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蛾は餓死を望む

作者: 笹門 優

しいなここみさま主催『朝起きたら企画』参加作品です。


 胡蝶の夢。


 そんな話を読んだことがある。

 蝶になった夢を見て、自分が蝶なのが夢なのか、人間なのが夢なのか解らなくなる、そんな話だったと思う。




 朝起きたら、俺は毛虫になっていた。


(マジか!?)

 

 驚きは言葉にならない。 というか声が出ない。

 虫だからな!


 特徴的な、いかにも『芋虫』という体躯と、そこに生える毛針。

 多分、オオミズアオの幼虫だろう。

 食性の広いこの毛虫なら食べ物に困ることはなさそうだが、将来を考えると絶望しかない。


 何故ならオオミズアオを含めた殆どの蛾は、成虫になると口が退化する。

 つまり、人間の知恵を持って生まれた俺が、それを駆使してどんなに生きようと思っても、その先にあるのは餓死しかないのだ!


 餓死である。


 蛾死とかシャレじゃねーんだ、コンチクショー!

 漢字がやたらと似ているのもなんかムカつくぜ。



 餓死で蛾死。


 蛾死の原因は餓死。


 く――――――っ!

 俺が一体何をしたーっ!?



 そう言えば、アメリカ発祥のモンスターにモスマンって蛾人間がいるんだけど、アイツはメシを食えるのかなあ……?



○ ◇ ○



 何はともあれ、脱出だ!


 我が部屋は観葉植物は多少置いてあるが、それだけでは矢張り餓死してしまうからな。 蛾死だけに……、ってそれはもういいんだ!



 しかし、脱出出来そうな所というと……換気扇か。


 頑張るか。


 まあ、メシを食ってからだが。

 はあ……昨日買った白菜が食べられたらなあ……。

 四分の一カットだったから冷蔵庫の中だよ…………。


 あっ!

 段ボールの中に玉ネギがあったはず!

 観葉植物よりは食い出がある……よな?



◇ ◇ ○



 玉ネギ食ったら、何かピリピリしたんだけど、毒じゃないよな? あれ? 虫の身体には良くなかったか?

 ……ええい、もう喰っちまったもんは仕方ない。



 取り敢えず部屋からは出られたけれど、それだけで一日がかりか……。


 換気扇の隙間から見る外は、とても眩しい。

 カーテンを閉め切っていたから一日ぶりの太陽なのだ。

 ああ、ぬくい……、ってあああああああああああああああっ!!??


 イテテ……足が滑って、落ちちまったよ。 この体躯からしたら随分な高さだけど意外と衝撃は小さかったな。


 そんな地べたを転がった俺を覆う闇 ――というか影。


 そいつを認識した瞬間、俺の体は宙を舞っていた。 スキーのジャンパーの如く、でもないな。 釣り針につけられたイトミミズの如く、こうポーンと。


 どっかのガキンチョに蹴っ飛ばされたようだ。


 危ない危ない。 危うく擦り卸されるところだったぜ。

 それに踏み潰されるよりは全然マシ、とは言え痛みと衝撃に視界がぐらぐら揺れている。 く~、勘弁してくれよ。


「まぁま~、あ~おむ~し~」


 デッカい何かが、俺に覆い被さるような影を作る。 俺を蹴飛ばしたガキンチョか?


 スケールがデカすぎて、まるで視界内に収まりきらないサイズの幼女が俺をツンツンする。 って止めろぉ! こら、止めるんだ! ほら、危ないっての! 毛針が刺さるから!

 オオミズアオの毛針に毒はないはずだけど意外と硬い。 幼い子どもなら刺さる可能性もあるだろう。


「みーちゃん、青虫さんじゃなく毛虫さんでしょ? 危ないから触らないの」


 そこに地響きと共に現われたのはさらに巨大な、ママさんらしい人。

 なんとなく見覚えはあるが、色の認識の違う虫の複眼とこのスケール差ではよく判らんなあ? まあ、この辺にいるって事はご近所さんなんだろうが。

 ちなみにサイズがまるで違うからだろう。 声もかなり野太く聞こえる。 腹の底から響いてくる声だ。


「け~むししゃん?」


 天を貫く程に見える彼女たちだが、それでもママさんの身長は150㎝とか160㎝なんだろうな。

 俺の体高が5㎜くらいだから、人間目線で換算すると…………高さ500mくらいに見えてる、って事でいいのかね?

 そりゃ真面に認識なんて出来ねーわ。


 取り敢えず幼女の注意が逸れている間に撤退だ!

 足をもそもそと動かしつつ視界のそちら側を意識する。 あ、ママさんのスカートの中が見えた! といってもいまいち色が判らんし、デカすぎて雲のように広がる空の一部にしか見えん!


 ――ピキッ!


 んあ? 急に寒気が……?


「そうそう、みーちゃん。

 その毛虫さんね、あっついから水浴びしたいんだって」


「しょ~なの~?」


 誰もそんな事は言ってねえ!?


 え? 何? 何なの!? 覗いてしまったのがバレたの!? 可愛い虫さんの視界にたまたま入っちゃっただけなんだよ!? それなのにいきなり極刑!!??

 て、あ~!! 二本の小枝がまるでお箸のように!

 この鬼! 悪魔! オバハン!


 ――ピキッピキッ!


 えあっ!? ヒィィィィィィィィィィッ! 捕まった!


 怒ってる! 絶対怒ってる! キレてらっしゃる!!


 なんでなんでなんで~、どしてどしてどうして~考えてる事が筒抜けなんだ~!?


「はい、みーちゃん。 バイバイしましょうね~」


「ん~。 ば~いば~い、け~むししゃ~ん!」


 あ、ばいばーい。


 そう返事をするや否や、俺の身体は枝ごと川の中へ。



 くっそ~、絶対に生き延びてやる~。


 目指すは餓死!!




 って、それもヤダなぁ~(ノД`) 



5:1550(150と160の平均、単位㎜)=1550:x

だからx=480.5m でいいんだよね?

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˖˚☼企画概要☼˚˖    ↓起きたら、こうなった
朝起きたら企画
― 新着の感想 ―
戯言士さんからのオススメでたどり着きました(^^) 蛾視点の蛾が餓死するまでのドラマ…シュールかと思ったらとても面白かったです♪ 蛾が口がなくてただただ餓死するだけというのが切ない(ToT) これ…
蛾は口が退化してしまう…一つ勉強になりました。 毛虫は苦手ですが、頑張れ毛虫!と応援したくなりました(笑)
蛾の種類による設定がすごいと思いました。 餓死の宿命を負った虫がいるなんて知らなかったです。 せめて普通に生きられる虫だったら良かったのに……あ、カマキリに捕まったり蜘蛛の巣に引っ掛かったり人に捕まっ…
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