表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/91

開国祭と新たな出会い⑦

その後、三人は何事もなかったかのように祭りを楽しんだ。喧騒と煌びやかな光に包まれながら、開国祭一日目は穏やかに終わった。



夜、宿に戻ったカイはリーナの部屋の前で小さく声をかけた。



「……明日は、あの貴族が何か仕掛けてくるかもしれない。警戒しておこう」



リーナは静かに頷く。



「わかりました。ティアさんの護衛も含めて、気を引き締めましょう」



それぞれの部屋に戻った二人は、硬く心に誓いながらも、訪れるべき明日に備えて布団へ身を沈めた。



――そして翌朝。



開国祭二日目も、王都は早朝から活気に包まれていた。屋台の数はさらに増え、昨日よりも人出が多い。熱気と音楽の中、カイたち三人は再び祭りの広場へと足を踏み入れた。



「ねえ、あたし、またあの魚の串焼きが食べたいんだ!」



ティアが目を輝かせて言うと、リーナが思わず吹き出して笑う。



「ティアさんは本当に魚が好きなんですね」



「うんっ!」



昨日と同じ屋台の前に並ぶティアの笑顔に、カイも自然と表情を緩める。



「じゃあ俺も並んでくるよ。ちょっと待っててな」



カイが列に加わり、屋台の主人と何気ないやり取りを交わしていたそのときだった。



「……っ!」



突然、誰かの肩が強くぶつかってきた。反射的に身を引いたカイの前に、筋骨隆々とした三人の男が立ち塞がった。



「おいおい、なんだその顔は。えらそうに祭り楽しんでんじゃねぇよ」



真ん中の男がニヤリと笑いながら睨みつけてくる。完全な因縁だった。



「邪魔だ、どけ。庶民風情が偉そうに並んでんじゃねぇ」



「……何の用だ?」



カイが静かに問いかけると、男たちはさらに一歩踏み出してきた。背後でリーナがすぐに気配を察し、ティアの肩に手を添える。



「リーナ、ティアを後ろに下がらせてくれ」



「はい。ティアさん、こっちに」



カイがそう言った瞬間、男たちのうち一人が拳を振りかざした。



「カッコつけてんじゃねぇ!」



拳が振り下ろされる――その直前、カイは低く呟く。



「……《ブレス:酩酊毒》」


右の掌から吹き出したのは、深い赤色の霧。その霧が男たちの顔にまともにかかる。吸い込んだ瞬間、真ん中の男がふらつき始めた。



「う、うわ……なんだこれ、ふわふわする……」



千鳥足でバランスを崩した男に、カイは足を引っ掛けて転倒させた。地面に倒れ込み、呻き声を漏らす。



「てめえ、何しやがった!」



残りの二人も拳を振るうが、酩酊毒の効果で足元が覚束ない。よろめいた拍子にカイはまた別の角度から足を払う。三人とも、もはや正気ではない。



「うぅ……動けねえ……立てねぇ……」



路上に転がったまま、男たちは酔っぱらったように意味不明な言葉を呟き続けていた。



そこへ、「何事か!」という声とともに衛兵たちが駆け寄ってきた。誰かが騒ぎに気づき、通報してくれたらしい。



カイはすぐさま事情を説明する。屋台の主人や周囲の客たちも口々に「カイたちに非はない」「向こうが絡んできた」と証言してくれたため、衛兵たちはすぐに三人を拘束して引き渡すことになった。



「ありがとうございます。お手間をかけさせてしまいました」



衛兵に一礼しながら、リーナが小声でカイに囁いた。



「……あれは、昨日の子爵の差し金だと思いますか?」



カイは少し考え込み、首を振る。



「多分な。でも、にしてはお粗末すぎる。嫌がらせ程度だろ」



それ以上、特に目立った妨害はなかった。



三人はその後、夕方まで再び祭りを楽しんだ。開国を題材にした劇が広場で始まり、ティアは夢中でそれを見つめ、リーナは楽しそうに拍手を送っていた。



陽が傾き、夜の帳が降りる頃、三人は宿への帰路につく。賑やかな通りから外れた石畳の道を歩いていると、ティアがふと足を止めた。



「……さっきから、誰かがあたしたちをつけてる」



その一言に、カイとリーナの足も止まる。



「ずっと同じ足音が、昼間から、あたしたちの後ろにあるんだ」



その目は鋭く、真剣だった。リーナが息を呑み、カイがティアに問いかける。



「全然気づかなかった。そんなこと……分かるのか?」



「うん。出来るだけ音を鳴らさないように歩いてるけど、逆にそれが目立つ。普通の人はあんな足の運び、しないから」



ティアの声に一片の揺らぎもない。



「なるほど……そこそこの実力者、ってことか」



カイはニヤリと笑った。



「なら、わざと路地裏に入って……話でも聞かせてもらおうか」



「……まさか、またあの時みたいに?」



リーナは盗賊に対するカイの“尋問”を思い出し、思わず自分の腕を抱き締めた。



ティアの言葉を信じ、三人は静かに路地裏へと歩を進めた。背後に潜む気配が、本物であることを疑う者はいなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ