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ネコミミ☆パラドックス  作者: ピザやすし
第一楽章 朱のカデンツァ
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第6話 朱

りん、と鳴る鈴の音と共に、ナオが蹴り飛ばされて来る。

「ナオ!」

また立ち上がろうとするナオに駆け寄る。

ナオはゲホゲホ、と咳き込み、血を吐く。

「ナオ、どうして……」

こんなにボロボロになりながら、自分を守ろうとしてくれるのか。

視界が歪んで、ナオの顔がはっきり見えなかった。

無力さが、その手で震えていた。

「シュウジ、酷い顔。」

そう言ってナオは笑う。

そして、静かに言う。

「……ごめん、シュウジ。私じゃ、勝てなかった。」

彼女は俯く。

鈴の音が鳴る。

「そうだ、この鈴が。」

鈴の音が、ナオの居場所を相手に知らせていた。

ナオが、素早く動く度に、鈴の音が響き、相手に対応される。

「ごめん、ナオ。それでも、俺は、君に逃げて欲しいんだ。助かってほしいんだ。」

そう言ってナオの首輪を外す。

手の中で、りん、と澄んだ音が響く。

月が雲に隠れ、辺りが闇に包まれる。


「ふんっ、面倒をかけおって。」

そう吐き捨て、倒れているペットと、盗人に向かって歩む。

「窃盗は、この時代でも犯罪であろう?罰を、与えねばな。」

ペットを躾ける時に使う、電流の棒を右手に転送する。

月明かりが雲に隠れ、棒が放つ光が際立つ。

りん、と鈴の音が聞こえた。

ペットが消え、盗人だけが残されていた。

後ろから、獣人の倒れる音が聞こえた。


身体が熱い。

指先まで、力が入る。

感覚が研ぎ澄まされる。

周りにいる狼型獣人の位置が分かる。

全部で8匹。

群れを率いている1匹が、感覚で分かる。

シュウジを、守らないと。

その思いが身体を動かす。

先程までとは比較にならない程身体が軽い。

群れの長が気付く前に鳩尾に一撃。

がっ、と短く声を上げ、崩れる。

長が倒れ行く間に、続けて3匹を気絶させ、1匹を蹴り飛ばす。

残り3匹。

相手が気付いて反撃をしてくる。

動きが読める。

打撃を躱し、その捻った身体の勢いのまま蹴り飛ばす。

警戒と混乱を感じる。

頭部の猫耳が、第6の感覚器として、敵の混乱を、感情を伝えていた。

後ろから2匹が時間差で狙ってくる。

1匹目の打撃を躱すと、そこに2匹目の蹴りが待っていた。

上に跳躍し、2匹目の頭の上に倒立する形になる。

尻尾が動き、バランスを取る。

そのまま体を曲げて、後頭部に膝を入れる。

めきっ、と音を立て、膝がめり込む。

回転の勢いを利用して後ろに飛ぶ。

片手で軽く地面を押し、足を地面につけ、力を入れて前に蹴り出す。

まだ打撃の体勢から戻り切っていない、最後の1匹を蹴り飛ばす。

ピンと伸びた尻尾が、その体勢を無理なく支えていた。

そして、シュウジの方へ向かう。


「これはこれは。」

少し離れた屋根の上から、戦いを見ていた。

これが軍用。

兵器としての獣人か。

「個人所有が、禁止されるのも納得だ。」

葉巻を取り出し、火を付ける。

闘技場に出すにしても、これでは一方的すぎる。

ただの蹂躙だ。

賭けにならない。

ふぅ、と、煙を吐き出す。

「……段階的制御が、必要か。」

呟きは、煙とともに消えていく。


「な、何が起きている?!」

従えた獣人が次々と倒れていく。

相手を捉えることもできず、一方的に蹂躙されていく。

盗人に向かって走る。

あいつを捕らえて、脅せば止められる筈だ。

月明かりが差し、光が訪れる。

目の前に、朱い光が見えた。

「ぐふっ!」

腹部を蹴られ、後ろへと吹き飛ばされる。

防御膜が衝撃を吸収し、直接の衝撃は無かった。

が、そのまま食らっていたら内臓が破裂していただろう。

吹き飛ばされ、地面を転がり、盗人の方を見る。

防御膜が音を立てて砕ける。

盗人を守るように、朱い目の猫型獣人が立っていた。


「……ナオ?」

ナオに声をかける。

向こうに、地面に伏しながらこちらを見ている男がいる。

「……す、素晴らしい性能だ。金額以上だ!」

男が声を上げる。

不意に、街灯が光を取り戻す。

「旦那!時間切れだ!おたくの獣人は回収してある。撤収だ。」

以前、傘をくれたスーツの男が言う。

「あ、あの時の!」

そう言うと、スーツの男が軽く、また会ったな、と笑う。

「あの性能を前に撤収だと?!捕らえろ!」

そう言う男を、体格の良い男が担ぎ上げる。

「やめろ!放せ!あれは私のだ!」

そう喚く男を肩に乗せ、歪みの中に消えていく。

その後を、スーツの男が手をこちらに軽く振りながら続いていく。

呆然と見送った後、そうだ、とナオの前に出て、その顔を見る。

青く澄んだ瞳は、その色を朱に変えていた。

その目に、涙が浮かんでいた。

「……シュウジ、私……。」

ナオは、震えていた。

その姿に、言葉が出なかった。

「……お願い……。……首輪を、私に首輪を付けて……。」

涙が頬を伝う。

「あ、ああ……。」

それに従い、ナオに首輪を付ける。

ナオは、目を閉じ、その鈴に触れる。

りん、と澄んだ音が響く。

ナオの目から涙が溢れる。

声を上げ、抱き着いてくる。


ナオは、そのまましばらく泣き続けた。

俺は、泣き続けるナオの頭を優しく撫でていた。

それしか、できなかった。

――第一楽章 朱のカデンツァ 完

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