第1話 空から猫耳美少女が!
バイトを終え、自分で張った値引きシールのついたおにぎりの入った袋を持って歩く。
突然、目の前に現れた影に押し倒される。
「うわっ!」
思わず閉じた目を開けると、透き通るような長い銀髪、白いワンピース、頭に猫耳を付けた美少女がいた。
その、吸い込まれるような大きな青い瞳が、コンビニ袋に向く。
「……それ」
「えっ……?」
事態が飲み込めず、固まっていると、少女の腹が鳴る。
「……お腹空いた。」
猫耳がくたりとする。
――あれ?今、耳が動いた……?
と、そこで自分の上に、女の子が乗っていることに気が付く。
「う、うわあっ!」
思わず撥ね退けてしまう。
少女は、しなやかに身を捻り、音もたてず片足で着地をする。
ふわりと広がるワンピースの裾に寄り添う尻尾が見えた。
「ご、ごめん!」
少女は特に気にする様子も無く言う。
「それ、美味しそう。」
ずっと少女の視線の先にあったコンビニ袋に目を向ける。
「……あ、これ?」
袋からおにぎりを出すと、擦り寄って来る。
「え、えっと……」
顔が熱くなっているのが分かる。
「あ、おにぎり!食べる?」
「……良いの?」
気を逸らすように慌てておにぎりの包装を取り、少女に渡す。
「はいっ!」
と、少女はあろうことか俺の手ごと掴み、おにぎりを食べ始める。
ざらりとした感触に、心音がテンポを上げる。
食べ終わると漸く解放される。
顔が熱く、少女の方を見れなかった。
「ありがとう。ご主人様。」
「へっ?」
そう言うと少女は腕に絡みついて来る。
反対側からは尻尾でくるまれてしまった。
「……えっと、あの、少し離れてもらえると……」
そう言うと少女はすぐに離れる。
表情に変化は無かったが、尻尾が力なく下がる。
「そ、それじゃ、俺、もう帰るから!」
そう言って、逃げるように立ち去った。
アパートの部屋の前に着くと、先ほどの少女がいた。
「あ、遅かったね。」
一瞬何も考えられなくなったが、直ぐ尋ねる。
「ど、どうしてここに?!」
「匂いで、分かるから。」
思わず自分の袖の臭いを嗅ぐ。
……少し汗臭いかもしれない。
「……早く入ろ?」
「へ?」
この子は何を言っているのだろう。
そう思っていると、首を傾げて尋ねてくる。
「ここに住んでるんでしょ?」
「え、まあ、そうだけど……?」
何か自分の方が間違っているような気がして、言われるまま鍵を開ける。
ドアを開けるとするりと少女が中へと入りこむ。
「お、おい!」
慌てて後を追って入ると、既に少女が寛いでいた。
身体を丸めてだらりと床に伸び、尻尾がゆらゆらと床を撫でていた。
「……すーっ……すーっ……」
既に寝息を立てている少女を前に、よく分からない疲れがどっと沸き出た。
「……シャワー浴びて寝るか。」
疲れて幻でも見ているのかもしれない。
うん、きっとそうだ。
寝たらこの子もいなくなっているに違いない。
「……おやすみ。」
一応挨拶はして、布団に入る。
ワンルームに響く、少女の寝息が気になり、なかなか眠りに就けなかった。