"Method of Period"
夜更け
屋敷の一角にある血袋用の寝室で、寝付けずに窓の外を視て居る
吸血鬼の食餌に過ぎない血袋が、屋敷で部屋を与えられる事など通常では有り得ない
しかし、僕は主様の特別みたいだった
主様から賜った首輪に触れる
緻密な装飾の施された、金の首輪だ
服こそ与えられて居ないが、そもそも吸血鬼は人間に服を着せて管理しない
その為、こうした雪の日には大半が監獄のような部屋で消耗品として死に絶えるのだが、僕の部屋では穏やかな暖炉の火が燃えて居る
『愛されて居るのだ』
意識してそう考えるたび、胸の内で優しさが溢れた
窓の外では深縹色の空に、真っ白な雪がふわふわと散りばめられて居て
夜は、薄白く光って居る
薄闇の中に
雪と雪との狭間に
静かに浮遊する影を認めて、僕は眼を凝らす
自分と同じくらいの背丈の、手と足の在る影だったように視えて
僕は息を呑んだ
不意に
後ろから話し掛ける者が居て、僕は叫び出しそうになる
しかしその口は片手で塞がれ、声が発される事は無い
冷たく
骨張っていて
しっとりと濡れた皮膚の、細い指をした手だった
───ボクを、視て居たね
僕を取り押さえた人物は、僕を床に引き倒すとそう言った
人を呼ぼうとするが、また口を塞がれる
藻掻いて居ると、今度は口の中に彼の指が入って来た
嫌悪と屈辱で涙が流れる
素性も知れない者の指が、僕の舌を挟んでは愛撫する
その指先の優しさのせいか、僕の躰は少しずつ悦び始めて居た
それも、今の僕にはこれ以上無い侮辱であり、屈辱だった
「主様……」
「主様……早く助けて下さい………」
弄ばれながら
僕は熱い息と共に吐いた言葉で、主を呼んだ
侵入者は、にやにやとした声で「やめた方が良いよ」「こんな姿を視られたら、君は処分されるだろうからね」と耳元で囁く
次の刹那には、彼の舌は僕の耳に入って来る
僕はついに耐える事が出来なくなり、甘い声で啼いた
「うん、その方が良いよ」
これだけの事をしたと言うのに、侵入者の声は優しくも明るい響きをして居る
「ボクはね」
「人の血袋を食べるのが、大好きなんだ」
首の付け根を、乱暴に噛み千切られる
もう何も解らない
陶酔のままに、床に組み伏せられた姿勢で僕は悶え狂った
そこから先は永遠であった気もするし、或いは一瞬であったようにも思う
確実に言える事として、今もうその時間は終わった
僕は、絨毯の上で荒い呼吸をいつまでも繰り返して居る
押し入った吸血鬼は僕に興味を喪ったのか、こちらに背を向けて、自分の着衣の乱れを直して居る
いつまでも余韻の中で恍惚として居ると、吸血鬼の少年は僕の首輪に指を掛け、「これ綺麗だね」「欲しくなっちゃった」と、獰猛な嗤いを浮かべた
全身から、血液が後ずさる音が聞こえた気がした
少なくとも、いま僕は真っ白な顔をして居る
これは、彼に血を吸われ尽くしたからでは無い
「貰ってくね」
少年が、造作も無く首輪を千切る
おゆるしください、と声がした
僕の声だった
這うようにして吸血鬼の片足にしがみつく
邪魔そうに蹴られたあと、僕が痛みに手を離すと、今度はしたたかに頭を踏み付けられた
「キミ、さっき自分からもあんなに求めてきたじゃん」
「もう忠誠の証は、相応しく無いんじゃない?」
廊下で足音がする
この音は知って居る
主様の足音だった
『おゆるしください』
僕は今一度、彼の足に縋り付いた
金属音がする
吸血鬼が床に抜き身のナイフを、まるで捨てるように置いた音だった
「使い方は解るよね?」
「じゃ、ボクはもう帰るから」
吸血鬼は黒い霧に姿を変えると、次の瞬間には四散して夜へと溶けていった
僕はナイフを両手で固く握り締める
両眼を閉じると、喉に切っ先を当てる
先端が触れたに過ぎないのに、ナイフは外の景色よりも冷たいものに思えた




