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最高の防具を探し求めて⑤

翌朝、カイとリーナはガインから指定された素材のひとつ――ポイズンスレッドワームの糸を求めて、グランツの北に広がる森の奥地へと足を踏み入れた。この先にある洞窟には洞窟を住処とする魔物たちが多く生息している。



「このあたりで合ってるはずだけど……」



リーナが地図を確認しながら歩くと、やがて視界の先に、ぽっかりと口を開けた黒い洞窟が現れた。入口からはぬるりとした空気が流れ出し、独特の湿った臭気が鼻をついた。カイはそこで立ち止まり、昨日のガインの言葉を思い出す。



「ポイズンスレッドワームはCランク。戦闘力は低いが、巣の罠が極めて厄介だ。糸は毒を纏っているし、落とし穴で動きを封じて冒険者を狩る」



それを思い出しながら、カイは自信満々に笑う。



「……罠が多いなら、逆にそれを使えばいい」



「えっ? どういう意味ですか?」



「俺がわざと罠にかかって、ワームを引き寄せる」



リーナは肩を落としながらも、どこか諦めにも似た表情で呆れたように言う。



「……何かあっても知りませんからね」



とは言うものの、リーナの表情に深刻さはない。毒において異常な適応を見せてきたカイのことだ、彼なら何とかするだろうという信頼が、もう無意識に根付いていた。



洞窟に足を踏み入れたカイは、慎重に数歩進んだ後、突如として走り出した。



「おおーい!ワームさん、ご馳走だぞー!」



叫びながら、罠の存在などお構いなしに洞窟内を全力疾走する。案の定、数十秒もしないうちに地面が音を立てて崩れ、カイはそのまま奈落へと滑落した。



「よし、作戦成功!」



着地と同時に彼を包み込んだのは、粘つく毒糸の束だった。全身に絡みつくその糸は、猛毒で獲物の動きを封じ捕食するための罠の一部だが、カイには通じない。彼はにやりと笑いながら、辺りを見渡した。



すると、岩陰からぬるりと長い胴体をくねらせながら、一匹のポイズンスレッドワームが姿を現した。全長は二メートルほど。節だらけの体を引きずりながら、無防備なカイにじわじわと近づく。



「来た来た……よし、試してみるか」



毒糸で身動きが取れないフリをするカイは、そっと右手に毒を纏わせる。間合いを詰め、カイを捕食しようとするワームの顔面にそのまま右手を振りかぶり、豪快に殴りつけた。



「どおりゃああっ!」



毒を纏った拳がワームの顔面に炸裂し、鈍い音とともに、ワームは壁に叩きつけられ、糸をぶち撒きながら痙攣して動かなくなった。



「――撃破、っと。さて、素材を回収……」



手際よくワームの糸を刈り取り、毒腺を傷つけないよう慎重に処理していく。しかし、ふと冷静になったカイは、自分が今“穴の底”にいることを思い出した。



「あ……戻る方法、考えてなかった」



見上げた天井は数メートル上、崩れた足場はつるつるで登れそうにない。上から覗き込んでいたリーナは、呆れたようにため息をつく。



「穴から引き上げるなんて都合のいい魔法、知りませんからね!」



「いや、そこは助けてくれてもいいんじゃないか!?」



とは言えこのままでは拉致があかない。カイは両手に毒を集中し、岩を溶かしながら小さな足場を作っていく。溶解毒の強さを調整し、最小限だけ岩を溶かしてボルダリングのように登っていく。



ようやく地上に這い上がったときには、汗だくで息も絶え絶えだった。



「ぜぇ……ぜぇ……なんとかなった……」



リーナはそんな彼ににっこりと微笑みかける。



「素材、あと三体分くらいお願いしますね」



「……鬼か」



カイのぼやきが、薄暗い洞窟に虚しく響いた。


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