視聴者B
画面の向こうで、あやにゃが泣いていた。
ましゅまろ女子会のリーダー。
いつもは「今日のリップ超かわいくない?」って笑ってる子が、顔をぐちゃぐちゃにして叫んでた。
『お願いします助けてください! 全然企画とかじゃないんです!』
声が裏返ってた。
マイクが音を拾いきれなくて割れてる。
……確かに、ましゅ女はこんな企画受けるタイプじゃない。
ゆるくて、平和で、コスメとダンジョン飯の話しかしないチャンネル。
ホラー系の案件すら断ってたの知ってる。
どうしよう。
なんとか——なんとかしなきゃ。
とりあえずSNSに書き込んだ。手が震えてまともに打てない。
『ましゅまろ女子会の配信見てください あやにゃが助けを求めてます 企画じゃないです 本当に誰か助けて #封鎖ダンジョン #ましゅまろ女子会』
投稿。
次に掲示板——
いや待って待って待って。
違う、そんなのあとでいい。
まずあやにゃ達の安全だ。
配信画面に戻って、コメントを打った。
「『まずは身を隠してください、岩陰とか通路の奥とか!』……っと」
送信。
コメントが流れていく。他の視聴者の煽りや茶化しの中に、私のコメントが紛れた。
届いて。お願い。
掲示板をチラッと見た。
『バトロワ企画ってどこの事務所?金かかってんな』
『黄金拳の首CG班有能すぎるだろ』
『ましゅまろ女子会はさすがに演技下手で草』
企画じゃないし。
何言ってんのこいつら。ふざけないでよ。
配信に目を戻した。
『信じてくれてありがとう……とりあえず、岩陰に隠れました』
あやにゃが小声で言った。
私のコメント、見てくれたのかな。
わからない。でも、隠れてくれた。
よかった……。
でも、こんなの女の子4人で生き残れるわけない。
早くなんとかしなきゃ。外から、誰かが動かなきゃ。
『あの……私の実家の住所と電話番号、言います』
あやにゃの声が震えてた。
『誰でもいいので電話して、私の家族にこの状況を伝えてください。お願いします』
住所に、電話番号。
配信で自分の実家の情報を晒すなんて、普通ならありえない。
もう確定だ。企画なんかじゃない。
あやにゃが読み上げ始めた。
『えっと……住所が——』
声が掠れてた。何度も詰まりながら、一文字ずつ絞り出してた。
私はメモを取った。手が震えて字がぐちゃぐちゃになった。
よし——私がかける。
スマホで番号を押した。
コール音が鳴る。長い。永遠みたいに長い。
『はい、どなたですか?』
女性の声。穏やかだった。
『あの、私あやにゃさん——彩奈さんのファンで……』
『あら、ありがとうね。でも電話は困るわねぇ、番号どこで……』
あ、バカだ私。違う違う、そうじゃない。
『あの違うんです! 彩奈さんが事故に巻き込まれて大変なことになってて!』
『——え? どういうこと? 詳しく教えて?』
声のトーンが変わった。
『ダンジョンに入ってたんですけど、中が封鎖されて、殺し合いに巻き込まれてて……』
『殺し合い……? そんな……彩奈は無事なの?』
『今のところは大丈夫です。でも、急がないとまずいです。本当に……!』
『わかった、警察……あと防衛庁にも電話してみるわ。ありがとう、教えてくれて本当にありがとう……!』
『お願いします!』
電話が切れた。
手がまだ震えてる。
よし、これで少し前進……。
配信画面に目を戻した。
「——うそ」
あやにゃの配信画面の端に、人影が映ってた。
上半身裸。全身に刺青。
ドミネート宇宙。
よりによって——最悪の、最低の奴ら。
まだ……バレてないはず。
あやにゃ達は岩陰に身を潜めてる。みんな口を押さえて、必死に息を殺してた。
『ふごふご……なんか雌の匂いするぶー』
ドミネート宇宙のぺろりが言った。
四つん這いで地面に鼻をつけてる。犬みたいに。
嘘でしょ……。
『おい雌おるってよ! 全員ユニフォームなれ、失礼やろが!』
リーダーのキングジョーが叫んだ。
上裸だった4人が、服を脱ぎ始めた。全裸になった。
下半身にまでびっしりと刺青が入ってる。
もう、何もかもおかしい。
お願い、見つからないで……。
『ぺろー、どこやー!』
『ちょいまてーや!! 集中させぇ!!』
ぺろりが怒鳴った。地面に顔をつけたまま、匂いを辿ってる。
這いずりながら、岩陰に近づいていく。
あやにゃ達が震えてるのが画面越しにわかった。
誰も声を出せない。泣き声すら押し殺してる。
『あ、おるおる。近いで』
ぺろりが笑った。
岩陰から、ぬっと顔を覗かせた。
目が合った——画面越しに、私と目が合った気がした。
『おったでー』
軽い声だった。
獲物を見つけた声だった。
『キングー、こっちー。女や女ー』
リーダーを呼んでる。
足音が近づいてくる。重い。複数。
『どーもー! キングジョーーーでっす!』
全裸で現れた。
乳首を指ハートで摘む、下品なポーズ。
ヘラヘラ笑ってる。
あやにゃが飛び出した。
『いやぁぁぁぁぁ!!』
剣を突き出した。キングジョーの脇腹を掠めた。
血が——少しだけ出た。でも、浅い。全然刺さってない。
『いってぇやろが!! なんしてくれとんかこんボケが!!!』
キングジョーの顔が変わった。
笑いが消えた。
剣を振り上げた。
『あやにゃ逃げて!!!!!!!!!』
コメントを打った。
打ちながら泣いてた。届くわけないのに。
斬りつけた。
あやにゃの体が崩れた。
他のメンバーの悲鳴が重なった。
もう見てられなかった。
私は目を瞑った。肉を刻むような嫌な音だけが響く。
『なんしてんすかキングー、せっかくユニフォームなったのに』
勇者夜露シコがヘラヘラ笑いながら言った。
ドミネート宇宙の笑い声が響いた。
配信が——ブツッと切り替わった。
画面が真っ暗になった。
あやにゃのチャンネルのトップ画面に戻ってた。
ピンク色の背景に、4人の笑顔のイラスト。
「ましゅまろ女子会♡」
涙が止まらなかった。
スマホを握りしめたまま、声を上げて泣いた。
どれくらい泣いてたかわからない。
目が腫れてた。ティッシュの山ができてた。
SNSを開いた。
通知が溜まってた。
私のさっきの投稿——リポストが回り始めてた。
でもリプライの半分は「企画乙」「釣り」「はいはい」。
……誰も信じてくれない。
スクロールしていたら——一件、目に留まった。
アイコンは花の写真。フォロワー23人。
プロフィールに「二児の母」とだけ書いてある。
『娘と連絡が取れません。ましゅまろ女子会のメンバーです。先ほどファンの方からお電話をいただき配信を確認しました。あれは演技ではありません。配信に映っているのは本人です。娘の名前は——』
あやにゃの、お母さんだ。
電話した、あのお母さんだ。
投稿にはダンジョンの入口だった場所の動画が添付されてた。
壁になってる。完全に塞がってる。
カメラの奥で、誰かが泣いてた。
『お願いです。これは企画ではありません。娘を助けてください。誰か助けてください。』
私はそのツイートを引用リポストした。
『この方はましゅまろ女子会あやにゃのお母様です。さっき私が電話しました。企画じゃないです。本当に人が死んでます。お願いだから拡散してください。』
投稿した。
絶対に、拡散させる。
――――
バトロワ企画えぐすぎて寝れんのやがwww今年一番おもろい #封鎖ダンジョン
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あやにゃの泣き顔で抜いたわ ましゅまろ女子会最高のファンサありがとう
♡ 312 ↻ 89
てかこの企画の運営どこ?公式アカウントもないしプレスリリースも出てないの普通に変じゃない?
♡ 1,408 ↻ 4,205
配信止められないってどういうこと?運営に問い合わせたら「こちらでも原因不明」って返ってきたんだけど。誰か同じ人いる?
♡ 67 ↻ 4,892
娘と連絡が取れません。ましゅまろ女子会のメンバーです。配信に映っているのは本人です。企画ではありません。誰か助けてください。
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