最高の防具を探し求めて④
ガインの案内で火炉のある作業場へと通されたカイとリーナは、鍛冶の熱気と金属の匂いに包まれながら、重厚な作業台の前に並んで立った。壁際には槌や鋏、鍛造用の符具がきっちりと並び、どれも手入れが行き届いている。そこはまさしく、職人の誇りが伺える空間だった。
ガインが椅子に腰を下ろし、腕を組む。
「で、話ってのは?」
カイは一つ頷き、改めて静かに切り出した。
「今の毒耐性防具より、もっと優れたものを作りたいんです。――俺は、毒を操るユニークスキルを持っているんです」
その言葉に、リーナが目を丸くし、すぐに耳元へ顔を寄せて小声で囁いた。
「カイさん、それ言っちゃっていいんですか……?」
「大丈夫。ガインさんの腕は本物だし、ああ見えて口も堅そうだ。それに……こればっかりは、信頼できる誰かの協力が必要なんだ」
そう答えるカイの横顔に迷いはなかった。リーナは少しだけ安心したように頷いた。
カイは右手を出し、集中する。掌に深緑色の水滴が浮かび、それが液状に丸く掌に広がっていく。腐食性を帯びた溶解毒は、見るからに危険な臭いを放っていた。
「……ほぉ、こりゃたまげたな」
目を細めてそれを見ていたガインが、低く唸る。
「そうか。お前は……自分の毒で防具を壊しちまうんだな?」
「……っ。はい、その通りです」
予想外に早い指摘に、カイは驚きを隠せなかった。ガインはどこか誇らしげに笑いながら、顎を撫でる。
「そりゃそうだ。毒の性質によっちゃ、耐性付与でどうこうなる問題じゃねぇ。布や金属自体が耐えられなきゃ話にならねぇからな」
「俺の毒にも耐えられて、なおかつ魔物の攻撃にも破れない。そんな防具を作れないでしょうか」
率直な願いに、ガインは一度目を閉じて考え込んだ。
「……ふむ、そりゃ難しいな」
その言葉に、カイの肩が落ちる。
「やっぱり……無理、ですか」
「――まあ、“普通の職人”ならな」
しかし次の瞬間、ガインはニヤリと口元を吊り上げた。
「俺を誰だと思ってやがる。ガイン様だぞ。無理を通してこそ鍛冶屋ってもんよ」
焔を宿したようなその目に、リーナが小さく笑みを浮かべる。
「じゃあ、作っていただけるんですか?」
「ただし、素材が必要だ。いくら俺でも空っぽの炉からは何も生まれねぇ」
そう言って、ガインは作業台の引き出しから分厚い資料の束を取り出し、ぺらりと一枚を広げて見せた。
「まずは、ポイズンスレッドワームの粘糸だ。あいつは毒を纏わせた糸を巣に張り巡らせて、獲物を絡めて捕まえる。糸自体が毒に強く、腐食や浸透に耐える性質を持ってる。だが……繊維としてはまだ柔らかい」
「じゃあ、それだけじゃ不十分?」
「ああ。だからもう一つ、組み合わせる。ミストライト鉱石だ。青白く輝く鉱石で、魔素を蓄える性質がある。軽くて丈夫、魔力の通りもいい。この二つを使えば……お前の毒にすら耐える上、防御力も兼ね備えた防具が作れる」
まるで構想がすでに頭に描かれているかのように、ガインの手は自然と動いていた。彼の頭の中では、もうすでに図面が引かれ始めているのだろう。
「ただし、どっちも入手は困難だ。ポイズンスレッドワームは洞窟に住む厄介な魔物だし、ミストライト鉱石は火山地帯の魔素鉱脈にしかない」
それでも、カイとリーナは顔を見合わせ――同時に力強く頷いた。
「大丈夫です!」
「素材、絶対に集めてきます!」
その返事に、ガインは嬉しそうに腕を組み直し、火炉に薪をくべ直した。
「……いい目をしてる。楽しみにしてるぜ、若造達。」
灼熱の炎が再び赤く唸りを上げる中、新たな防具誕生への物語が静かに始まっていた。




