現れた勇者
前作、「勇者はだれ?」の続編になります。
――王都・中央広場
平和になったはずの空。
そこに、光の柱が落ちる。
眩い閃光。
人々がどよめく。
「勇者様だ……!」
光の中から、一人の青年が現れる。
白銀の装束。
金色の紋章。
手には聖剣。
その姿は、あまりにも“正しい”。
リュカは息を呑む。
胸の奥の暁が、ざわついた。
レオンは剣の柄に手を置く。
本能が告げる。
――敵だ。
青年が口を開く。
「初めまして。この世界の代表者は?」
声は穏やか。
感情が整いすぎている。
リュカが前に出る。
「私はリュカ。暁の――」
青年の瞳がわずかに細まる。
一瞬。
それだけ。
「暁。確認した」
確認?
レオンの目が鋭くなる。
「お前は何者だ」
青年は剣を地に立てる。
「神崎悠真」
広場が静まる。
「そして、この世界では――アルトリウスと呼ばれている」
ざわめきが歓声に変わる。
勇者。
人々は膝をつく。
だがリュカの胸は冷える。
彼の視線は、彼女から逸れない。
アルトリウスが静かに言う。
「この世界は、再編後も不安定だ」
「犠牲発生率、予測値3.7%」
「許容できない」
リュカが眉を寄せる。
「何の話?」
アルトリウスは真っ直ぐに告げる。
「査定の結果――暁はリスク因子だ」
広場の空気が凍る。
レオンが前に出る。
「それ以上言ってみろ」
アルトリウスは表情を変えない。
「排除対象と判断する」
次の瞬間。
世界が静止したように感じる。
リュカの心臓が跳ねる。
レオンが斬りかかる。
だが――
アルトリウスが小さく呟く。
「未来固定」
景色が歪む。
レオンの剣は、既に“届かなかった後”にある。
リュカが息を呑む。
アルトリウスは淡々と続ける。
「安心してほしい。これは憎悪ではない」
「最適解だ」
その目は冷たくない。
怒ってもいない。
ただ、迷いがない。
レオンが低く言う。
「神崎」
その瞬間。
ほんの一瞬だけ。
アルトリウスの瞳が揺れた。
だがすぐに戻る。
「俺はアルトリウスだ」
宣告のように。
そして聖剣が光る。
「次の未来で、君は倒れる」
リュカの暁が燃え上がる。
「未来は、あなたのものじゃない」
光と暁がぶつかる寸前――
王都の鐘が鳴る。
戦いの始まりを告げる音。
三人が、初めて対峙した瞬間だった。
王都の鐘が鳴り続ける。
広場に集まっていた民衆がざわめいた。
しかしそのざわめきは、すぐに形を変える。
「勇者様……」
「本物の勇者だ……!」
誰かが膝をつく。
一人、また一人。
やがて広場の大半が跪いた。
レオンの眉が動く。
「……は?」
リュカも周囲を見る。
違和感。
誰もアルトリウスの言葉を疑っていない。
むしろ――
安心している。
アルトリウスは静かに言う。
「説明しよう」
彼は空を見上げる。
その瞬間。
王都上空に巨大な光の魔法陣が展開された。
人々が息を呑む。
魔法陣の中に映像が現れる。
未来の光景。
都市が燃えている。
瓦礫。
泣き叫ぶ人々。
そして――
その中心に立つ、リュカの姿。
広場が凍る。
リュカの目が大きく開く。
「……これ」
アルトリウスの声は淡々としている。
「未来予測」
「暁の力が完全覚醒した場合、発生する可能性の高い未来」
レオンが吐き捨てる。
「インチキ映像だろ」
アルトリウスは首を振る。
「未来固定の演算結果だ」
「確率82%」
その数字は重かった。
民衆の空気が変わる。
ざわざわと、恐れの波が広がる。
「本当なのか……」
「世界を救った人じゃないのか……?」
「でも勇者様が……」
その時。
重い足音が響いた。
広場の奥。
王城の大扉が開く。
黄金の鎧をまとった騎士団が現れる。
その中央を歩く男。
王。
レオンが目を細める。
「……出てきやがったか」
王はゆっくりと広場の中央へ進む。
そしてアルトリウスを見る。
ほんの一瞬。
二人の視線が交わる。
何かを理解し合ったような沈黙。
王は高らかに宣言した。
「我が国は――勇者アルトリウスを支持する」
広場が揺れる。
リュカの胸が冷える。
王は続ける。
「暁の力は確かに世界を救った」
「だが力は常に暴走する可能性を持つ」
「勇者が危険だと言うならば」
王の視線がリュカに落ちる。
「王国として見過ごすわけにはいかぬ」
騎士団が剣を抜く。
ガチャリ。
金属音が連鎖する。
レオンが小さく笑う。
「はは……」
「まさかここまで露骨とはな」
リュカは拳を握る。
怒りではない。
悲しみでもない。
ただ理解した。
この世界は――
アルトリウスを選ぶ。
アルトリウスはリュカを見る。
その目は冷たくない。
むしろ、どこか哀しい。
「これが最適解だ」
リュカは一歩前に出る。
暁の光が、わずかに揺れる。
「私は」
静かな声。
「あなたの計算には入らない」
レオンが剣を抜く。
「よし」
騎士団を見回す。
「王都全員敵コースか」
アルトリウスが言う。
「抵抗は合理的ではない」
レオンが笑う。
「俺たちは昔から合理的じゃねぇんだよ」
広場の中央。
勇者。
暁。
闇。
三つの力が対峙する。
そして――
王都の兵が一斉に動いた。
戦いが始まる。




