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後日談 運用外メモ


 それは、正式な記録ではない。


 提出もされていないし、

 共有フォルダにも存在しない。


 委員会室の隅、

 私物と公用品の区別が曖昧な棚の奥に、

 一冊の薄いノートがある。


 表紙にタイトルはない。

 管理番号も、担当者名も書かれていない。


 制度上は、存在していない。


 私は時々、そのノートを開く。

 業務時間外。

 誰にも見られていないことを確認してから。


 中身は短文ばかりだ。


 「判断は、遅らせるほど鋭くなる場合がある」

 「沈黙は、選択の放棄ではない」

 「線は、引いた人よりも、見た人に残る」


 どれも、提出するには不適切。

 理由としては弱く、

 説明としては曖昧すぎる。


 だから、ここにある。


 今日、新しい一行を書き足す。


 「保留は、誰かのためではなく、

  誰でもない状態を維持するための操作」


 書き終えて、ペンを置く。

 読み返さない。


 これは思考の整理ではない。

 感情の吐露でもない。


 ただ、運用に含まれなかった反応の置き場所だ。


 扉の外で足音がする。

 私はノートを閉じ、棚に戻す。


 鍵はかけない。

 隠しもしない。


 見つかる可能性がある、という状態のままにする。

 それが、このノートにとって一番近い制度的位置だ。


 誰かが読むかもしれない。

 誰も読まないかもしれない。


 どちらでもいい。


 重要なのは、

 書かれなかった理由が、ここに存在していること。


 私は照明を落とし、委員会室を出る。


 このノートについて、

 記録を作る予定はない。


 だが、もし将来、

 誰かが「なぜ、あのとき何も起きなかったのか」と

 問いを立てたなら——


 その答えの輪郭だけは、

 ここに残っている。


本記録は、

現時点において追加の判断を要しないものとして処理されています。


読了後に生じた解釈や違和感については、

個別の対応対象には含まれません。


なお、本件は状況の変化により、

再参照される可能性を否定しません。


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