第5話 期限の扱い
期限は、記録の中でも分かりやすい指標だ。
数字で示され、越えていいかどうかが明確に決められている。判断を挟まなくていいという点で、扱いやすい。
私は朝、一覧を開き、期限の欄だけを確認した。
今日で期限を迎える案件が一件ある。赤字にはなっていない。警告表示も出ていない。ただ、今日という日付が並んでいるだけだ。
処理を急ぐ必要はなかった。
期限は、到達した瞬間に何かが変わるわけではない。変わるのは扱いだ。扱いが変わることと、内容が変わることは別だ。
午前中の授業が終わり、私は記録室に向かった。
その案件の書類は、すでに箱の一番上に移されている。取り出しやすい位置だが、優先を示すものではない。
内容は、以前にも読んだ。
理由欄は空白のまま、追記もない。提出者からの追加連絡はなかったし、制度側から求める規定もない。
私は時計を一度だけ見た。
まだ時間はある。期限は今日だが、今日の中には幅がある。
昼休み、同じ委員の生徒が声をかけてきた。
「今日までのやつ、あったよね」
私は頷く。
「どうするの?」
問いかけは軽い。
選択肢が限られていることを、彼女も知っている。
「規定通り」
それだけを返す。
彼女は少しだけ眉を動かし、それ以上は聞かなかった。聞いても、変わらないからだ。
午後、期限を迎えた表示が一覧に反映された。
状態は自動的に更新される。「問題なし」。特別な音も、色の変化もない。
私はその表示を確認し、何もしなかった。
移行は完了している。追加の処理は不要だ。
記録簿を開き、該当の行を見る。
保留の印は消えていない。上書きされていない。過去の状態として、そこに残っている。
消すこともできた。
規定上は可能だ。だが、消す理由はない。消すことは、整理であって、処理ではない。
放課後、顧問の教員が立ち寄った。
「期限、来てたのあった?」
「一件」
「問題なし?」
私は頷く。
それで話は終わった。期限を越えなかった以上、それ以上の関心は向けられない。
外は少し蒸し暑かった。
雨が降った形跡はないが、地面は乾ききっていない。境目がはっきりしない状態だった。
私は昇降口で靴を履き替え、今日の一覧を思い返す。
期限を迎え、扱いが変わったものが一つ。
だが、内容は何も変わっていない。
期限は、終わりではない。
判断を先延ばしにしないための、区切りに過ぎない。
保留が終わったあとも、記録は残る。
使われなかった理由と一緒に、そのまま。
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