表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【配信デスゲーム】モンスターに弱いオワコン侍、探索者同士の殺し合いでは最強でした~古流剣術は人を殺すための技だった~  作者: 緋村 獏


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/27

朝霧 叶


 ——ガキの頃、俺は弱かった。


体も小さかったし、気も弱かった。

学校じゃ何も言い返せなくて、いつも俯いてた。


「おい朝霧、お前んち剣術道場なんだろ? やってみろよ」

「できねーのかよ、ダッセ」


ランドセルをぶちまけられた。

教科書が廊下に散らばった。

拾おうとしたら、踏まれた。


何も言えなかった。


「——何やってんの」


声がした。

振り返ると、栗色の髪の女の子が立っていた。


白石澪。隣の家の子。


「やめなよ」


ミオは俺の前に立った。

小さい体。でも、背筋が真っ直ぐだった。


「はぁ? お前関係ねーだろ」

「関係あるよ。友達だもん」


睨んでた。

相手の方がデカいのに、一歩も引かなかった。


「うっざ。行こうぜ」


舌打ちして、そいつらは去っていった。


「カナエちゃん、大丈夫?」


振り返ったミオは、もう笑ってた。

さっきまで睨んでた顔と同じ人間とは思えない。


「……うん」

「教科書、拾お?」


しゃがんで、散らばったページを丁寧に集めてくれた。


いつもそうだった。

俺が泣きそうになると、ミオが前に立った。

俺が俯くと、ミオが手を引いた。


道場でも一緒だった。

じいちゃんの素振りを隣で真似して、俺より先に型を覚えて、俺より先にじいちゃんに褒められた。


悔しかったけど、嫌じゃなかった。

ミオが笑ってると、なんか安心した。


 

ミオの家は、うちの隣だった。

両親は共働きで、ミオは放課後よくうちに来てた。


母さんが好きだったんだと思う。

「おばさん、おばさん」って懐いて、台所で一緒に飯作ってた。

母さんもミオのことを本当の娘みたいに可愛がってた。


春になると、ミオの両親とうちとで花見に行った。

ちょっと遠い公園で、丘の上にブランコがあった。

 

桜がすごくて、ミオがはしゃいで、母さんたちが笑ってて、じいちゃんが黙って酒飲んでた。

 

あの頃は——全部、普通だった。



 

ミオの両親が死んだのは、小学四年の冬だった。


交通事故。即死。

朝、学校に行って、帰ってきたら「ミオちゃんのお父さんとお母さんがね」と母さんに言われた。


意味がわからなかった。

昨日まで普通に「おはよう」って言ってた人が、もういない。

それが全然、頭に入ってこなかった。


ミオは泣かなかった。

葬式でも、その後でも。

ただ、笑わなくなった。


親戚に引き取られることになった。

隣町だった。


「ミオ、また遊ぼうな」


引っ越しの日、俺はそれだけ言った。


ミオは頷いた。

笑おうとしてた。口の端がかすかに上がって、でもすぐに戻った。


それから、ミオはたまにうちに来た。

親戚の家に馴染めなかったんだと思う。

学校帰りにふらっと道場に現れて、母さんの隣に座って、黙ってた。


母さんは何も聞かなかった。

ただお茶を出して、隣にいた。


ミオはそれで少しずつ、また笑うようになった。



 

母さんが倒れたのは、翌年の夏だった。


病名は覚えてない。覚えたくなかった。

入院して、痩せて、髪が抜けて、声が小さくなって。


じいちゃんは何も言わなかった。

道場で素振りをする回数が増えた。

夜中に一人で振ってる音が、俺の部屋まで聞こえた。


秋に、母さんは死んだ。


じいちゃんが泣いてるのを、初めて見た。

でっかい背中が震えてた。

俺はその背中を見て、ようやく泣いた。


しばらくは何もできなかった。

でも、じいちゃんが道場を開け続けた。俺もそれに合わせて素振りを再開した。

少しずつ、生活が戻り始めてた。


ミオはその間も来てくれてた。

何も言わずに道場の隅に座って、俺たちを見てた。


——ある日、ミオが来なくなった。


最初は気づかなかった。

来ない日もあるかくらいに思ってた。


でも一週間経っても来なかった。

さすがにおかしい。親戚に電話した。


「澪ちゃん? 昨日から帰ってきてないんです。学校にも行ってなくて——」


血の気が引いた。


じいちゃんと二人で探した。

学校。公園。図書館。ミオが好きだった河原。

全部、いなかった。


日が暮れ始めた。

オレンジ色の空が、やけに綺麗で、腹が立った。


全部回った。もう思いつく場所がない。

じいちゃんも黙ってた。二人とも、足が重くなっていた。


——桜。


道端の、もう散りかけた桜の木が目に入った。

一瞬、記憶が弾けた。


あの公園。

花見に行った、ちょっと遠いあの公園。丘の上のブランコ。


まさかな。あそこは遠い。子供の足で行ける距離じゃない。

でも——ミオなら。


「じいちゃん、あと一ヶ所だけ」


走った。

息が切れても走った。


公園が見えた。

丘を駆け上がった。

夕陽がブランコの影を長く伸ばしていた。


いた。


ブランコに座ってた。

揺れてなかった。ただ座って、足元を見てた。


小さかった。

こんなに小さかったっけ。


「ミオ!」


叫んだ。走った。

ブランコの前で止まった。息が切れて、膝に手をついた。


ミオが顔を上げた。

目が虚ろだった。泣いた跡があった。


「なんで……」


声が震えた。涙が出てきた。


「なんでいなくなっちゃうんだよ」


ミオは俺を見てた。

長い沈黙だった。


「……私がいると、みんな死んじゃうから」


小さな声だった。


「お父さんも、お母さんも。おばさんも」


俺の母さんのことだ。


「カナエちゃんにも、おじいちゃんにも……死んでほしくないの」


「だから、いなくなった方がいいかなって」


頭が真っ白になった。

怒りとも悲しみとも違う、わけのわからない感情が胸の中で爆発した。


「ふざけんなよ!」


叫んでた。


「お前がいなくなったら——」


言葉が詰まった。うまく出てこない。

鼻水が垂れた。涙で前が見えない。


「俺が困るだろ!!」


それだけだった。

気の利いたことなんか言えなかった。

ガキだったし、語彙なんかなかった。


でも、本当のことだった。


こいつがいないと、困る。

理由なんかわかんない。でも、困るんだ。


ミオの目が、少しだけ揺れた。

虚ろだった瞳に、何かが戻った気がした。


「……困る?」


「困る。めちゃくちゃ困る」


泣きながら答えた。


ミオの目から、涙が落ちた。

せき止めてたものが、全部溢れたみたいに。


「……ごめんね」


小さな声だった。


「ごめんね、カナエちゃん」


ブランコから降りて、俺の前に立った。

泣いてた。鼻水も出てた。

二人とも、ぐちゃぐちゃだった。


後ろから、じいちゃんの足音が聞こえた。

走ってきたんだろう。息が切れてた。


じいちゃんは何も言わなかった。

でっかい手で、俺とミオの頭を一緒に撫でた。


帰り道、三人で歩いた。

ミオはじいちゃんの右手を握って、俺は左手を握った。


夕陽が沈みかけてた。影が三つ、長く伸びてた。


それから——ミオはうちに来た。

親戚の家じゃなくて、道場に。


じいちゃんが何か話をつけたんだと思う。

詳しいことは聞いてない。


ミオの部屋は、母さんの部屋だった場所になった。

じいちゃんが布団を干して、カーテンを新しいのに替えて、小さい花瓶を置いた。


ミオは「ありがとう」と言って、泣いた。



 


——腕の中の震えが、止まっていた。

 

顔を覗き込んだ。

ミオの目は閉じていた。眠ってる。

 

あの日ブランコで泣いてた顔と、重なった。

 

守るって決めたのは——あの時だ。

もう絶対に、いなくならせない。

 

そっと体を離して、壁に預けた。

 

「……カナエ」

 

リンの声。静かだった。

 

「少し、休も」

「……ああ」


 


――――

 


『ミオちゃん寝た……』

『カナエの顔よ……』

『てかこの二人付き合ってないの嘘だろ』

 

 

――――

 


【配信】封鎖ダンジョン総合★101【バトロワ】

【実況】KANAE、ゆめふわを9秒で壊滅させる【まとめ】

【議論】MIOの1キル、どう見るべきか Part.2

ラスト侍KANAE応援スレ ★8

【速報】ドミネート宇宙さん、3パーティ目を破壊

ラスト侍KANAEアンチスレ ★7

MIOちゃんを守る会 ★5

【考察】カナエの居合が対人特化すぎる件

【悲報】企画じゃない説、もうほぼ確定 Part.3

【考察】魔王の正体と目的を考えるスレ Part.11

赤月リンちゃんの魔法まとめ&切り抜きスレ ★3

聖女AOIとかいう隠れ有能ヒーラー ★3

GAROの盾についてガチ考察するスレ ★2

ドミネート宇宙だけは絶対に許すな

【朗報】応援スレがアンチスレ追い抜いた件

 

【読者の皆様へのお願い】



ここまで読んでいただき、ありがとうございます! もし「面白かった」「続きが気になる!」と少しでも思っていただけたら



下にある【☆☆☆☆☆】から作品への評価をお願いいたします。



面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちもん大丈夫です!



ブックマーク登録もあわせてお願いします!



「評価」が更新の原動力になります。何卒よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ