最高の防具を探し求めて②
再び応接室に戻ると、シエラは既に気を取り直していた。ギルド内は緊張が続いているものの、彼女の目は冷静さを取り戻し、カイたちを真っすぐに見据える。
「ユリスとあの髑髏の男――彼らの素性は、ギルド側で調査を進める。あとは私たちの仕事だ。君たちは十分すぎる働きをしてくれた」
そう言ってシエラは、分厚い袋を差し出した。じゃら、と中から響く音は、確かな報酬の重みだった。
「これは……ずいぶんと多くないですか?」
「命を懸けた仕事には、それ相応の報酬が必要だからな。……それと、もう一つ。グランツはこの辺りでも有名な職人の街だ。せっかくだから、少し観光でもしていってくれ。外から来た者の目は、街の良さを再発見する手がかりになるから」
その言葉には、“気を張るのはもうやめろ”という彼女なりの気遣いが込められていた。カイとリーナは一礼して部屋を後にし、ギルドを出ると自然と顔を見合わせた。
「今回の依頼、さすがに疲れましたね……」
「だな。とりあえず休むか」
二人はそのまま宿に戻り、ベッドに身体を預けた。緊張の糸が切れたのか、食事もそこそこに、その夜はぐっすりと眠り込んでしまった。
翌朝。柔らかな朝日がグランツの街を照らす中、二人はゆったりとした足取りで街の散策に出かける。石畳の道を歩くたび、軒を連ねる店から職人たちの威勢のいい声が響いてくる。
「グランツって、本当に活気がありますね」
「職人の街ってだけあって、武器も防具も、魔道具もすごく質が高そうだな」
リーナは杖を買ったばかりで、いまだに愛着があるようだった。一方カイは、普段から投げナイフくらいしか使わず、主に自身の毒で戦っている。
「でもな、俺ら……これから髑髏の男と、たぶんその仲間たちともやり合うことになる。毒耐性の防具はちゃんとしたやつを用意しときたい」
「カイさんには毒耐性があるのですから、防具は必要ないのでは?」
リーナが首を傾げると、カイは肩をすくめて苦笑いを浮かべた。
「俺の毒に、防具が耐えられないんだよ。溶けちまう」
「ああ、なるほど……ふふっ」
リーナもつられて微笑む。こんな穏やかな会話が、随分と久しく思えた。
防具屋を目指して歩いていると、広場でちょうど魔道具市が開かれていた。通りに並ぶ露店には、魔導コンロや瞬間冷却瓶など、日常生活を便利にする道具が所狭しと並んでいる。
「わあ、すごい……!」
リーナの目が輝き、ひとつひとつの品に足を止めては感嘆の声を上げる。その中で、ひときわ目を惹いたのは、小さな魔導オルゴールだった。指先ほどの魔石を回すと、淡い光を放ちながら美しい旋律を奏でる。リーナがじっと見つめていたその時、カイはそっとそれを手に取り、店主に代金を払っていた。
「ほら」
差し出されたオルゴールに、リーナは驚いたように目を見開いた。
「えっ……本当にいただいてしまっていいんですか?」
「ああ。たまには、こういうのも悪くないだろ」
照れくさそうに頷くカイに、リーナは両手でオルゴールを抱きしめるようにして、笑みを咲かせた。
「一生、大切にしますね」
その笑顔に、カイの胸にあった重苦しさも、少しだけ和らいだ気がした。




