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ネコミミ☆パラドックス  作者: ピザやすし
第三楽章 既定路線

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第13話 川と小石

書籍の積み上がった一室で、コトシロがデジタルアーカイブに尋ねる。

「タキムラ博士が、晩年方針を転換した理由は?記録には?」

葉巻を咥え、回答を待つ。

『明確な理由は残されていません。しかし、ミゾグチ博士との決別があった事が記録されています。』

煙を吐きながら考える。

保守を支持し続けた側か、と。

『幾つかの学会でのやり取りから、私怨に近い対応をタキムラ博士が取っていることが分かっています。』

あの時代の獣人の寿命は、精々三十年程度。

寿命を迎えたとすれば、シュウジは五十くらいか。

「……晩年の方針転換、ね。」

書棚を見上げ、煙を吐き出す。

感情のない声が、その呟きを拾う。

『明確な理由は残されていませんが、ミゾグチ博士との決別と時期が重なっています。』

「……残されていないのか、消されているのか。」

葉巻の火を見ながら考える。

「……なぜ、俺まで組み込まれている。」

ナオがシュウジと居ることが正史なら、物を流したのは俺のはずだ。

旦那が簡単に諦めるとも思えない。

「……遅延行為に努めろ、と。」

俯いたまま言葉を漏らす。

葉巻から立ち上る煙が、深く被った帽子のツバに当たり、歪み、曲がる。

そのまま、コトシロは思索に沈んでいった。

清掃ドローンのモーター音だけが響いていた。


部屋の中で購入した猫じゃらしをゆらゆらと揺らす。

ナオがそれに向かって飛びかかる。

しゅっと引いた猫じゃらしを見たまま、倒立の様な体勢から身体を捻って手で床を押して足を着ける。

しなやかな動きだなぁ、と、その動きを観察していた。

「?……どうかした?」

俺のその様子にナオが尋ねる。

「いやぁ、動きが滑らかで、すごいなと思って。」

感心したままに答える。

「筋肉の付き方も人とは違うからね。骨格は似てるけど。」

そう言って、腕のストレッチをする。

「もっと身体を動かしたくなっちゃった。出かけよ?」

ナオは言いながらドアに向かう。

慌てて立ち上がり、その後に続いた。


河川敷のベンチに座り、青い空を見上げていた。

ナオは子供たちと一緒に走り回っていた。

隣に誰かが座るのに気付いてそちらを向くと、そこにコトシロがいた。

コトシロは相変わらず黒いスーツをきちんとさせて、帽子を深く被っていた。

サングラスに隠された目は見えなかった。

コトシロが葉巻を取り出しながら話し出す。

「……未来、と言うものについて、少し教えよう。なに、お前の将来の話じゃないさ。」

葉巻の先をじっくりと火で炙りながら続ける。

「以前、未来が変わる可能性の話をしたのを覚えているか?」

ナオの存在が、時間の歪みを引き起こす、と、コトシロはそう言っていた。

「しかしな、世界ってのは案外頑丈なんだ。少しの影響なら無かったことになる。……勘違いや、間違い、そう言ったものとして、世界はエラーを訂正する。小さな影響が未来に波及する事はほぼ無い。」

コトシロは視線を川の流れに向ける。

ナオが子供たちと一緒に、小石で水切りをしていた。

「……歴史が川の流れであるなら、幾ら小石を投げた所でその流れは変わらない。小さな波紋は生じるかも知れんが、川の流れが変わる事はない。」

煙を吐き出し、持ち歩いているケースに灰を落とす。

「……川の流れを変える程の外圧が無ければ、未来なんてそうそう変わらないんだ。」

言った後にコトシロが上流に目を向ける。

つられてそっちを向く。

重機が河川工事をしているのが見えた。

コトシロに尋ねる。

「……なぜ、俺にそんな話を?あなたは、ナオの本来の所有者の仲間なんじゃ?」

コトシロは葉巻を吸い、ゆっくりと煙を吐いた後に答える。

「……あの旦那とは仕事上の付き合いだ。利があるから共にいる。それだけだよ。」

コトシロの表情は読めなかった。

俯くと、コトシロが立ち上がり言葉を続ける。

「利があればシュウジとだって組むさ。それが商人ってもんだ。利と信用。今だって信用される為に話しているのさ。」

その顔を見ると、口元に笑みが浮かんでいた。

そして、コトシロは去って行った。

水切りをしていたナオと子供達は、誰が大きな飛沫を上げられるかを競っている様に見えた。

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