第12話 記録の残り方
数日後、記録は一覧から下位に移動した。
新しい案件が積まれ、
私が扱ったものは、表示しなければ見えない位置になる。
それでいい。
制度は、忘却を前提に設計されている。
覚え続けるのは、人間の側だ。
私は定期点検の画面を開く。
処理済み、保留継続、経過観察。
それぞれが同じ重さで並ぶ。
例の記録も、同じ色だ。
強調表示はない。
注意喚起もない。
「理由記載あり」の小さな印だけが、
線の位置を示している。
昼休み、委員会室の窓を開ける。
校庭の声が、距離を保ったまま届く。
誰かが笑っている。
誰かが走っている。
そこに、当事者がいるかどうかは分からない。
分からないままで、支障はない。
午後、内部メッセージが一件届く。
「当該案件、監査補助区分より問題指摘なし」
「現行運用を妥当と判断」
それだけだ。
承認でも、評価でもない。
ただの確認。
私は既読をつけ、端末を閉じる。
帰り際、廊下の掲示板に新しい紙が貼られている。
委員会募集の案内。
小さな文字で、条件が並ぶ。
「判断を求められる場合があります」
「沈黙を保てること」
私は足を止めない。
制度は、人を選ぶ。
だが、選ばれた人が何を感じるかまでは、扱わない。
教室に戻り、机を整える。
引き出しの奥に、古いメモが一枚残っている。
以前の担当者が書いたものだろう。
短い走り書き。
「残すか、残さないかではない」
「どう残るかだ」
私はその紙を、元の位置に戻す。
捨てない。
だが、提出もしない。
それが、この場所での正しい扱い方だ。
記録は、未来のためにある。
未来は、記録を必ずしも読まない。
それでも、残す。
使われなかった反応が、
どこかで形を持つ可能性を、完全には消さないために。
私は灯りを消し、委員会室を出る。
扉は静かに閉まる。
その音は、記録には残らない。
だが、確かに、ここにあった。
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