歓喜の影で、毒は育つ②
「カイさん、あのとき……戦いの最中、手から毒を出していませんでしたか?」
リーナの問いかけに、カイは一瞬言葉に詰まった。やっぱり見られていたか――内心で苦笑しながら、いつもの調子でごまかそうとする。
「いやー、それは……気のせいっていうか、見間違えというか……」
「……カイさん?」
じっと見つめてくるリーナの瞳は、いつになく真剣だった。ふざけても通用しない。そう悟ったカイは、短く息を吐き、ベッドの端に腰かけた。
「……うん。実はな、ギガントワイバーンとの戦いの途中で、俺……スキルが進化したみたいなんだ。なんというか……体の中から、毒を生成できるようになってて……たぶん、ユニークスキルだと思う」
「ユニークスキル……! 本当に存在するなんて、信じられません……!」
「うん、正直、自分でも信じられてないんだけど……ただの毒好きがこんなことになるなんてね……」
「でも、まだ詳しいことは分かってない。だから、これから試してみようと思ってる」
目を丸くするリーナに対し、カイは右手の人差し指を掲げた。
「まずはこれだ。……麻痺毒」
そう呟くと、指先に黄ばみがかった、ねっとりとした液体が一滴、にじむように現れた。続けて、激痛毒、酩酊毒、溶解毒と、それぞれの性質を持つ毒が順に生成される。色や粘度は微妙に異なり、いずれも独特な臭気を放っている。
「……ほんとに指先から毒が出てる……毒そのものになっちゃったんですね、カイさん……」
「毒そのものって……言い方!」
カイが苦笑いで突っ込むも、リーナはわりと本気のトーンだった。
「でも、すごいです。これだけの種類の毒を出せるなんて……」
「ありがとな。でも、これで終わりじゃない。もう一つ、確かめたいことがある」
そう言ってカイは、自身の毒生成のスキルを使って、致死レベルの毒《死神の晩餐》を人差し指に生成した。そしてためらいもなく、それを口元へ――
「ちょ、カイさん!? 何をっ――!?」
リーナが慌てて止めようとするも、構わずカイは毒を舌に垂らした。数秒の沈黙ののち、彼は感心したように頷く。
「……なるほど。色々な味が複雑に混ざってて、なんていうか……薬品っぽい匂いに、溶解毒の炭酸っぽい刺激があって……ドクターペ〇パーみたいだな」
「……ど、どくたーぺ〇ぱー?」
「俺の故郷の炭酸飲料の名前。クセが強いけど、俺は好きだったな」
リーナはぽかんとしながらも、そっと一歩距離を取った。
「……カイさんって、やっぱり……変人です」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
それでも二人の間には、どこか和やかな空気が漂っていた。




