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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

【BL】十年ぶりの再会

作者: ありま氷炎
掲載日:2025/08/02

 彼と会うのは十年ぶりだろうか。


「田崎、ひさしぶり」


 飯島はそう言って笑った。


 こんな奴だったっけ?

 最初に違和感に気が付いたのは二か月前。

 中学で別れてから十年会っていない。

 俺の勘違いかと俺はその違和感を流した。


「だからさあ。田崎」


 飯島は俺の肩を抱いて、もう一つの手でビールジョッキを掲げる。


「ほら、乾杯」

「あ、ああ」


 俺の知っている飯島は、こんなフレンドリーなタイプじゃないし、あいつは、俺が嫌いだったはずだ。

 なのに、なんで?


「田崎」


 俺に微笑みを向ける。

 眼鏡をかけた細身の男、小さい時から細くて、虐められていた。

 だから、俺は何度も奴を庇った。

 でも奴は、庇う俺に対して礼をいうこともなかった。

 むしろ、迷惑だったのかな。


 偽善者!


 そう言われたことがあって、俺は奴を助けるのをやめた。

 その代わり先生に言った。

 苛めはなくなった。


 初めからそうすればよかったんだ。

 俺は奴を救う自分にうぬぼれていたかもしれない。


「やめろ、いやだ!」


 ごみを焼却炉に捨てて、体育館の裏を通ったら、そんな声が聞こえた。

 駆け付けると、服を脱がされ、乱暴にされそうな奴がいた。

 真っ白な肌が晒され、女みたいだった。


「いやだ!」

「このホモやろう。本当は好きなんだろう!」


 苛めはなくなっていなかった。

 見えないところで、陰湿に続いたみたいだ。


「やめろ!何してんだ。お前ら!」

「げ、田崎じゃん!なんだよ。お前正義漢ぶりやがって。お前も興味あるんだろ?」

「あるわけないだろう?お前らどうかしている。精神科に入院するか?」

「ふざけんな!」


 中島たちは怒鳴り返すと、その場を逃げ出す。


「飯島!大丈夫か?まず服着ろ。俺が保健室へ連れていくから」


 駆け寄りたかったが真っ裸だ。俺は後ろを向いて着替えるのをまった。


「い、飯島?」


 急に背中を抱きしめられた。

 温かい感触が伝わってくる。


「田崎も、俺とやりたいの?」

「はあ?ふざけるな?」

「うそばっかり。変な目で俺をみたただろ?」

「見てない!俺はホモじゃない!早く服着ろよ!」


 背中から伝わる感触が奴が服をきていないことがわかった。


「うそばっかりだな。偽善者め!」


 飯島はそう吐き捨てた。

 眼鏡をはずした飯島は、妙に色気のある少年だった。

 細くて弱弱しい少年。

 中島の奴も最初は虐めていなかったはずだ。

 それがいじめに変わったのはいつだったか。


 それから、飯島と俺は口を利くことはなかった。

 飯島がおかしな目に合う場面にも遭遇しなかったので、俺は気にしないようにした。

 中島が飯島を強引に連れてどこかに行くとき、思わず目で追ってしまったことがあって、飯島と目が合って嘲笑われた。

 嫌な気分になって、俺は目を逸らす。

 飯島は俺が本当に嫌いらしい。

 いや、俺が嫌いだったのか。あんな風に見られるのはたまらなく嫌だった。


「終電なくなったなあ。家に泊めて」

「嫌だ。勝手にどっかのホテルに泊まれ」


 再会してから飲みに誘われることがあり、一緒に飲んだ。

 あの時とは違う陽気な飯島。

 俺を嘲笑うこともない。

 だけど、家に泊めるなんてとんでもない。

 俺は、奴の白い肌をまだ覚えている。

 俺はホモじゃない。だけど気持ちをかき乱されるのはごめんだ。


「そうか。じゃあ、泊めてくれる人を探す」

「おい、なんだ。それ、やめろよ」

「じゃあ、泊めてくれる?」

「わかった」


 仕方なく、俺は奴を泊めることにした。

 下着は貸せないが、服を俺のものを貸した。


 シャワーから出てきた奴は腰にタオルを巻いただけで、火照った肌はピンク色にも見えた。十年たつのに奴の肌は女みたいなままだった。


「服を着ろよ」

「ちょっと体かわかしてから」


 そう言われると何も言えない。意識してるなんて思われるのは嫌だ。

 俺はそれ以上言わず、奴から目を離す。


 話した瞬間、俺は違和感を思い出す。

 飯島の背中にはほくろがあった。

 けれども、今の飯島の背中にはない。

 ほくろだ。

 たかがほくろだ。

 俺はそう自分に言い聞かせた。


「何か飲みたい。何がある?」

「麦茶がある」

「え?麦茶か。嫌いなんだ。水でいい」


 麦茶が嫌い。

 おかしい。奴は麦茶が好きだったはずだ。


 何かがおかしい。

 だけど決定的な事実がない。

 なので、もうやもやしながらもコップにミネラルウォーターを入れてから、奴に渡す。


「俺もシャワー浴びてくる」

「ん、ああ」


 着替えとタオル持って浴室へ向かう。

 シャワーを浴びながら考えをまとめる。

 十年だ。

 十年が彼を変えたかもしれない。

 俺はそう思い込むようにして、浴室から出た。


「田崎」


 居間で飯島はテレビを見ていた。俺の服を着ている。


「ここ座って」


 飯島は自分の隣の席を指定する。


「なんで、わざわざ」

「だってテレビ見やすいだろう」

「そうだけど」


 テレビなんてほとんど見てない。

 興味ないけど、飯島が俺が座るのを待っていて、仕方なく、その隣に座る。


「い、」


 すると、ぺろんと首をなめられた。


「な、何するんだよ」

「美味しい」

「ふざけんな。気持ち悪い」


 俺は立ち上がろうとしたけど、抑え込まれる。

 俺より細いのに、奴は力が強かった。

 顔が近づいてくる。

 奴の瞳が眼鏡越しに見える。


 茶色?


 俺が覚えている飯島の目は黒色だった。

 茶色も遠くから見れば黒色の目に見えることも多い。

 だけど、俺は、奴の瞳が黒色なのを知ってる。

 偽善者と俺のことを罵ったやつの瞳は真っ黒だった。


「好きだ。田崎」


 奴は俺に唇を重ねてきた。 

 俺は必死に抵抗する。

 気持ち悪い。

 なんで男同士なのに。


「逃げないで。俺、ずっと」


 そんなわけがない。

 飯島は俺が嫌いだ。

 奴の瞳は真っ黒だ。


 再び口づけされる。

 今度こそ、俺は抵抗しなかった。


 本当は、俺は飯島が好きだった。

 あの白い肌、偽善者と思われてもおかしくない。

 俺も中島と同じだ。


 ただ手を出さなかっただけ。


「田崎」


 熱に浮かれたような声で俺を呼び、飯島はキスを続ける。

 こいつは、飯島じゃない。

 だけど、俺は……。


 結局俺は飯島の言われるまま、彼を抱いた。

 朝起きると、奴の姿は消えていた。

 電話番号も変わっていた。

 俺は、捨てられたのか?

 なんだったんだ?


 わけがわからくて、でも奴に会いたくて、奴の実家に電話した。


「謙太?謙太は亡くなったよ。二年前に。あんたは誰だ?」


 電話先で、おそらく親御さんにそう言われた瞬間、俺はショックで電話を切ってしまった。

 亡霊?

 そんなわけがない。

 奴が使ったものも残っているし、痕跡もある。

 となると、奴は飯島謙太ではない?誰だ?

 なんで飯島のフリをした?


 俺はわけがわからぬ相手に翻弄された。

 ……飯島の復讐か?

 俺は、俺の汚れた気持ちを認めなかった。

 否定し続けた。

 それを暴きたかったのか?

 でも奴は死んでる。なら、奴の友人が俺のことを知って、俺を弄んだのか。

 馬鹿らしい。


 だけど、俺は奴の痕跡を消したくなくて、シーツをそのままにした。

 幻ではなく、奴がいたことを感じたかった。


「随分痩せた?」


 一年後、奴と再会した。

 随分印象が違う。

 だけど、声でわかった。

 茶色の髪に眼鏡はしていない。


「……俺をからかいにきたのか?」

「そうだね。謙太は馬鹿だ」

「……お前は飯島のなんだ?」

「恋人だった」

「……そうか」


 それで俺は黙る。

 何を言っていいかわからなかった。

 やはり復讐だったのか?でもこんな手間をかけて。自分の体も差し出して?


「……謙太は、君のことが好きだったよ」

「は?」


 何を言ってる。こいつは。


「ずっと君のことを話していた。謙太の目を盗んで君のことを見に行ったこともある。普通の平凡な男だ。君は」

「そうだ。何が悪い」

「別に悪くない。ただつまらない男だと思った。謙太が交通事故で死んでから、俺はずっと謙太のことを忘れられなかった。だから、謙太の気持ちが知りたくて、謙太に成り代わってみた。’俺たちは同じような背格好だったしね。君は見事騙された」

「愚か者だと笑え」

「笑えない。笑われるのは俺の方だ。会うたびに君に魅了された。なぜか謙太が君を好きなのかわかった。だから、君をものにしたかった。だけど、いざ、してみるとがっかりした。だって、君は俺を謙太だと思って抱いた。身代わりだ。だから、俺はもう一回君とやり直したい」


 奴はそう言って微笑む。

 その笑みは俺が最初に違和感を持った微笑みだった。

 あまりにも優しい笑みだ。

 飯島がしたこともない。


「わかった。だったらあんたの本当の名前を教えてくれ」

「…亀田文夫だよ」

「亀田か。俺は田崎竜太郎だ」

「竜太郎。よろしく」


 俺はホモじゃないって思っていた。

 だから飯島に対して覚えた感情を気づかない振りをした。

 だけど、今、俺は自分の嗜好を認める。


「亀田。好きだよ」

「……び、びっくりした。なに、突然」

「気持ちを伝えることにした。誤魔化すことはやめたんだ」

「そっか。それはいいと思う」


 そう言って、亀田は俺にキスを落とす。

 優しい啄むようなキスだ。


(終)








 


 

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― 新着の感想 ―
 友達と思ったら別人だったとは驚きです。  普通に別人と思いつかなかったから、とてもうまくできてますね。  二人はどうなるか、興味深いです。ではまた。
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