は?
ブーン……
配信開始のランプが点灯する。カメラが起動し、俺の顔がモニターに映った。
相変わらず冴えない。
「……」
「どうもー、ラスト侍KANAEチャンネルでーす」
声を張る。配信用の声だ。
「新しく出現したダンジョン来たので、さっそく斬り込んで参る!」
画面の端に同接が表示される。
100。
まあ、こんなもんだ。
コメントが流れ始めた。
『こん侍ー』
『こん侍』
『こん侍〜』
『きたなへっぽこ侍』
『リンちゃんきぼん』
「へっぽこじゃねっつの」
横からリンがフレームインしてきた。赤い髪が揺れる。
こいつが映ると画面が華やかになるのが分かる。
「ハロハロ!リンちゃんも斬り込んで参る!」
だいぶ減ったな……。
昔は同接1000くらいいた。今じゃ100がいいところ。
俺らはだいぶ落ち目の配信グループだ。
俺の家が剣術道場をやっていて、古臭い剣道が逆に物珍しくて人気が出た。
「リアル侍がダンジョン攻略」ってコンセプトがウケたのは最初だけ。結局、地味なものは地味だった。
「ほら、2人も挨拶!」
リンが後ろの2人を促す。
「ガロでござる……いざ、参る」
「聖女あおい………参る」
低い声と、消え入りそうな声が重なった。
タンクのGARO。デカい体に似合わず、カメラの前だと緊張する。
ヒーラーの聖女AOI。緑の髪が肩で揺れる。表情が薄くて、視聴者からは「botかよ」とか言われてる。
キャスターの赤月リン。唯一の華。こいつ目当ての視聴者が半分くらいいる。
それに俺、ラスト侍KANAE。
ずっとこの4人でやってきた。
「出たよ!カナエ、ケルベロス!」
リンの声。
前方、三つ首の魔獣が牙を剥いていた。新ダンジョンの中層。
出現モンスターの情報がまだ出揃ってない。
「ぬん!」
ドンッ!
ガロが前に出た。ケルベロスの突進を大盾で真正面から受け止める。
地面が抉れた。
「よし、みんな見とけよ。本物の剣術見せてやる——居合!」
腰を落とす。呼吸を整える。
抜刀。
……シュッ。
刃が閃いた。
ケルベロスの右の首、その片目を斬り裂いた。血飛沫が舞う。
「赤魔法いくよ! それっ!」
リンの手から炎が放たれる。ケルベロスが燃え上がり、絶叫した。
「どうだ見たか、いや見えなかっただろ? これが本物の剣術——ぐぁっ!」
背中に衝撃。熱い。
やられた。前足で引っ掻かれた。
カメラには俺がよろめく姿がばっちり映っているはずだ。
『カナエ雑魚すぎww』
『背中の傷くそわろたww』
『居合(笑)』
「くっそ……油断してただけだっつの」
「カナエ氏、回復……」
アオイの手が光る。傷が塞がっていく。ひんやりとした感覚。
「わりぃ」
結局、ケルベロスはガロが耐えて、リンの魔法で焼き殺した。
俺の出番、居合の一撃だけ。
『リンちゃんナイスー!』
『リンちゃんしか勝たん』
『オワコン侍がんばれ』
「ナイスありがとー!」
リンがカメラに向かって手を振る。コメントが加速した。
「カナエ、大丈夫……?」
リンが振り向いて静かに訊いてくる。
「ああ、サンキュ」
はぁ。
つか、マジでオワコンだよな……。
コンセプト変えるか?
それとも大剣とかに持ち替えて、実力つけて最速攻略狙うか。
——今更どっちも無理だな。
どうしたもんかね……。
『新ダンジョン一組Sランクいる』
『黄金拳きてるってよ』
「そそ! 黄金拳チャンネル来てるし、そろそろボス討伐って感じじゃない?」
リンがスマホで他の配信をチェックしていた。
黄金拳——Sランクパーティ。このダンジョンの攻略一番乗りを狙って動いているらしい。
「あー、そっか。Sランク来ると早いなー」
「撤収……?」
アオイが首を傾げる。
「いや、もうちょいモンスター探そうぜ。俺の剣術見せ——」
シュンッ
——え?
視界が、切り替わった。
足元の感触が変わる。さっきまでいた岩場じゃない。
平らな石畳。冷たい空気。
どこだ、ここ。
周囲を見回す。
人がいる。めちゃくちゃいる。五、六十人はいるか?
全員、武装している。探索者だ。
俺たちと同じ。
「え、なにこれ?」
リンの声が震えていた。
「あっ、見て! 黄金拳の人たちだ。戦ってる……?」
リンが指差す先——はるか前方に、派手な武装の4人が立っていた。
構えている。Sランクパーティ、黄金拳。
その奥に、何かがいる。
「ほんとだ。奥にいるの……人? ボスか?」
ガロが目を凝らす。俺も見た。
人型だった。
長身。仕立ての良い礼装。
ただ、頭に——角が生えている。
黄金拳のリーダーが何か叫んだ。聞こえない。距離がありすぎる。
ギュルルル……
音がした。骨付き肉を、ミキサーにかけて無理やり回したような、嫌な音。
——首が、回ってる。
ヂュッ。
4つの首が、同時に。
ねじ切れた。
肉がちぎれる音。血が噴き出す。体が崩れる。
ボトッ。
何かが足元に落ちた。
転がってきた。
見覚えのある顔。黄金拳のメンバー。
さっきまで生きていた。目が開いたまま、俺を見ていた。
「ひっ……!」
思わず悲鳴が漏れた。
ボス? あいつがやったのか?
一瞬だった。
Sランクパーティが、一瞬で全滅した。
何が起きた。どうやって殺した。
わからない。見えなかった。
「いやあああ!」
「うそ、うそだろ……」
周囲で悲鳴が連鎖している。誰かが吐いた。誰かが腰を抜かしている。
角の生えた人型——あれが、こちらを向いた。
赤い目が、こちらを見ている。
空気が、凍った。
「静かにしてくれ」
声が響いた。
大きくないのに、全員の耳に届いた。
「——私は、魔王だ」
「君たちに殺し合いをしてもらいたい」
は?
――――
『は?』
『デスゲーム?』
『今殺し合いっつった?』
『ネタだろ』
『黄金拳の死体グロすぎ』
『企画始まった?』
『悪趣味すぎる』
『逃げろおおおおお』
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