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ネコミミ☆パラドックス  作者: ピザやすし
第四楽章 沈黙の主題

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第19話 不穏の影

書庫でアーカイブに問う。

「カガリマサノリについて、アーカイブに残っている情報を教えてくれ。」

コトシロの問いに、端末が答える。

『カガリマサノリ、と言う人物について、記されている情報はありません。』

返答を聞き、少し考えた後、コトシロは指先を動かす。

「この期間で、カガリ、と言う名の人物、または組織について、教えてくれ。」

『カガリ、と言う名は、シラヌイ商会の取引先として残っています。』

アーカイブの回答に、目を伏せる。

「その名について、教えてくれ。」

アーカイブが感情の無い声で語る。

『シラヌイ商会の取引先の一つ。主な取引内容は、愛玩動物としての獣人、及び軍需産業です。』

その回答に、驚きは無かった。

「……カガリが、その後に与えた影響を教えてくれ。」

一瞬考えるような間を置き、コトシロが尋ねる。

『カガリは獣人を卸していた事が読み取れます。当時の相場に対してかなり低めの価格帯で獣人を売り、獣人の一般普及を推進した、と、評価できます。また、軍需産業への参入時期も的確で、実業家としての勘所の良さが読み取れます。』

アーカイブの回答を聞き、また考える。

旦那は野心家で頭も切れるが、そこまでの実力は無い。

だから俺に、分かった上で利用されている。

シラヌイ商会に名が残るのも当然だ。

俺の取引のフロントに立ってもらっているのだから。

「……旦那に消えてもらうのはまずいか。」

取り得る選択肢を考える。

旦那に伝えた様に、管制局に諦めてもらわなければならない。

誰も退場させてはならない。

「……厄介だな。」

言葉に出ていた。

隠す様にふっ、と、笑い、立ち上がる。

「さて、行きますかね。」

帽子を整え、時空の穴へと踏み出す。

管制局に伝えるのはどうだろうか。

いや、彼等にとって、歴史とエラー率が全てだ。

俺の言葉など聞く耳を持たないだろう。

騒つく心を押さえつける様に、思考を続けた。

この時間を、人の選択を、守る為に。


俺は、大学の構内のベンチに座っていた。

近くのベンチでは、仲の良さそうに話すカップルがいた。

別のベンチではジュースを飲みながら休んでいる学生。

俺は、その明るい日常の中に、沈んだ表情で座っていた。

サキの事が頭をよぎり、漫研の部室には顔を出せなかった。

空は青く澄んでいた。

大きな雲が、ゆっくりと動いているのが見えた。

「シュウジ、話がある。」

不意に声が聞こえた。

声の方を向くと、隣のベンチにコトシロが座っていた。

「コトシロさん……」

あの時、コトシロはサキを助けてくれた。

けれど、そもそも襲って来なければ、サキは怪我を負わなかったはずだ。

そう思うと、眉間に皺が寄った。

コトシロから視線を外し、俯く。

コトシロは、そのまま話を続ける。

「……あの女の事は悪かった。こちらのミスだ。」

コトシロは、ベンチに座ったまま、膝の上で手を組んで話す。

「シュウジ、旦那にナオの事は諦めさせる。……代わりに、手を貸してくれないか?」

「え?」

思わず顔を上げる。

俺たちの前を、通り過ぎる学生が見えた。

「……ナオと、共に居たいだろう?その為にもなる。」

彼は未来の事を殆ど話さない。

恐らく、伝えてはいけないのだろう。

歴史はそうそう変わらない、と、そう言っていた。

話さない、と、いう事は、それが大きな影響を及ぼす、と、いう事だろう。

組んでいたコトシロの手が離れ、右手で左手首を覆う。

「今は答えなくて良い。……ただ、その可能性を検討してくれれば良い。」

言い終えると同時に、歩いていた学生たちが立ち止まる。

そして、一斉にこちらに銃を向ける。

つい先ほどまで聞こえていた話し声も、何も聞こえなかった。

あ、管制局、と、思った。

目をコトシロに向ける。

もう、そこにコトシロはいなかった。

周囲に目を向けるが、そこには、ただ会話をしながら歩く学生たちしかいなかった。

管制局員の姿は、もう無かった。

そこにまだいるのかもしれないけれど、俺には分からなかった。

周囲を見ると、変わらず談笑をするカップル。

ジュースを飲み終え、立ち上がる学生。

それらが、同じままそこにいた。

俺は、急に怖くなった。

当たり前の日常が、作り物であるかの様な、そんな違和感を感じた。

周りを歩く学生たち。

俺は、彼等について何も知らない。

同じ大学に通っている学生。

そこに、異質な存在が混ざっていても、俺は、それに気付けないのだ、と。

自分の知らない所で何もかもを決められている様な、そんな無力さと、恐怖を感じた。

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