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ネコミミ☆パラドックス  作者: ピザやすし
第四楽章 沈黙の主題

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第22話 喪失

「エラー率六.二%です。増加傾向にあります。」

管制局本部で、計器を見つめる局員が報告する。

「戦力三十五%無力化されました。無力化された隊員を回収します。」

指揮官が報告を聞き、モニターを見ながら指示を出す。

「獣人部隊を投入。ターゲットはコトシロだ。向こうの獣人を縛り付け、直接コトシロを狙う。暗殺部隊を出せ。」

言い終え、少し目を瞑る。

向こうも、こちらの狙いは読み取る筈だ。

目を開き、モニターを見る。

自由に踊る様な動きのツートンヘアの獣人と、ワルツを舞う様に滑らかに動く銀髪の獣人。

その二人の動きに翻弄される局員を見ながら、まるで踊っている様だな、と、呟いた。


獣人部隊に対し、二人の動きは完璧と言って良いだろう。

自由に暴れる様に動き回るミケに、滑る様に動きながら獣人を無力化していくナオ。

噛み合わない様なスタイルだが、互いに補い合いつつ、相手のリズムを崩している。

旦那もサポートに徹している。

シュウジは固まったままだが、こちらは想定通り。

シュウジはただそこに居てくれれば良い。

……これで良いのか?

不安が脳を掠めた。

俺が管制局ならどうするだろうか。

あの二人は厄介だ。

まともにやり合いたくはないだろう。

なら貼り付けて、直接俺を狙う。

俺をこの場で強制排除することが第一目標なのだから。

感覚を研ぎ澄ます。

何処から来るだろうか。

何を、出してくるだろうか。

違和感を感じ取り、自然と右に動く。

頭のあった場所の、後ろの壁に穴が空いていた。

音は聞こえなかった。

向かいに目を向ける。

狙撃手の姿は確認できなかった。

同じものを感じ取り、咄嗟に叫ぶ。

「ミケ!跳べ!」

ミケは直ぐ声に反応して跳ぶ。

壁を利用し、速度を落とさずに距離を取る。

ミケの居た場所の地面に、小さな穴が空いていた。

ミケは排除しても問題無い、と言う判断だろう。

やはり狙撃手の姿は確認できなかった。

厄介だな、と、思った。

その瞬間、背中に冷たい衝撃が走った。

何かが内部を貫く感触。

背後から声が聞こえた。

「ターゲット、排除。」

葉巻が口から滑り落ち、帽子が視界の端で転がる。

声は出なかった。

地面が失われた様な感覚がした。

シュウジが気付いて寄ってくる。

「コトシロさん!え……耳……?」

……しくじってしまったな。

たが、これで良かったのかも知れない。

俺が守る時間は、シュウジにとって、辛い未来の果てだ。

人に、分かっている一つの滅びを避けさせるのも、俺の役目なのかも知れない。

口許に無理やり笑みを作り、シュウジに顔を向ける。

「……シュウジ、すまない。だが、聞いて欲しい。……お前の未来は、誰かに決められるものでは無い。それは、お前自身のものだ。」

ぼやけるシュウジの顔を見ようとするが、よく見えなかった。

「え、一体、何を言って……それより、血が……」

心配する様子を感じたが、そのまま話を続ける。

「……すまない。……シュウジに、ナオと一緒に居させてやれなかった。そういう約束だったのにな……」

もう、何も見えなかった。

ただ、謝っておきたかった。

約束を違えてしまったから。

人に、不誠実をしてしまったから。

こんな時でも、自分は獣人なのだな、と、思った。

そう思うと、少し、気が楽になった様な気がした。


「エラー率急上昇!二十%超過!」

管制局が騒然とする。

オペレーターの手が止まり、言葉を失う。

エラー率だけが上昇を続けるのを、その場の全員が固唾を飲んで見守る。

指揮官が立ち上がり、焦りを浮かべた顔で叫ぶ。

「何故だ?!コトシロが原因では?!」

叫んだ後、糸の切れた操り人形のように、椅子に崩れ落ちる。

力無く、言葉を絞り出す。

「……コトシロは、排除してはいけなかった……奴が、要石だったのだ……」

モニターで、コトシロの傍にしゃがみ込む若き日のタキムラ博士の姿を見る。

画面に一瞬ノイズが入った気がした。

画面に残されていたのは、一人でしゃがみ込むタキムラ博士の姿だけだった。

エラー率は三十%を超えていた。

誰も言葉を発さなかった。

一体何が起きたのか。

誰も、それを覚えていなかった。

ただ、理由も分からず、時間崩壊が起こる、と言う確信だけを与えられていた。


管制局員の動きが一瞬止まる。

しかし、目の前で繰り広げられている管制局の獣人と別の獣人。

局員の一人が通信機に叫ぶ。

「何が起きている?!本部、応答を!……クソッ!」

分からないが戦闘が起きている。

であるなら、相手は敵だ。

そう判断し、戦闘を継続する。

そうするしかなかった。


「シュウジ!何をしている!離れると私が狙われる!」

ハッとして周囲を見る。

カガリが、物陰に身を隠しながらナオとミケのサポートをしていた。

カガリの許へ戻る。

分からない。

何をしているのだろう。

なんで、戦っているんだろう。

一瞬、ナオと目が合う。

ナオは対峙していた獣人を蹴り飛ばし、こちらに向かってくる。

「ありゃ?ナオちゃんどうしたの?」

ナオの動きを見て、ミケが言う。

首を傾げる仕草を見せるが、ミケは戦闘を継続する。

ナオが、俺の前で立ち止まる。

銀髪がなびく。

その唇が、そっと触れる。

「……ナオ?」

嫌な予感がした。

不安を掻き消して欲しくて、その名前を呼んだ。

ナオは満面の笑顔を作る。

「シュウジ、ありがとう。」

長い銀髪が、陽の光に輝いて見えた。

その姿に、思わず見惚れていた。


カキーン、と、野球部のバットの打撃音が聞こえた。

周囲には会話をしながら歩く学生達。

「――。」

何かに声をかけようとした。

その名が出てこない。

その顔が分からない。

それが、なんであったのかも、失われていた。

何か、大切なものを、どこかに落としてきたような気がした。

膝から力が抜け、その場に座り込んだ。

通り過ぎる学生達が、ちらりとこちらに目を向ける。

けれど、気にすること無く歩き去っていく。

俺は、その場から動けなかった。

ただ、呆然としていた。


私は、学生からのレポートを鞄から取り出し、机の上に重ねていた。

レポートを取り出した後、ファイルに入れられた遺伝子解析結果の紙に気付いた。

「これは……?」

記憶には無かった。

取り出して、それを見る。

人に、猫が混ざったような結果。

「……?不純物が混ざったものかな。……なんでこんなものを?」

それを見ながら暫く考えたが、思い当たるものはなかった。

「まあ、プライバシー情報だしね。」

そう呟き、溶解処理する廃棄物として、その紙を処分する。

外は明るく、晴れた空は、変わらない日常そのものを示していた。


暗くなった頃、部屋へと帰った。

「……ただいま。」

誰も居ない部屋に、挨拶をする。

そう言えば、いつからただいま、と、言う様になったのだろう。

一人暮らしを始めてから、言ってなかったはずだ。

部屋の明かりを付け、鞄を下ろす。

ふと、床に出されたままの、青い猫じゃらしが目に入った。

それを見た瞬間、何か、心にぽっかりと穴が空いたような気がして、涙が溢れた。

泣いたまま、俺は部屋を飛び出した。

何か、それが何かは分からないけれど、それを見付けないといけないと思った。

河川敷や画材屋を巡り、雑貨屋で同じ猫じゃらしを見付けた。

「……なんで……猫なんて飼って無いのに……」

涙が止まらなかった。

迷惑にならないよう、店から出た。

朝が来るまで、涙は止まらなかった。

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