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開国祭と新たな出会い⑩


早朝の王都は、昨日までの祭りの喧騒が嘘だったかのように、しんと静まり返っていた。

人の気配もまばらな石畳の道を、カイたちはゆっくりと歩く。目的地は、リオネルとの待ち合わせ場所――東門前の広場だ。



「……また、つけられてる」



ティアが、ひそりと口を開いた。猫耳がピクリと動き、黄金色の瞳が後方を警戒している。



「今回のは足音、隠せてない。人数も、多い」



「ふぅ……誰かは、だいたい想像つくな」



カイが呆れたように肩をすくめると、背後から男の怒声が響いた。



「待てっ!」



振り返ると、案の定、貴族エルムが仁王立ちしていた。贅沢なローブに身を包み、どこか疲れた顔で睨みつけてくる。



「最後の忠告だ。その獣人を渡せ。渡さないなら、命はないぞ」



その背後から、黒服の男たちがずらりと姿を現す。数は十――全員が武器を抜き、ただならぬ殺気を放っていた。



「ティアはもう、俺たちの仲間だ」



カイは一歩前に出て、静かに告げる。



「絶対に、渡さない」



「――やれ!」



エルムが叫んだのと同時に、男たちが一斉に突進してくる。だが次の瞬間、数本の矢がカイの背後から男たちの群れに向かって放たれた。



「ぐあっ!?」「肩が……くそっ!」



鋭く放たれた矢が、三人の男の肩に突き刺さる。彼らは叫び声を上げながらその場に崩れ落ちた。



「……あたしは、カイとリーナと一緒にいる。あんたなんかに、死んでも捕まらないよ!」



振り返れば、ティアが弓を構えていた。小さな身体にみなぎる気迫。カイが事前に渡していた毒矢が、彼女の手によって的確に敵を射抜いていく。




この弓はカイが昨夜、簡易的に作ったものだが、ティアの《五感強化》のスキルによる精密な射撃と、毒矢の効果で絶大な威力を発揮していた。



「怯むな! いくぞ!!」



男たちは叫びながら突撃してくるが、ティアの矢に一人、また一人と倒れていく。

接近を許した三人には、カイが麻痺毒の毒鞭を叩きつけ、一瞬で動きを封じる。

さらに残る二人は、リーナの《氷炎(アイスバーン)》によって氷の檻に閉じ込められた。



やがて、エルムだけがその場に取り残された。



「見てわかったと思うが――俺は毒を操れる」



カイはゆっくりと歩み寄り、冷たい瞳でエルムを見下ろす。



「ティアにもう一度ちょっかい出したら……お前に地獄を見せてやる」



「ま、待て!お前たちを護衛として雇いたい!金ならいくらでもやる!貴族のもとで働けるなんてお前らには光え――」



その言葉を最後まで聞くことなく、カイは左手から禍々しいほど漆黒の液体をエルムの顔にぶちまけた。



「――死神の晩餐(グリム・ダイナー)だ。地獄の苦しみを味わえ」



「ぎゃあああああああっっ!!」



エルムは地面に転がり、泡を吹いてのたうち回る。まるで内臓を焼かれるような激痛に、貴族の威厳も何もない。ただ、惨めに叫ぶ声だけが響いていた。



しばらくして、カイは解毒薬の瓶を取り出し、エルムの顔にぶっかける。



「今のはだいぶ薄めてあるんだ。次、俺たちの前に姿を見せたら……その原液を、飲ませる」



「ひ、ひいいぃ……ご、ごめんなさいぃぃぃ!!」



エルムは涙と鼻水を垂らしながら、ふらふらと立ち上がり、脱兎のごとく逃げ去っていった。



こうして最後の一悶着は終わり、静寂が戻る。

カイたちは軽く息を整えると、リオネルのもとへと歩き出した。



新たな仲間・ティアを加え、彼らは静かに、だが確かな絆を胸に――

ノルデナの街へと、帰っていく。


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