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ネコミミ☆パラドックス  作者: ピザやすし
第三楽章 既定路線

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第15話 今を、守る為に

通報者としてサキに付き添い、救急車の後部の座席に乗り込む。

時空管制局員の指示に従い、転倒による怪我として説明した。

救急隊員は、タオルの様なものをサキの頭に当てていた。

救急車が病院に着く。

俺は、サキと同じ大学の友人である事、転倒した際に頭を打った事等、見た事と管制局員の提示した内容を伝えた。

サキはCT室へと運ばれて行った。

暫くして、サキの母親が現れる。

受付で話した後、俺に頭を下げる。

俺も返礼する。

家族が来た事で、俺は解放され病院から出る事になった。

サキの事は心配だったが、これ以上俺にできる事は無かった。

ナオと管制局員はどうしているのだろう、と、思った。

夜の空が、疑問も不安も、全て吸い込んでいく様に感じられた。


私は管制局員と喫茶店に来ていた。

局員はコーヒーを、私はリンゴジュースを頼んだ。

「……色々と、気になる事もあるだろう。多少は私から話せる事もある。それと、代わりに聞きたい事もあってね。」

私の目を真っ直ぐに見て言葉を紡ぐ。

「……あなたたちが来たって事は、未来に影響があるって事でしょう?」

思った事をそのまま尋ねる。

時空管制局は時間の番人。

歴史を守る為に動く。

私の存在が、歴史を壊す可能性が高まったから来たはずだ。

……サキが怪我をした様に。

局員は表情を変えずに答える。

「……現時点で、君を元の時間に戻す様な指示は受けていない。私が答えられるのはそれくらいだ。」

局員の回答は、私はまだここにいて良い、と言う事を示していた。

私は俯く。

サキの怪我は、恐らく傷跡が残る。

あれが介入の根拠であると思う。

「……私からも尋ねたいのだが、あの場にいたスーツの男は何者なんだい?」

コトシロの事だろう。

「……私を売ろうとした商人。私は逃げたからここにいるけれど。コトシロと名乗っていた。」

コトシロについて、あまり知らない事に気付いた。

彼は、私を回収するのが目的の筈。

あの、撤退の時に見せた動きは、今の私を簡単に捕まえられる筈だ。

何らかの強化が無ければあの動きはできない。

人間にできる動きでは無かった。

局員を伺い見ると、顎に手を当てて、何か考えている様だった。

お待たせしました、と、コーヒーとリンゴジュースが置かれる。

局員が、ミルクと砂糖を入れながら、ブラックは飲めなくてね、と、笑う。

ストローでジュースを吸う。

口の中に甘さと良い香りが広がった。

その後も穏やかなやり取りをして、喫茶店を出た。

では、と、彼は右手を顔の横に挙げ挨拶をする。

私も、ありがと、と短く返事をする。

局員の去って行く、その背を見送った。

彼は、私の事よりもコトシロの事を気にしている様だった。

顔を上げると、星空が見えた。

星の光から、遠い時間の流れを感じた。


「終わりだ……管制局に目を付けられた……」

旦那が頭を抱えていた。

ソファでコーヒーを飲みながら、旦那に話す。

「……それで、これからどうする?黙って管制局に捕まるかい?……それとも、抗うかい?」

旦那に、自分が主導権を握っている、と、思わせておいて、裏で自分が立ち回らなければならない。

面倒な役回りだな、と、思った。

「管制局は、エラー率を基準に動いている。これ以上エラー率を上げなければ良い。エラーは世界に是正される。」

そう言ってカップを口に運ぶ。

「……回収すれば、全て解決する筈なのだ。そうすれば、管制局も……」

旦那が拳を震わせながら呟く。

周囲に気配を感じて旦那に伝える。

「……旦那、お客さんが来た様だ。」

カップをテーブルに置く。

言葉を発しながら、これからの立ち回りを考えていた。

旦那に管制局の相手をしてもらわないと。

自分は、管制局に手を出せないのだから。


「動くなっ!」

部屋に踏み込み、叫ぶ。

室内には誰も居なかった。

隊員が室内を調べていく。

テーブルに置かれた、まだ温かい飲みかけのコーヒーを見る。

右手を耳に当て、連絡をする。

「未知因子、コトシロは既に逃走。残留データを送る。」

そう言ってカップとソファをスキャンする。

「……何故、未来側は動かない?」

隊員の呟きが、広い部屋の中に消えて行った。


管制局ではオペレーションルームで議論が交わされていた。

「今回のエラー率増加に関し、未来由来存在と思われる、未知因子の存在があります。以後、この存在をコトシロ、と、呼称します。」

現地に行った隊員が説明する。

その報告を、指揮官が静かに聞いていた。

直後、コトシロの潜伏先に踏み込んだ部隊から、データが送られてくる。

分析官がデータを見て報告する。

「ほぼ間違い無く、コトシロは未来の存在です。既存アーカイブにも、その記録は残っていません。」

指揮官が報告を受けて、判断を下す。

「……コトシロを、時間崩壊を招く危険因子と判断。排除を決定する。……我々が守るのは今、だ。未来の可能性の一つを排除しても、今が変わる事は無い。」

その決定に皆が頷く。

局員たちが慌ただしく動く。

時間崩壊に対処する為に。

自分達の今を守る為に。

指揮官が遠くを見て呟く。

「未来側の不始末は、そっちでやってもらいたいものだがな……」

時の番人である時空管制局。

今に至る歴史を保つ為の組織。

指揮官が指示を出す。

「……遺伝子操作の父と共に居たとされる獣人が、どこから来たものか、アーカイブにアクセスしてくれ。」

時空管制局のアーカイブには全てが残されている。

そこにコトシロの名も、未来からの介入の記録も無い。

で、あれば、コトシロの排除は妥当な判断の筈だ。

目を瞑り、考える。

エラー率の急上昇。

未来由来の未知因子の干渉。

危険因子はそれのはずだ。

判断にミスは許されなかった。

ミスは時間崩壊を実現させる。

これまで対処した事例でも、大丈夫だった。

エラーを招く未知因子。

胸に渦巻く不安は、どれだけ考えても消える事は無かった。

しかしそれも、これまでと同じ事。

負う責任に対する、自身が感じる不安だ、と、そう思い込む事にした。

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