逆上がり記念日
息子が逆上がりをした。
ので、今日は逆上がり記念日だ。
私は一度も逆上がりをしたことがない。
体育の授業中。逆上がり出来なかった者が、やり方もコツも指導されず、出来るまで延々と鉄の棒と戦わされていた、あの公開処刑。回れた者は後ろに待機し、回れない者だけが永遠に無様な姿を晒し続ける。あの時間はいったい何だったのだろう。
自分に息子が生まれた。
逆上がりが出来るか否か。そんなクソしょうもないことで惨めで苦しい思いをさせてはならない。
息子を保育園の時から体操教室に通わせた。運動は苦手だが、今でも楽しく通っている。だが五年も通って一向に逆上がりが出来ないのはどうかと思う。
息子を責めているわけではない。五年通って逆上がりが出来ない指導って、どうよ正直。
そこに通わせ続ける私も私だ。でも楽しそうだからまあいっか。
そんな息子が、今日ついに。
自力で逆上がりをした。
一度目は体育の授業中に。二度目は夜の公園で。
ありがとう。十分すぎる。これで私は成仏できる。
私はどうにもならなかったが、息子があの鉄の棒の野郎に一矢報いてくれたのだ。
今日はなんて日だ。
公園からの帰り道、月がぼんやりと照らす中。
私は息子に、逆上がりのコツを訊ねた。
「嫌いな奴のキンタ〇を、蹴り上げるような気持ちでやるといいよ」
ああ、なるほどね。どうりで上手くいかなかったはずだ。
長年の胸のつかえが、スッと溶けていった。
きみが逆上がり出来たから。
今日はキン〇マ蹴り上げ記念日。




