最高の防具を探し求めて⑦
火山地帯に足を踏み入れるやいなや、カイは迷わず買ったばかりの冷涼ローブを羽織った。その瞬間、肌を撫でるような冷気が全身を包み、顔がぱっと明るくなる。
「おおっ、まるで冷蔵庫の中にいるみたいだ! これならいける!」
まるで子供のようにはしゃぐカイを見て、リーナもそっとローブを身につけた。
「……確かに、これは涼しいですね。ちょっと感動しました」
冷静な語調ながら、表情は柔らかくほころんでいる。カイは少し得意げに鼻を鳴らすと、リュックを背負い直して進み出した。
火山地帯は、赤黒い岩がごつごつと突き出し、地面からは熱気が絶え間なく噴き出している。ところどころで硫黄の匂いが鼻をつき、地表には微かにマグマがにじんでいるような箇所もあった。気を抜けば汗が噴き出しそうな場所だったが、冷涼ローブのおかげで二人は快適そのものだった。
と、そのとき。地面の岩がぼこりと盛り上がり、そこから赤黒い巨体が這い出してきた。
「っ、出たな……岩甲トカゲの変異種、《溶岩トカゲ》!」
その身体は燃え上がるように赤く、表面は溶けかけた岩で覆われていた。普通の岩甲トカゲ同様の硬質な外皮に加え、火魔法への高い耐性を持つ厄介な魔物だ。
「なら……これでどうだ!」
カイは即座に《溶解毒》を生成し、毒液をぶつける。しかし――触れた瞬間、毒はジューッと音を立てて蒸発してしまった。
「……嘘、だろ!? 蒸発した!?」
毒の蒸発という想定外の展開に、カイは舌打ちして距離を取った。そんな彼に、リーナがやや呆れたように声をかける。
「想定していなかったんですか?」
そう言って、彼女は静かに杖を構えた。
「《氷炎》」
その詠唱と共に、青白い炎のような魔力がリーナの杖から放たれる。まるで氷と炎が融合したような不思議な光を放ちながら、炎は溶岩トカゲへと着弾。次の瞬間、トカゲの赤い身体がじゅわりと黒く変色し、動きが鈍る。
「今のうちに攻撃してください!冷却したのでもう蒸発しません」
「よし、助かる!」
カイは拳に溶解毒をまとわせ、《毒の籠手》で溶岩トカゲの背を殴りつけた。氷炎で冷却された外殻はひび割れ毒が染み込み、今度は毒が蒸発することなく魔物の内部へと浸透する。
「――っしゃああ!」
毒が全身を蝕み、溶岩トカゲはぐらりと身体を揺らし、崩れ落ちた。
「リーナ、その魔法……すごすぎるだろ。何なんだあれ」
「簡単言うと"氷のような冷たさを持つ炎"です。触れた対象を凍結させます。火魔法と水魔法の複合魔法ですよ!」
カイは感嘆の溜息を漏らした。彼女の才能には、いつも驚かされてばかりだ。
その後も火山地帯を探索すると、再び溶岩トカゲの群れが現れた。今回もリーナの《氷炎》で冷却した後、カイが毒攻撃で一掃。息も乱さずに五体すべてを倒しきった。
そして、さらに奥へと進むと――そこには、岩壁の隙間から淡い蒼光を放つ、美しい鉱石の鉱床が姿を現した。
「……あれが、ミストライト鉱石か」
神秘的な輝きに、カイとリーナは思わず見惚れる。しかしカイはすぐに首を振った。
「見とれてる場合じゃない。こんなところ、さっさと回収して脱出しよう!」
暑さと魔物の気配に背を押されるように、二人は慎重に鉱石を回収しはじめた。