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毒の影を追え⑥

カイは一度巨人との距離を取り、情報を整理するために深く息を吸った。



瘴毒巨屍(ヴェノムジャイアント)――その巨体のどこからか絶え間なく毒が噴き出している。だが今、カイの頭には明確な理論があった。



(毒を“吐き出している”んじゃない……“吐き出さないといけない”んだ)



あの巨体を維持するには、内部に毒を蓄積しすぎることができない。毒が生命活動そのものであるなら、逆にその循環を乱せば、システムごと破壊できる。毒の逆流――それがカイの狙いだった。



「おい、何を企んでる?」



髑髏のの男が、余裕を滲ませながら声をかけてくる。



「俺の瘴毒巨屍(ヴェノムジャイアント)はな、あの傲慢なBランクの冒険者パーティを壊滅させたんだ。お前ごときが勝てると思ってるのか?」



カイは返事をしなかった。ただ、毒鞭(ポイズンウィップ)を再形成し、静かに思考を巡らせる。



瘴毒巨屍(ヴェノムジャイアント)――確かに高ランクの魔物である。その脅威の理由は、圧倒的な毒性にある。常に霧のように毒を放出し、近づくだけで冒険者の身体を蝕む。だがカイにとって、その毒は何の障壁にもならない。ただの揺れる水蒸気に過ぎなかった。



「俺にとっては、ただ動きが鈍いだけの巨人だ」



そしてカイは疾風のように駆けた。大振りの攻撃を避け、瘴毒巨屍が反応するより早く、溶解毒の鞭がその膝裏に食い込む。



バチィンッ!!



粘性のある腐肉が砕け、骨に染み込むように鞭が絡みつくと、巨人のバランスが崩れた。体重に耐えきれず、ぐらりと揺れて――



ズズン!



地面を揺るがす音と共に、巨体が崩れ落ちた。カイはその隙を逃さず、巨人の背へと跳び乗る。



毒の籠手を強く握りしめ、肩甲骨の間に向けて拳を叩き込む。溶解毒が腐肉を焼き裂き、骨の隙間から奥へと侵食していく。そして、カイは毒をを切り替えた。



「お前の毒、借りるぞ」



《瘴毒霧、展開》



瘴毒巨屍(ヴェノムジャイアント)から紫煙が溢れ出す。濃密な毒霧が拳を通じて巨人の体内へと注ぎ込まれていく。カイの身体が限界に近づくのが分かる。だが、止めない。こいつの毒を、こいつ自身にぶつける。



「ガ、オオオオアアァァァァ!!」



瘴毒巨屍が咆哮をあげ、のたうち回る。その身に充満する毒が限界を超え、体内のバランスが崩壊していく。肉が破れ、骨が軋み、内部から泡立つように毒が噴き出した。



「……崩壊しろ」



カイが最後の力で毒を押し込んだ瞬間――。



ドグゥン!!!



瘴毒巨屍(ヴェノムジャイアント)の体が、まるで内側から炸裂するように破裂した。骨と腐肉が四散し、紫の液体が辺りに飛び散る。吹き飛ばされたカイは地面を転がるも、毒耐性のおかげで傷は浅い。彼はすぐに体勢を立て直し、倒れているリーナのもとへと駆け寄った。



「……リーナ、今、解毒するからな」



懐から解毒薬を取り出し、震える手で彼女の口元に流し込む。リーナのまぶたが、ゆっくりと震えた。



だがそのとき――。



「へぇ……」



森の奥、木の陰から響く低い声。髑髏の男が、カイに向かって言う。



瘴毒巨屍(ヴェノムジャイアント)、たった一人で、ねぇ……いやあ、驚いた。本当に。面白い。実に、面白い」



その言葉の裏には、冷たい本音が隠れている。まるで次の実験材料を見つけたかのような、底知れない好奇心。



「……手持ちはもう無くなったし、今日はここまでにしておこう。君は実に“実験体として優秀”だ。また会おう、少年。今度はもっと、深い毒を見せてくれよ?」



「待て……っ!」



カイは咄嗟に声を上げたが、一歩を踏み出すことはできなかった。全身が鉛のように重く、膝が震えている。



運動量は勿論、新技の多用、限界ギリギリの瘴毒霧生成。すべて負担が身体にのしかかっていた。



(今の俺じゃ……追うことが出来ない……)



無理に追おうとすれば、今度は自分が倒れる。何より――リーナが、まだこの毒の中に倒れている。



カイは悔しげに歯を食いしばったまま、霧の中へと消えていった男の気配を見送る。



「……リーナ、待ってろ。今、すぐに解毒するからな」



毒霧に包まれた静寂の森で、カイは肩を震わせながら、ようやく呼吸を整えた――。


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