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開国祭と新たな出会い⑥

祭りの喧騒に包まれた王都の大通りを、カイたちは食べ歩きを楽しみながら歩いていた。ティアは串焼きの魚を頬張り、リーナは甘い果物の蜜漬けに夢中だ。カイも焼き菓子をつまみながら、何気なく周囲の視線に気づいた。



「……なあ、リーナ。なんか、見られてないか?」



耳打ちするように問うと、リーナはふと視線を巡らせ、すぐに頷いた。



「ティアさんですよ。……この国では、獣人族はとても珍しいんです。それこそ、奴隷として連れてこられた方くらいしか見かけませんから」



「奴隷、ね……」



その言葉に、カイは無意識に眉をひそめた。



この世界では、奴隷制度が公然と存在しているという。戦争捕虜、借金による身売り、そしてティアのように希少種として狙われる者も多いらしい。法律では「奴隷にも最低限の保護」が謳われているらしいが、リーナの話では「バレなきゃ何してもいい」という風潮が強く、陰惨な扱いを受ける者が多いという。



(そんなのおかしいだろ……)



カイが内心で憤っていると、突如背後から太く、肥えた声が響いた。



「その獣人を、どこで拾った?」



振り向くと、そこには金ボタンで装飾された派手な上着に身を包んだ、肥満体の中年男がいた。脂ぎった顔と下品な笑みを浮かべ、取り巻きの男たちを従えている。見るからに権力を笠に着た典型的な成金だ。



「あなた、誰ですか?」



とカイが冷静に聞き返すと、男は鼻で笑いながら名乗った。



「我が名はエルム子爵。この王都東地区を治める誇り高き貴族様だ。口の利き方には気をつけろ、小僧」



その威圧的な態度に、ティアはビクリと肩を震わせると、反射的にカイの背へと身を寄せた。耳が伏せられ、尻尾も不安げに揺れている。



「で、その獣人。いくらで買った? あるいは拾い物か? 私が買ってやる。金ならいくらでも出そう」



そう言って、取り巻きが差し出した袋から、煌びやかな金貨がこぼれ落ちる。一般人なら目を輝かせるであろう光景だが、カイは鼻を鳴らした。



「あのな、子爵さん。ティアは“仲間”であって、“商品”じゃないんだわ。あと……その安物の香水、もうちょっと控えた方がいい。せっかくの祭り飯が臭いで台無しだ」



「なっ……貴族に対してその口の利き方……!」



エルムが顔を真っ赤にし、怒鳴ろうとするが、カイは肩をすくめてさえぎった。



「いや、貴族でもまともな人はいるだろ? でもあんたはその中でも特に“安っぽい”な。金貨見せて命令したら人が動くと思ってるあたり、実に三流だ」



「この私を侮辱する気か!? 貴族に逆らうとどうなるか、思い知らせてやる!」



「それ、脅しか?……ギガントワイバーンを倒してノルデナの街を守った俺達に喧嘩を売るってことか?」



「……なに?」



エルムが一瞬ぽかんとする。だが、カイは構わず続けた。



「冒険者ギルドにでも聞いてみな。ノルデナの英雄が誰だったかってな。俺も目立つのは好きじゃないけど……貴族様ってのは、相手の顔と名前くらい調べてから絡むもんじゃないの?」



「そ、そんなの……」



「それに、ティアは俺たちの"仲間"だ。金で買えると思った時点で、あんたは人を見る目がない。……というか、人を“物”としてしか見てないんだろ?」



カイの声は冷静だが、その目は笑っていない。



「まあ、貴族だからって全員がクズじゃないとは思ってるよ。けど、あんたみたいなのがいるから“貴族”って肩書が軽く見られるんだ。……気をつけた方がいいぜ。世の中って、意外と見てるやつは見てるからな」



真っ向から見下ろすように言い放つと、エルムは顔を真っ赤にしながら唇を噛んだ。



「……ふん、覚えておけ。貴族に楯突いたことを、後悔するなよ」



捨て台詞を吐いて立ち去るエルムの背を、ティアは不安げに見つめたが、カイが振り返って優しく言った。



「大丈夫。俺たちの方が、ずっと“強い”からさ」



その一言に、ティアの尻尾がわずかに揺れ、頬に、かすかな笑みが浮かんだ。

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