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開国祭と新たな出会い⑨

宿に戻った三人は、ロビーを抜けて自室へと向かう。部屋の中には、開国祭の喧騒とは無縁の静けさが広がっていた。



簡単に荷物を置いた後、カイは椅子に腰を下ろし、ティアに視線を向けた。



「……言いたくなければ無理にとは言わない。でも、もし良ければ聞かせてくれ。ティアは何かスキルを持ってるのか?」



ティアは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに頷くと真っ直ぐにカイを見返した。



「あたしは《五感強化》っていうスキルを持ってるんだ」



「《五感強化》……?」



「うん。視力を強化して、昼も夜も関係なく遠くの物を見通せる。聴覚も強くなってて、さっき尾行のときみたいに小さな音でも聞き分けられるし、匂いにも敏感。」



ティアはそう言いながら、指先を軽く動かして見せる。



「それに触覚も強化されてて、指先の感覚が鋭くなるから鍵開けとかもできるんだ。弓もね、けっこう得意。昔からずっと1人で狩りをしてたしね」



カイとリーナは顔を見合わせ、自然と感心の色を浮かべる。



「なるほど……それは、かなり優秀なスキルだ。戦闘だけじゃなく、索敵や潜入でも活躍できる」



カイは静かに息を吐き、少し言葉を選ぶようにして続けた。



「……ティア。もし良かったら、俺たちの仲間にならないか? 冒険者として、一緒に旅をしていこう」



その一言に、ティアの金色の瞳が大きく揺れる。



しばし沈黙が落ちた後、ティアはポツリと呟いた。



「……あたし、ずっと1人だったんだ。獣人の村にいたけど……親もいないし、狩りをして生きてきた。誰かに頼ることも、助けてもらうこともなかった。でも……」



言葉が詰まり、肩が震える。



「カイとリーナは、あたしを助けてくれた。……もうあたしを1人にしないで……お願い……!」



ティアの目から、ぽろりと涙がこぼれ落ちる。リーナはそっと彼女に歩み寄り、優しく抱きしめた。



「……1人になんて、させませんよ。これからは、ずっと一緒です。旅も、冒険も、喜びも、不安も……分かち合いましょう」



その言葉に、ティアは顔を埋めるようにして、声を殺して泣いた。



こうして、ティアはカイとリーナの正式な仲間となった。



* * *



翌日――。



開国祭の最終日、王都は最高潮の賑わいを見せていた。



カイたち三人は、街のあちこちを回り、屋台の料理に舌鼓を打ち、見世物や催しに笑い合った。ティアもすっかり明るい表情を取り戻し、リーナと手を繋いで屋台のリンゴ飴に夢中になっている。



そんな光景を見て、カイは密かに胸を撫で下ろした。



夕暮れが迫り、祭りの喧騒も徐々に落ち着きを見せ始めたころ。三人は、再びリオネルの元を訪ねた。



店の前ではリオネルがにこにこ顔で出迎え、なぜか豪勢な酒樽を抱えて上機嫌だった。



「いやぁ、まさかここまで儲かるとは思いませんでしたよ! 開国祭、最高ですね!」



「それは良かったです。それで……明日からの護衛の件は大丈夫ですか?」



「もちろんですとも!」とリオネルは力強く頷く。



「明日の早朝、王都の北門前でお待ちしております。どうか、よろしくお願いしますね、英雄殿!」



こうして、カイたちはリオネルの護衛として、王都からグランツへの帰路につく準備を整えていく。



その夜、宿の部屋には三人分の寝息が穏やかに響いていた。

だが、平穏な旅路の先に、“最後の波乱”が待ち受けていることを、彼らはまだ知らなかった――。


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