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歓喜の影で、毒は育つ③

森の奥深く。木漏れ日が差し込む静かな空間で、カイは一人、ユニークスキルの訓練に取り組んでいた。



「毒を操作できるって言ってたけど、具体的にはどういうことなんだ?」



呟きながら、カイは右手のひらを広げる。意識を集中すると、麻痺毒がじわりと滲み出てきた。薄い黄色の液体が手のひらにたまり、ぬるりとした質感で広がっていく。



「丸くなれ」



念じた瞬間、液体の毒がぴくりと震え、ゆっくりと球状へと形を変えていく。その動きはまるでスライムのようで、最終的には卓球の球ほどのサイズにまとまった。



「……おお。動いた……!」



驚きと同時に、妙な達成感が胸に湧いた。毒はただ出すだけじゃなく、形も変えられる。ならば――と今度は細長く伸ばしてみたり、波紋のように広げてみたりと試していく。



わかったのは、毒は自分の体に接している限り、柔らかい粘土をこねるように、自分の意思で自在に形を変えられるということだ。



だが、毒が手のひらから離れた瞬間――それはただの液体となり、カイの指示には反応しなくなった。



「なるほど……一度、体から離れたら制御できないんだな」



それはある意味、当たり前の制約ではあるが、戦闘で使うには工夫が必要になりそうだった。



次に、毒をどれだけ生成できるかを試す。



最初は先ほどの卓球玉サイズ。次にテニスボール、続いてハンドボール。そしてサッカーボールのサイズへ――。量が増えるにつれて、指先が熱を帯び、額に汗がにじみ始める。



「もう少し……!」



そう思ってバスケットボール大にしようと力を込めた瞬間、カイの視界が一気にぐらりと傾いた。



「うっ……!」



全身に疲労が押し寄せ、膝ががくんと折れかける。なんとか倒れる前に木にもたれかかり、荒い息を整えた。



「……あっぶね。限界は……流石にある、か」



毒を生成するほどに、まるで魔力が削られるような疲労感が溜まっていく。ゲームでいうところのMP、あるいはスタミナのようなものが、確かに存在しているのだ。



「休めば……また出せるのか?」



数分ほど木陰でじっとしてから、再度、麻痺毒を生成してみる。少量ではあったが問題なく成功した。時間が経てば回復する。つまり、多用や連発は出来ないので計画的に使わなければならないということだ。



充分に休憩を取り、最も強力な毒《死神の晩餐(グリム・ダイナー)》を生成する。



「……はぁ……!」



集中し、右手に力を込める。紫黒色の液体がにじみ出てくると同時に、またしても強烈な疲労感が押し寄せた。先程の麻痺毒の半分の量も出していないのに、目の奥がずきりと痛み、脚が震える。



「……強力な毒ほど体力を使うのか……」



カイは木に背を預けながら、じっと手の中の毒を見つめた。



「けど、使い方次第では――こいつは、最強の武器になる」



制限はある。扱いを誤れば、自分が倒れる。毒で敵を仕留められるが、毒を使いすぎれば、その毒は自分に牙を剥く。



まさに、それは毒の性質そのものだった。



そして彼は、何よりもそれを面白いと思っていた。


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