同盟
俺たちは食い入るようにコメント欄を見つめていた。
文字が洪水みたいに流れていく。
その中から、断片を拾う。
『掘り始めたっぽい』
『削岩機稼働開始って速報きた』
『たのむ』
『いけるいける』
くそ、まだか……。
早くしてくれ。
あの壁さえなくなれば、こいつらを返せる。
「カナエ殿! 誰か来るでござる!」
ガロが叫んだ。
盾を構えて通路の方を睨んでいる。
まじかよ、こんな時に——
「ガロ、こい! 前張り頼むぞ!」
ガロがこちらに下がり盾を構える。俺も刀の柄に手をかけた。
通路の奥から、足音が近づいてくる。複数。
輪郭が見えた。
——あれは。
蒼天の翼。
リーダーのハルが先頭に立っていた。
軽鎧に長剣。銀髪を後ろで束ねている。目つきは鋭いが、構えていない。
その後ろにメンバーが3人。全員揃ってる。
ざけんなよ、くそ——こいつら、話通じんのか?
「動くな! 動いたら火球ぶっ放す!」
俺は叫んだ。
リンが両手を突き出す。指先に赤い光が灯る。
蒼天の翼の4人が、ピタッと止まった。
ハルが仲間と目配せした。
それから——全員が、両手を挙げた。
「敵意はない。話だけさせてくれないか?」
ハルの声は落ち着いていた。
こっちを刺激しないように、低く、ゆっくり喋ってる。
……よかった。とりあえず戦闘にはならないか。
いや、油断はできない。
「あぁ、そのまま要件を言え」
「同盟——組まないか?」
「同盟?」
「残り4チームなのは知ってるだろ? 正直、ヤバいチームもいる。そいつらに対抗するために、同盟を組みたいんだ」
「なんで俺たちなんだよ。こんな階層にいる格下だぜ?つか、救助が来てんの聞いてねえのかよ。」
「もちろん聞いてる。無事に出られるならそれでいい」
ハルが少しだけ間を置いた。
「けど——万が一ってこともあるだろ?」
不吉なこと言うなよ、こいつ……。
万が一とか、考えたくねえっつの。
「組んでどうすんだよ。ヤバいってドミネート宇宙のことか?」
「ああ。とりあえず殺る気のある奴をなんとかして、それからのことは……そっから考える、かな」
「お前らも俺からしたら充分怖いんだがな。キルログ見たぜ」
ハルが一瞬、目を伏せた。
「……あれは正当防衛だった。信じられないかもしれないが」
正当防衛か。
それは——わかる。こんな状況じゃ、身を守るのに精一杯だ。襲われたら応戦するしかない。
でも——違ってたらどうする。
今、こっちは油断してない。全員が構えてる。
この状態で戦闘が始まったとしても、犠牲なしに勝てる相手じゃない。蒼天は中堅の中でも上位だ。
そんな相手に、横を預けるのか。後ろを任せるのか。
罠だったら即詰みだ。
それに——結局、最後はどうすんだって話だ。
ドミネートを倒した後、俺たちと蒼天で殺し合うのか?
同盟は、ない。
「停戦なら……停戦なら受けれる」
ハルが少し考えるように目を細めた。
仲間たちと視線を交わす。
「探索兵団と同じか」
探索兵団にも持ちかけてたのか。向こうも断ったってことだな。
まあ、そりゃそうだ。この状況で他パーティに背中預けるなんて、正気じゃできない。
「……わかった。停戦で頼む」
ハルが頷いた。
悪い奴らじゃなさそうだ。
声のトーンも、仲間への目配せも、余裕のない中で誠実にやろうとしてる感じはある。
でも、感じがいいからって信じるわけにはいかない。
このミスは致命傷になる。絶対にダメだ。
「救助待つなら向こうの部屋で頼むぜ」
「わかった」
ハルが仲間に顎で合図した。
「みんな、行こう」
蒼天の翼の4人が踵を返した。
足音が遠ざかっていく。何度か振り返っていたが、やがて通路の奥に消えた。
「ふぅ……」
息を吐いた。
背中がびっしょり濡れてた。嫌な汗だ。
「よかった……」
リンが手を下ろした。指先の赤い光が消える。
「焦ったでござる……」
ガロが盾を降ろして、額の汗を拭った。
ミオが俺の袖をそっと摘んでいた。気づかなかった。
全員が、一息ついた。
「……よくないかも」
アオイの声。
配信画面を見つめたまま、呟いた。
「えっ? どうした?」
「……不穏」
俺は配信画面を覗き込んだ。
コメントを追う。
『掘り進んでるけど何もないらしい』
『壁の向こう、ただの地盤だってよ』
『50m掘っても何もない』
『ダンジョンがない……?』
『嘘だろ……?』
『場所自体が転移してるんじゃないかって専門家が言ってる』
『つまりダンジョンがどこにあるかわからないってこと?』
『救助無理じゃん……』
『終わった』
は?
嘘だろ……。
壁を壊しても意味がない。
ダンジョンが——そこにない。
場所ごと、どこかに消えてる。
「そんな……」
リンの声が掠れた。
沈黙が落ちた。
さっきまであった希望が、音を立てて崩れた。
誰も何も言えなかった。
ガロが拳を壁に叩きつけた。
鈍い音が反響した。
ミオが俺の袖を握る手に、力が入った。
アオイが配信画面から目を逸らして、天井を見上げた。
俺は——立ってるだけで精一杯だった。
救助は来ない。
外から助けてくれる人は、いない。
ここから出るには——魔王のルールに従うしかないのか。
最後の1パーティになるまで——殺し合うしか。
――――
『嘘だろ……』
『ダンジョンごと消えてんのかよ』
『カナエ……』
『ミオちゃんの顔……』
『ガロが壁殴った……』
『やめろ泣くな俺が泣く』
『どうすんだよこれ……』
『ドミネートが動いた』
――――
【配信】封鎖ダンジョン総合★134【バトロワ】
【悲報】封鎖壁の向こうにダンジョンが存在しない模様
【速報】専門家「ダンジョンごと空間転移している可能性」
【絶望】救出方法、ガチで存在しない
【緊急】ダンジョン入口前の家族たちが崩れ落ちる
ラスト侍KANAE応援スレ ★18
ドミネート宇宙だけは絶対に許すな ★5
MIOちゃんを守る会 ★10
【議論】中から出る方法は本当にないのか Part.3
【考察】魔王のルール「最後の1パーティ」を達成すれば出られるのか?
蒼天の翼にすべてを託すスレ ★2
探索兵団応援スレ ★2
【実況】蒼天の翼、KANAEと停戦した模様
赤月リンちゃんの魔法まとめ&切り抜きスレ ★6
聖女AOIとかいう隠れ有能ヒーラー ★6
【考察】魔王の正体と目的を考えるスレ Part.17
GAROが壁殴ったシーンで泣いた奴の数→




