『探索兵団の配信で映ってるぞ』
『やべえ鉢合わせだ』
『探索兵団逃げろ!!!』
『あーあ終わったわ』
探索兵団——。
蒼天の翼と同じ、停戦派の連中だ。堅実な攻略スタイルで、無茶はしないタイプ。
できるなら、勝ってほしい。
地力なら絶対負けないはず。
ただ——レベルが違いすぎる。ドミネートはもう何パーティ食ってる?
「やべぇな……」
「……大丈夫かな、探索兵団」
リンが不安そうに画面を見つめてる。
「みんな、状況教えてくれ! 頼む!」
カメラに向かって叫んだ。
コメントが応えた。
『探索兵団のリーダーがドミネートと話してる』
『説得しようとしてるっぽい?』
『手を広げて敵意ないアピールしてる』
『まじか交渉するんか』
『いけるか……?』
「交渉?」
リンが声を上げた。
「バカ、無理だって!」
思わず声が出た。
ありえない。そんなの飲むタイプじゃないだろ。
『ドミネート側も武器下ろしてる……?』
『キングジョーが握手求めてるぞ』
『え、マジ?和解ある??』
『歴史的和解来るか!?』
『いやいやいや信じんなよ』
「あれ? 意外と……いける感じ?」
リンの声に、わずかな希望が混じった。
「ちげえって、そんなぬるい連中じゃねえんだ!」
胸の奥で警報が鳴ってる。
コメントの流れが変わった。
『え?』
『は????』
『うそだろ』
『全員に剣突きつけてる!!!!』
『やっぱ罠じゃねえか!!!』
『握手したまま首に剣あててる』
『ふざけんなよ!!!!』
『探索兵団動けない……』
『なんで殺さないんだ?』
『こわいこわいこわい』
「そんな……」
リンの声が掠れた。
くそっ。
やっぱりだ。握手しながら武器を突きつける。最初から殺す気だった。
なのに——すぐ殺さない。
そこが一番気持ち悪い。
『なんかキングジョーが喋ってるぞ』
『死ぬ順番をリーダーに選ばせるってよ』
『は????』
『悪趣味すぎる……』
『リーダーに仲間の中から死ぬ奴選べって言ってんのか』
『鬼畜すぎんだろ』
『探索兵団のリーダー泣いてる……』
頭がイカれすぎなんだよ、あいつらマジで。
殺すだけじゃ足りない。
選ばせる。仲間の命を天秤にかけさせる。
それを配信に乗せて、笑いながら見せる。
吐き気がする。
「……ひどい」
ミオが口元を手で押さえていた。
『リーダー選べない……泣いてる……』
『そりゃ選べるわけねえだろ……』
『制限時間つけやがった』
『10秒って言ってる』
『選ばなかったら全員殺すって』
『カウントダウン始まった』
『リーダーの顔やめろ……見てられない』
『5、4、3……』
『選べないよそんなの……』
『1——』
『タンクが「俺でいい」って言った……』
『ああ……』
コメントを読むだけで、胸が潰れそうだった。
『タンク殺された……』
『リーダーが叫んでる……』
『選べなかったから時間切れ扱いだってよ』
ダメだ。全滅する。
コメントの濁流が止まらない。
『次だれ殺すかで揉めてる……ドミネート内で』
『は???揉めてる理由がヤバい』
『リーダーのちんこの長さで決めるらしい』
『頭おかしい』
『もう見てられない』
『なんだこいつら……』
「……最低」
ミオが搾り出すように言った。
俯いている。拳が白くなるまで握りしめていた。
『なんか長かったらしくてキングがキレてる』
『え、それで殺すの????』
『リーダー首切られた……』
『ふざけんなよ!!!!!!』
『キャスターが反撃した!!!!』
『雷撃!!!』
『おおおおおおお!!!!』
『ぺろりに直撃した!!!!!!』
「反撃出たの!?」
リンが叫んだ。
俺も食い入るようにコメントを追った。
『ぺろりダメージ入ってる!!』
『いけ!!いけ!!いけ!!!!』
『頼む!!!!!!』
一瞬——本当に一瞬だけ、空気が変わった。
『ああ……』
『首……』
『キャスター死んだ……』
『一撃だった……』
『ぺろりキレてヒーラーに向かってる』
『ヒーラーボコしてる……やめろ……』
『なんで何度も殴るんだよ……もういいだろ……』
『ヒーラーに自分を回復させてる』
『治させてからまた殴ってる……』
『もうやめてくれ……』
『見れない……』
『頼む……終わらせてくれ……』
『…………おわった』
キルログが流れた。
【 KILL 】ドミネート宇宙 → 探索兵団
赤い文字が、配信画面の端に張り付いた。
数秒で消える。それだけだった。
四人の命が終わったことを示す、それだけの表示。
「……っ」
拳を握った。爪が掌に食い込む。
残り——3パーティ。
ドミネート宇宙。蒼天の翼。俺たち。
――――
『探索兵団……』
『あのタンク最後まで仲間守ろうとしてた……』
『ちんこで人の生死決めんなよ……』
『ドミネート宇宙だけは許さない』
『絶対に許さない』
『ぺろりのやったこと一生忘れない』
『カナエ……頼む……』
『あいつらを止めてくれ……』
――――
【配信】封鎖ダンジョン総合★148【バトロワ】
【悲報】封鎖壁の向こうにダンジョンが存在しない模様
【速報】専門家「ダンジョンごと空間転移している可能性」
【絶望】救出方法、ガチで存在しない Part.2
ラスト侍KANAE応援スレ ★21
ドミネート宇宙だけは絶対に許すな ★8
MIOちゃんを守る会 ★12
【実況】探索兵団、ドミネート宇宙により全滅
【悲報】探索兵団タンク、仲間を庇い死亡
【怒り】ぺろりのヒーラーへの暴行を許すな
蒼天の翼にすべてを託すスレ ★4
赤月リンちゃんの魔法まとめ&切り抜きスレ ★7
聖女AOIとかいう隠れ有能ヒーラー ★7
GAROの盾についてガチ考察するスレ ★4
【考察】魔王の正体と目的を考えるスレ Part.19
【議論】残り3パーティ、誰が生き残るか Part.2
【悲報】ドミネート宇宙のキル数がエグすぎる件
ぺろりアンチスレ ★1
キングジョーを許すな




