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毒の影を追え④

森の奥深く、毒の気配が徐々に強まり始めた。地面には不自然な紫色の苔が広がり、木々の葉は黒ずみ、枯れ落ちた枝からは毒液のような滴が垂れている。空気も淀んでおり、リーナが顔をしかめて口を開いた。



「……湿地の時と、似ていますね。この辺りだけ、異様な毒の反応を感じます」



周囲には、毒々しい体色を持つ甲虫や、異形の触手を持つ虫型魔物が這い回っていた。カイはそれらを警戒しつつ、森の中心部へと足を進めていたが――そのとき、どこからか不気味な声が響いた。



毒牙狼(ヴェノムファング)を倒したのはお前らか?」



不意に現れたその声に、カイとリーナが身構える。木陰から姿を現したのは、漆黒のローブに身を包み、髑髏を模した仮面を被った男だった。仮面の奥からは、どこか楽しげな声色が響き、ゆらりと気味悪く歩み寄ってくる。



「あいつらの見た目、好きだったんだよなぁ。黒い毛並みに、あの狂った眼……可愛かったろ?」



その口調はどこか愉悦に満ちている。カイは一歩前に出ると、怒気を滲ませながら問いかけた。



「全部……お前がやったのか?」



すると男は仮面越しに声を弾ませた。



「“俺たちは”実験しているだけさ。たまたまそこに冒険者がいて、ちょっと協力してもらっただけだよ。勝手に死んだんだ、気にするなって」



カイの拳が震える。怒りが体の奥から噴き上がり、彼の瞳が鋭く細められた。



「……ヒュージポイズンスライムを、湿地に放ったのも、お前か?」



すると男は驚いたように声を上げた。



「あれを倒したの、お前らだったのか……なるほど、じゃあ仇を討たないとなぁ」



その言葉と同時に、地面が紫色に光る。複雑な図形が描かれた魔法陣が出現し、そこから異形の魔物が次々と現れる。長大な牙を持つ蛇のような巨牙蛇ヴェノムヴァイパー、紫色の毒角をもつ牛型の毒角牛ベノムホーンブル――どれもこの地に生息するはずのない、変異した毒の魔物たちだ。



「召喚士なんですか!?」とリーナが驚きの声を上げる。



「珍しいのか?」とカイが問い返すと、リーナはすぐに説明を始めた。



「召喚士自体はそれなりにいますが……基本的に戦闘能力は低く、普通はDランク程度の索敵や荷運び用の魔物しか扱えません。強い魔物程契約が難しく、戦闘型の魔物を召喚できる者はほとんどいないのです。これは――相当の実力者です!」



その言葉に、カイは表情を引き締めた。



「強いってのは分かった。それでも……お前のやってることは、許せねぇ!」



カイは怒気を込め、右手に毒を集中させた。溶解毒が腕を覆い、鞭のように形を変える。



毒鞭(ポイズンウィップ)!」



毒の鞭が唸りを上げ、ヴェノムヴァイパーの首を裂く。肉が焼け爛れ、魔物は悲鳴のような鳴き声をあげて崩れ落ちた。さらに、カイは溶解毒を右拳に纏わせる。



毒の籠手(ポイズンガントレット)!」



カイの拳が腹にめり込むと同時に、毒が内部で爆ぜるように拡がった。

ベノムブルの全身がびくりと跳ね、その口からは紫の泡を噴き出す。呻き声をあげる暇もなく、巨体が重力に負けるようにその場に崩れ落ちた。



それを見た髑髏男の仮面の奥から、愉快そうな笑い声が響いた



「お前……毒を操れるのか?面白いな。なんでだ?どうやってその力を手に入れた?」



「教えるわけねぇだろッ!」



カイは怒声をあげながら攻撃を続ける。その隙を縫うように、リーナが詠唱を開始した。



「六連火弾!」



空中に六つの炎球が浮かび、追尾軌道で魔物たちを追い詰める。火球が炸裂し、爆音と共に炎が広がった。



――ドォンッ! バシュゥゥンッ!



立て続けに魔物たちが焼かれ、戦場は一気に浄化されたかに見えた。しかし、男は静かに、もう一度手をかざした。



「お前は邪魔だな」



大きな魔法陣が地面に現れ、今度は毒々しい羽音と共に、十数体の鳥型魔物――毒烏ヴェノムクロウが出現し、リーナに襲いかかる。



「《ボルトクラッシュ》!」



雷撃が周囲に奔り、毒烏達を撃ち落とす。しかし、リーナの死角を突いた毒烏が羽を鋭く振るい、リーナの肩口を切り裂いた。



「っ――!」



毒耐性ポーションを飲んでいたはずのリーナの動きが止まる。全身に痺れが走り、その場に倒れ込んだ。



「リーナ!」



カイが叫び、残った毒烏を次々に叩き落とす。息を荒げながら振り返った時、男は興味深そうに彼を見つめていた。



「お前のことをもっと知りたい……実験体としてな……」



カイが睨みつける中、さらに巨大な魔法陣が展開される。毒霧が舞い上がり、地響きと共に出現したのは――腐敗した肉体を持つ、アンデッドの巨人だった。



「……無理やり連れて帰ればいいか……」



髑髏の仮面の下で、男は不気味に笑った。カイの怒りは、今や臨界を超えていた――。


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