第3話 再確認項目
定例の確認日は、曜日で決まっている。
理由があって決まっているわけではない。そういう配置になっているだけだ。
私は昼休みの終わりに、記録室へ戻った。
机の上には何も置かれていない。朝の時点で処理すべきものは処理した。残っているのは、保留中の件数だけだ。
端末を起動し、一覧を開く。
項目は多いが、見るべき箇所は限られている。発生日、処理区分、現在の状態。詳細を開く必要はない。
保留件数は、規定値の中ほどに収まっていた。
多すぎず、少なすぎない。上からも下からも、何も言われない数だ。
私はその数字を確認し、端末を閉じた。
記録簿に転記する必要はない。数値は保存されている。
午後の授業が始まる前、顧問の教員が一度だけ顔を出した。
「変わりない?」
問いかけは短い。
私は首を横に振る。変化がないことを、言葉で説明する必要はなかった。
「そう」
それで終わる。
変化がない状態は、報告事項として完結している。
授業中、窓の外で風が強くなった。
雲が流れ、日差しが一度だけ遮られる。教室の明るさが変わり、すぐに戻る。誰も反応しない。
私はノートの余白に、線を一本引いた。
意味はない。書き間違えたわけでもない。ただ、空いていたから引いた。それ以上の理由は必要なかった。
放課後、再び記録室に入る。
定例確認は一日に一度でいい。それでも、机に向かうと自然に一覧を開いてしまう。習慣は判断を伴わない。
新しい申請は来ていなかった。
代わりに、保留期間の経過した案件が一件、自動的に「問題なし」へ移行している。
私はその表示を見て、何も書き足さなかった。
規定通りだ。異議を挟む理由はない。
引き出しから紙の記録簿を取り出し、該当ページをめくる。
名前のない行に、細い線で印が引かれている。私が引いた線ではない。誰が引いたのかも分からない。
線は、何かを示しているわけではなかった。
ただ、そこにあるという事実だけが残っている。
私はその行を飛ばし、次のページを確認した。
保留は減っている。減ったからといって、軽くなるわけではない。減少は状態の変化であって、結果ではない。
同じ委員の生徒が、入り口に立っていた。
「今日、確認日だよね」
私は頷く。
「終わってる?」
「終わってる」
それ以上の会話は続かない。
彼女は一瞬、何かを言おうとして、やめた。やめた理由は分からないし、聞かない。
彼女が去ったあと、私は記録簿を棚に戻した。
棚は奥行きがあり、手前に新しいもの、奥に古いものが並んでいる。どれも同じ色で、違いはほとんどない。
外が少し暗くなっていた。
雨は降っていない。予報では降る可能性があったが、確定はしていない。
昇降口で靴を履き替えながら、私は今日の確認項目を思い返す。
件数、規定値、移行表示。それだけだ。
何も問題はなかった。
だから、何も追加されなかった。
校舎を出ると、風は止んでいた。
雲はまだ低いが、動いている。止まってはいない。
保留は、停滞ではない。
動きを、今は表に出さないという状態だ。
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