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最高の防具を探し求めて①

カイの心にはまだ、あの森で見た黒いローブと髑髏の仮面の影が残っていた。瘴気のように纏わりつく不快な感覚。それは単なる敵意ではなかった。何かもっと深く、底知れぬ悪意だった。



ギルドの重い扉を押し開けると、カイはまっすぐ受付へと向かう。受付の奥から姿を現したシエラが、低く告げた。



「カイか。無事でよかった…報告の前にまずは医務室に行って欲しい。生き残った冒険者、ユリスに会ってくれ。」



少し言い淀んだ後、彼女は静かに続けた。



「……お前の口から、森での出来事を伝えてやってくれ。ああいう奴は、下手をすれば一生自分を責める」



「わかった」



短く応じて、カイは医務室へと向かう。



室内には薬草と消毒薬の混じった匂いが漂い、空気がどこか重たかった。窓際のベッドのひとつに、青年が座っていた。細身で眼鏡をかけたその姿は、いかにも気弱そうで、肩は落ち、目の下には深いくまが浮かんでいる。体調の悪さと、何より喪失の痛みがにじみ出ていた。



カイが近づくと、ユリスが顔を上げた。眼鏡の奥にある目が、ゆっくりとカイを見据える。



「……僕に、何か用ですか?」



弱々しいが、落ち着いた声だった。



「ああ。あなた達を襲った魔物は全て俺たちが倒した。ただ、例の男――黒いローブの男には、逃げられた」



ユリスの表情が揺れる。だが、すぐに俯いて、小さくうなずいた。



「……そう、ですか。でも、仇を取ってくれて……ありがとうございます」



そのまま言葉を継がず、沈黙が落ちた。声をかけるべきか、カイは迷ったが、ユリスの沈んだ横顔を見てそれ以上の言葉は飲み込んだ。



***



カイ達は応接室に入ると、シエラと向かい合う形で座り、森での出来事を順に説明していく。



黒いローブに髑髏の仮面をつけた男は召喚士であり、報告にあった魔物――毒牙狼(ヴェノムファング)毒角牛(ヴェノムホーンブル)の他に、見たこともない変異種を召喚していた。そして、最後に召喚した異様な存在――瘴毒巨屍(ヴェノムジャイアント)について。



「あれは明らかに他の召喚獣とは別格だった。毒の濃度も、再生能力も桁違いで……危なかったが、なんとか倒した。だが、召喚士の男には逃げられた」



そこまで話したところで、ふと記憶の奥がざわめいた。髑髏の男が放った、あの一言。



「……あの髑髏の男は、瘴毒巨屍(ヴェノムジャイアント)がBランクパーティを壊滅させたって言ってた。確かに、そう言っていた……」



カイの言葉に、シエラの眉がピクリと動いた。



(ユリスの報告には、瘴毒巨屍(ヴェノムジャイアント)の名は一言も出ていなかった……)



(……待てよ)



カイの脳裏に、一つの疑問が浮かぶ。



なぜ、ユリスはそのことを報告していなかったのか? 髑髏の男の言い分が正しいならユリス達のパーティを壊滅させたのは、毒牙狼(ヴェノムファング)でも毒角牛(ヴェノムホーンブル)でもなく、瘴毒巨屍(ヴェノムジャイアント)だったはずだ。だというのに、ユリスからの報告には、その存在すら記されていなかった。



「……おかしい。瘴毒巨屍(ヴェノムジャイアント)のこと、ユリスは何も言っていなかったんだろ?」



カイが問いかけると、シエラの顔色が変わった。



「まさか……!」



彼女は即座に立ち上がり、部屋を飛び出す。カイも無言でそれに続いた。



二人が再び医務室に駆け込んだとき――そこには、誰の姿もなかった。



開いたままの窓。ベッドは空になっており、まるで最初から誰もいなかったかのように、痕跡すら残されていない。



「ユリス……あいつ……!」



シエラの声は怒りと悔しさに震えていた。その表情には、ギルドマスターとしてだけでなく、一人の人間として、信じていた仲間に裏切られた痛みが滲んでいる。



「髑髏の男と、繋がっていたのか……っ」



カイは歯を食いしばりながら、天井を睨むように視線を上げた。



「俺たちは……まんまと、おびき寄せられたってことか」



今思えば、カイ達が森に来ることも、あの場所に毒牙狼(ヴェノムファング)が現れことも、瘴毒巨屍(ヴェノムジャイアント)が召喚されたことも、すべてが仕組まれていたかのようだった。罠だった。ユリスは最初から、カイ達を誘い出すための“エサ”だったのだ。



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