第7話 例外の定着
例外は、一度起きると消えない。
消えないというより、消す手続きが用意されていない。
朝、一覧を開くと、例の案件は同じ位置にあった。
表示は前日と変わらない。記号も、状態欄の文言も同じだ。新しい通知は出ていない。更新がないこと自体が、更新だった。
私は件数を数えた。
全体の数は、昨日と同じ。例外が混ざっても、合計は揺れない。制度は、そういうふうに作られている。
教室へ向かう廊下で、委員の生徒と並んで歩いた。
歩幅が合っているかどうかは、気にしない。自然に同じ速度になる。
「まだ、出てる?」
私は頷く。
「そのまま」
「処理、変わらない?」
質問は、変化の有無を確かめるためのものだった。
私は首を横に振る。変化はない。少なくとも、見える範囲では。
午前の授業中、ノートの余白が少しずつ埋まっていく。
必要な部分ではない。書かなくても困らない場所だ。だが、空白が続くよりは、線がある方が安定する。
昼休み、記録室で端末を開く。
履歴欄に、新しい行が一つ増えていた。時刻だけが更新され、内容は前回と同じ形式だった。
私はその行を開かない。
開けば、読むことになる。読むことは、理解を伴う。今は不要だ。
保留期間は、再計算の表示に切り替わっている。
期限は、再設定されていない。未定、という表示が並ぶ。未定は、未処理ではない。
棚から紙の記録簿を取り出す。
該当のページに、前日引いた線がある。私はその下に、同じ太さで短い線を一本足した。
二重線にはしない。
積み重ねるのではなく、続いていることを示すだけだ。
午後、顧問の教員が短く確認に来た。
「まだ?」
私は頷く。
「変わらず」
「じゃあ、引き続き」
引き続き、という言葉は便利だ。
始める必要も、終わらせる必要もない。状態を保つための指示だからだ。
放課後、委員の生徒が机に近づいた。
彼女は記録簿を一瞬見て、すぐに視線を外す。
「これ、いつまで?」
期限を聞く質問ではなかった。
私は答えない。答えがない質問だ。
彼女は小さく息を吐き、何も言わずに戻った。
言葉にならなかった反応は、ここには残らない。
外は曇っていた。
雨は降っていないが、降らないとも言えない。予報は更新されていない。
私は校門を出る前に、今日の処理を思い返す。
何も進んでいない。だが、止まってもいない。
例外は、特別扱いではない。
通常の流れの中に、居場所を得ただけだ。
保留は、続く。
今度は、静かな形で。
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